David Blecken
2017年12月15日

アニメ、コンテンツ、透明性 −− ベインキャピタルはADKをどう変えるのか

紆余曲折を経て、買収劇はとうとう完結した。今後、ベインキャピタルとADKは様々な課題と向き合っていく。本当のチャレンジはこれからだ。

ADKは人気の高いドラえもんの共同著作権を有している。ベインキャピタルはADKのアニメビジネスに潜在性を見出した。(写真:北村敏史 / AFP)
ADKは人気の高いドラえもんの共同著作権を有している。ベインキャピタルはADKのアニメビジネスに潜在性を見出した。(写真:北村敏史 / AFP)

ベインキャピタルはこの2カ月間、数々の障壁を乗り越えて信用の獲得に努めてきた。国内広告3位のADK買収という、前例のない取引を成立させるためだ。これから乗り出すADKの改革は、今までよりも更に困難な道のりになろう。達成には時間がかかるだろうが、少なくともビジネスチャンスはどこにあるのか、ベインははっきりと把握しているようだ。

ADKの将来像を描くために、両社がなぜこの買収を望んだのか改めて理解しておく必要があるだろう。ADKはWPPとの資本・業務提携関係によって失った「自由」を取り戻すため、株式の非公開化が必要と考えた。今回の件でADKがどのような権利を得たのかは、まだ明確ではない。同社広報はこの点に関してCampaignの質問に答えなかったが、大きな方向性は既に3つほど示されている。

まず、「デジタル重視」の姿勢だ。だが61年の歴史を通してテレビを優先してきた企業にとって、この転換は決して容易ではないだろう。更に、植野伸一代表取締役社長兼CEOは直近の声明で「真の“コンシューマー・アクティベーション・カンパニー”になる」と語った。そして3つ目が、「海外市場で信頼されるプレイヤーになること」だ。

ベインキャピタルも、これらの方向性に異存はないようだ。12月8日、今回の買収で主導的役割を果たした同社マネージングディレクターのデイビッド・グロスロー氏がCampaignの取材に応じた。「最初のきっかけは、モルガン・スタンレーの助けを得て行ったADKの査定でした。その結果、大きな潜在力に興味を持ったのです」。

「日本の広告界には関心がありました。デジタル化の普及という点では米国より数年遅れていますが、我々ならばADKの発展を後押しできると考えたのです。そのためのリソースやアセットが我々にはありますので」

アニメの魅力

ベインはWPPが「愚行」と呼んだ、ADKのビジネスの一部にも興味を示した。「アニメ分野への投資には特に魅力を感じている」と同氏。ADKは藤子プロダクションや小学館、シンエイ動画、テレビ朝日などともに「ドラえもん」の著作権を共有しているのだ。

「長年広告ビジネスに携わってきたADKには、そこから派生したユニークな得意分野が数多くあります。ダイレクトレスポンスマーケティングにも強い。その優位性の1つが、アニメを広告ツールとして活用していることです」

「世界の広告界ではアニメの利用が増えており、ADKはそれに携わることで多くのアニメ作品へのアクセスを確保した。その特性をこれまでと異なるやり方で収益化していきたい。それぞれのアニメ作品を独立したコンテンツビジネスとして捉えるのではなく、新たな事業に変換するのです。サンリオの「ハローキティ」のようなビジネスモデルで展開することが可能でしょう。ADKの眠っている潜在力はそこにあると我々は考えます」

更にグロスロー氏は、ADKの会社規模が比較的小さいゆえに、「日本におけるデジタルマーケティングの分野で他社を一気に追い抜ける可能性がある」という。歴史的慣習に縛られず、それでいて今は数年後に収益を期待できる事業への投資力もあるというわけだ。「ADKはWPPだけでなく、電通とも魅力に乏しいデジタルメディアバイイングの関係を続けてきた。その時代は終わったのです」。電通や博報堂よりも「規模が小さく、機敏に動けるからこそ、プログラマティックバイイングの分野で急速に発展できる」と踏む。

この10月にCLSAは、買収が成立した場合、ベインは経営の透明性を高めるため、傘下にある日本のデジタルマーケティング会社マクロミルをADKと統合するのではないかという推測を立てた。これについては、「国内市場でのADKの事業内容を把握するには、確かにマクロミルは役立つでしょう。しかしマクロミルがその有効性を発揮していくには、独立していなければならない」と否定した。

経営陣への信頼

その一方で、ADKは日本の広告界の透明性を高めていくために果たすべき役割があるという。「スモールプレイヤーだからこそ、電通や博報堂のように現状のシステムを守るインセンティブがない。それが大きな理由です」。広告分野はまだ伸びる可能性を秘めており、それを引き出すにはテレビを費用対効果の最も高いメディアとして見るのではなく、「一般に普及したメディアとしての特徴を生かすこと」だという。「ADKは迅速に行動を起こせ、ビッグプレイヤーからも独立しています。これまでは戦うための“武器”が十分ではありませんでしたが、手持ちの武器にこの利点を結びつければ、より消費者を重視したオープンで透明性の高いモデルの推進役になれる。業界の構造に変革を与えられるのです」。

「より良い成長というストーリーを描きつつ、再び株式を公開するためにも、今後数年間の経営に注力して実力を蓄えることが重要」。事業の拡張は米国や欧州よりも、「アジア市場の方が現実的」ともいう。

「こうしたゲームプランがありますが、今の時点でいつ株式を公開するか明言するのは難しい。4〜5年かかるかもしれません。全ては今後、どのような発展を遂げられるかでしょう」。ADKの経営陣を変えることに関しては、同氏は発言を控えた。ベインはしばしば買収した企業の経営陣に自社から人材を送り込んだり、時に外部から招聘したりする。だがADKに関しては以前、「現在の経営陣を信頼している」と表明している。

ベインによるADKの買収は広告界を驚かせたが、こうした動きは今回だけではないだろう。「今後こうしたM&A(合併・買収)は業界で増えていくでしょう。その要因として業界が直面しているプレッシャーが挙げられますが、同時にそれはチャンスでもあります。こうした変革はデジタルやアナリティクス、ビッグデータやメディアといった多様な分野を束ね、手の届く範囲にまとめることができる。実際、数年ほど前に通信会社に起きたことです。企業を1つにすることで、エンドツーエンドの構造を実現できると考えます」

現在、広告代理店が直面しているプレッシャーは大手消費財メーカーの広告費削減が皮切りだった。「確かにそれは事実ですが、単なる一時的な流れでしょう」。ここでグロスロー氏は、「広告界のビジネスモデルが危機に瀕している」という前述の表現を弱めた。「長期的に見て、業界にとって力強い要素は『統合』です。それが構造の変化をもたらす。『危機』という言葉は若干強過ぎたかもしれません。代理店にとってはリスクよりもチャンスの方が多いのですから。ですが、それを生かすためには戦略を明確化し、新たなデジタル環境でどのようにビジネスを構築するべきか見定めていくことが必須です」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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