Surekha Ragavan
2020年3月03日

インフルエンサーをスポークスパーソンでなく、コラボレーターと捉えるべき理由

インフルエンサーがコモディティー(一般化し差別化が困難な商品)ではないことをよく認識しているブランドは好調――カルチャーグループのマイケル・ペイタント氏はこう主張する。

「包先生(Mr.Bags)」で知られるハンドバッグのインフルエンサー、中国の梁韬氏(写真中央)はブランドに「数分で50万米ドルもの売上」をもたらすことができる。
「包先生(Mr.Bags)」で知られるハンドバッグのインフルエンサー、中国の梁韬氏(写真中央)はブランドに「数分で50万米ドルもの売上」をもたらすことができる。

多くの「ファン」を抱えたインフルエンサーは、ブランドとオーディエンスの間の興味深いポジションに位置している。影響力のある意見を発信できるだけでなく、オーディエンスとの距離間の近さから、市場のフィードバックを効果的に集めることができるためだ。しかし、ブランドはインフルエンサーの力を最大限に活用できているのだろうか?

「彼らがブランドにもたらす価値は、ブランドが認識しているよりも高い」と語るのは、エンターテインメントに特化したマーケティングエージェンシー「カルチャーグループ」の共同設立者、マイケル・ペイタント氏だ。

「これまで数十年にわたって、企業はオーディエンスを増やしてきました。しかしインフルエンサーは多くの場合、自分の考え方を発信し、自分のコミュニティーとつながる能力によって人気を得て、影響力を高めてきました。その結果、インフルエンサーは本当の意味でオーディエンスと交流し、フィードバックを受け取ることができるのだと感じます」

ペイタント氏はまた、ブランドは単にリーチの獲得と対話のためだけにインフルエンサーを起用していてはいけないとも語る。コラボレーターやビジネスパートナーとして、創造的に協業するべきだというのだ。

マイケル・ペイタント氏(カルチャーグループ)


「ここ数年、ブランドがスポーツやエンターテインメントのセレブリティーを、共同制作者やコラボレーター、クリエイティブアドバイザーとして起用する傾向があります。過去18~24カ月間で、ソーシャルコマース(ソーシャルメディアを活用した販売促進)はめざましい成長を遂げました。そして、インフルエンサーが『ブランドとできることは多くない。私は自分のブランドを立ち上げたいし、自分のコンテンツメディアの組織や、スケーラビリティー(拡張可能性)のあるビジネスも始めたい』と語るのを、数多く見るようになりました」

インフルエンサーが自身のブランドを立ち上げる際に、自身のコミュニティーやフォロワーを効果的にターゲットにすることができる。特にインフルエンサーが情熱を傾ける化粧品やアパレル、パーソナルケアのブランドにおいて、この傾向は強い。

「これらの分野で目立った躍進を遂げたブランドは、インフルエンサーがコモディティーではないことをよく認識しているブランドだと実感しています。両者はクリエイティブや開発における、真のパートナーとなり得るのです。リアーナ(シンガーソングライター)がルイ・ヴィトンと立ち上げたジョイントベンチャーで、いかにしてブランドを構築したかは、その良い例といえるでしょう」とペイタント氏は語る。

アジアにおける成功事例といえば、「包先生(Mr.Bags)」で知られるハンドバッグのインフルエンサー、中国の梁韬氏だろう。彼はハンドバッグのレビューを投稿し、信頼できる情報ソースとして認められるようになった。そして彼自身のブランドを活用して、次第にブランドと共に限定品や新商品を発表するようになった。


現在28歳の同氏はスタッフを数名雇い、ジバンシィ、ロンシャン、トッズなどのブランドのクリエイティブパートナーだと名乗ることができる。同氏とトッズ(おそらく彼にとって最大のコラボレーション案件)は2018年と2019年、ユニコーンと犬にちなんだデザインのバッグを発表し、どちらも中国で大流行した。

「Mr.Bagsは、数分で50万米ドルもの売上をもたらすことができる、真のコラボレーターです」とペイタント氏は評する。

「Mr.Bagsは市場機会の発見や、外資系企業が中国市場を理解し洞察を得る支援をしています。さらに重要なのは、商品のマーケティングや、商品についてのコメントにも携わってくること。誰かのクリエイティビティーや影響力が、アイデアを生み出すプロセスや創造のプロセス、さらには流通のプロセスにまで及ぶということなのです。これらの商品は、彼が所有し運営するECプラットフォームを通じて、流通していくのです」

インフルエンサーが独自のブランドを立ち上げている例には、フィリピンの化粧品「サニーズフェイス(Sunnies Face)」が挙げられる。複数のインフルエンサーで構成されるグループが始めたこのブランドは、ごく一般的なフィリピン人が望みつつも入手が難しいような商品を展開している。

「素晴らしい商品を直販価格で提供しているサニーズフェイスは、今ではそのニーズに合わせて総合的にコスメ商品を提供しています」とペイタント氏は説明する。

サニーズフェイスは2018年に始動し、サイトで発売した1つの商品がほぼ瞬時に完売。その後も再入荷のたびに完売が続き、現在は8つの実店舗をマニラとセブに構える。最近では、ロージー・ハンティントン・ホワイトリー(英国のスーパーモデル)のコスメブランド「Rose Inc.」ともコラボレートしている。

通常のインフルエンサーのコンテンツといえば、プロダクトプレイスメント(商品が画面内にさりげなく登場する手法)や、一方通行のコミュニケーションだが、これらは短期間しか盛り上がらない。だが、インフルエンサーとブランドによる創造的なパートナーシップは、エンゲージメントを高めることにつながるとペイタント氏は説く。

「商品の流通や、インフルエンサーの商品への関与を、非常にダイナミックなものに変えられれば、より多くの対話が生まれます。これまでは商品購入の一方向のみがコマース(商取引)とみなされてきましたが、今はコンテンツ、コミュニティー、カンバセーション(会話)も含むようになったのです」

「そして、これらの要素をすべて組み合わせることで、商品やブランドへの熱が生まれ、欲求をかきたてるのです。この好循環によって、インフルエンサーが発信するカルチャーがコンテンツを形作っていくのです」

さらに、入手困難な限定版ラグジュアリー商品については、消費者がその排他性に引き付けられることも明らかになっている。

「極度なパーソナライゼーションの時代に入ると、人々は特別でユニークなものを望むようになります。限定商品や入手困難な商品は、手に入りやすい商品よりも優れており、それを入手すれば影響力が高まり、それが良いこととされる。インフルエンサーとの関係構築や、インフルエンサーとのコラボレーションによって、限定版が次々と発表されるのは、このためです」とペイタント氏は指摘する。

@chinepaiyenofficial

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♬ 128bpm - cg

「消費者のブランドに対する信頼度が高まっているだけでなく、エンゲージメントも高まっているのだと思います。その商品がどのように作られたのか、商品が何を意味し、何を表現しているのかというストーリーが、消費者を強く動かします。これは、ブランドと消費者の関係性が、広告を展開し、商品を届け、それが買われるという単純なものから、情報が双方にやりとりされるという新しい形へと変わったこととも関係します」

この排他性と共創の概念は、TikTokの流行にも関連している。同プラットフォームがここ数年で流行したのは、他のプラットフォームとはまったく異なった方でユーザーをクリエイティブにしたことや、自分のコンテンツへの主体性やスタイルを確立させたことなど、さまざまな理由がある。

「今は、偽造できないオーセンティシティー(真正性)が重視される時代です。TikTokが優れているのは、短尺のコンテンツがこの上なくリアルであること。もっと短い尺のコンテンツや、リリースまでの期間が短いもの、入手機会がより少ない商品やコンテンツを、目にするようになりました」とペイタント氏。

「メガインフルエンサーからマイクロインフルエンサー、マス・オーディエンスから少数のオーディエンス、マス・リリースから限定版へと移り変わったのです。この排他性のコンセプトは、あらゆるものへと広がっています」

そして若いインフルエンサーが多く生まれ、発言するようになったプラットフォームは、彼らが成長できる機会を提供すべきだと語る。

「優れたブランドは、クリエイティブなコンテンツを制作しているだけでなく、消費者がコンテンツを制作できる機会も創出しています。そして彼らを、インフルエンサーへと変えていく。インフルエンサーは最もオーガニックなエンゲージメントを築くことができるので、そのために必要なツールを提供するのです」

クリエイティブとインフルエンサーを結び付けようとしている領域として、小売業界以外で注目すべきなのはeスポーツだという。

「スポーツ選手やミュージシャンをインフルエンサーとして活用してきた歴史は50~60年もありますが、eスポーツ選手の起用はまだ2年ほどの歴史しかなく、多くのブランドはまだ彼らに声をかけていません。eスポーツ選手は未来のインフルエンサーであり、販売の担い手なのです」とペイタント氏。

「ブランドはeスポーツを商業空間として見ると思いますが、それではクリエイターやインフルエンサーと協業したときほどにはオーセンティックになりません。インフルエンサーと協力しながら信頼性を高める必要があると認識したブランドと、もっとグローバルな流通システムに入り込む必要があると認識したインフルエンサー、この2者が交わる部分にこそ、機会があるのだと思います」

例として挙げられるのは、北米のeスポーツチーム「フェーズクラン(FaZe Clan)」だ。このチームは数々の限定版アパレルや、マンチェスター・シティ(英フットボールクラブ)やカッパ(伊スポーツブランド)といったブランドとのコラボレート商品を発表している。2018年にはナイキが、地域を限定しないブランドとしてeスポーツ選手と契約したように、今後はeスポーツのクリエイターと大規模なレガシーブランドが協業し、莫大な報酬を手にできる可能性もある。まさに未開拓の領域といえると、ペイタント氏は語る。

(文:サレハ・ラガヴァン、翻訳・編集:田崎亮子)

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PRWeek

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