今は、クラブハウス(Clubhouse)やTikTok(ティックトック)の戦略を練るのに忙しいかもしれないが、ディスコード(Discord)のことも真剣に考えてみてほしい。
ディスコードは2015年から存在するデジタルコミュニケーションアプリだが、最近まで、利用しているのはほぼゲーマーのみだった。それがこの1年で変化した。パンデミックによって消費者のメディア習慣が変わり、Z世代の間でディスコードの人気が高まったのだ。
現在、ディスコードは1億4000万人の月間アクティブユーザーを抱え、3億ドル超の資金を調達した。先ごろ、マイクロソフトがディスコードを100億ドル以上で買収するための交渉が進んでいると報じられたが、結局、買収交渉は打ち切られた。
ディスコードには魅力的なオーディエンスが存在するにもかかわらず、ゲームと無関係なブランドがディスコードに進出した例はほとんどなかった。しかし、マーケターや広告主は、オーディエンスが支持する新しいプラットフォームに適応するようになってきたため、これからの状況が変化する可能性は高い。
ディスコードの中心的な利用者は依然としてゲーマーだが、コーディングや美容、音楽、ファッション、車などのコミュニティも加わり始め、ブランドにとっての可能性が拡大している。
デロイトデジタルの戦略責任者ネイサン・ヤング氏は「ディスコードが買収の対象として注目されているのには理由がある」として、「スラック(Slack)やTeams(チームズ)が従業員の仕事の進め方に革命を起こしたように、ディスコードは友人同士のつながり方に革命を起こす可能性がある」と述べた。
ディスコードとは?
「スラックとレディット(Reddit)とZoom(ズーム)の間に生まれた赤ん坊を想像してみてほしい。ディスコードはそのようなものだ」とヤング氏は説明する。
ディスコードは、ゲーマーがプレイ中やストリーミング中に音声チャットで会話できるプラットフォームとしてリリースされた後、人々が「サーバー」に集まり、関心のあるテーマについて議論する場所へと進化した。スラックのチャンネルと同様、ユーザーは科学、アニメ、テクノロジーなどのテーマでサーバーをカスタマイズできる。
ディスコードのサーバーには、誰でもアクセスできるパブリックと招待制のプライベートがあり、選択可能だ。
サーバーに集まったユーザーは、通常のメッセージ、動画、音声チャット、ストリーミングなど、さまざまな方法で交流することができる。
さらに最近、「ステージチャンネル」と呼ばれるクラブハウスのような機能が追加され、別のサーバーで交わされている会話も聞けるようになった。ステージは最大1000ユーザー、電話のように機能する音声チャットは5000ユーザーをホストできる。
ディスコードはフリーミアムモデルを採用しており、Nitro(ナイトロ)と呼ばれる有料プランでは、カスタマイズ可能な絵文字、プロフィール写真のアニメーション化、より高品質なストリーミングといった追加機能が利用できる。
VMLY&Rのソーシャルパブリッシング担当コネクションディレクター、ジェイク・ブレイ氏は、「ディスコードは同じ関心を持つ人々による、1つのテーマを中心とした(コミュニティをつくる)場所だ」と話す。「例えるならば、スマートフォンの画面に存在する近代的なフォーラムだ」
ブランドにとっての利点は?
ディスコードの戦略的コミュニティ責任者アンバー・アサートン氏は、ディスコードではまだ広告を販売していないが、コミュニティの構築と育成を重視しているため、ブランドにとっては可能性がある場所だと述べている。また、ディスコードにはパートナープログラムがあり、ブランド独自のサーバーを構築できるという。
「(ディスコードは)同じような関心を持つ人々が集まる場所だ」とアサートン氏は説明する。「ブランドにとっては、(ユーザーが)そのブランドを好きなほかの人々と一緒に過ごせる場所だ。(誰でも)自分の空間をつくり、同じ関心を持つ人々とチャットできるというのがコンセプトだ」
すでにいくつかのブランドがオーガニックな形でディスコードを試している。例えば、コーディング関連の製品を提供するカノ(Kano)は顧客からの要望を受け、ディスコードのパブリックサーバーを立ち上げた。同社のソーシャルメディアリードスペシャリスト、ジョージ・コール氏によれば、まずはQ&Aフォーラムとして始まり、その後、カノの製品を使う保護者、教師、子どもたちのコミュニティに発展したという。
「保護者や子どもたちがそれぞれの日常についてチャットし、自然な会話ができているというフィードバックをもらっている」とコール氏は述べている。「サーバーに参加してきた子どもたちの一部は(ブランド)アンバサダーのような役割を果たしている」
カノのサーバーに参加するユーザーのために、サーバーについて紹介する「ウェルカム」チャンネルが用意されている。ユーザーはその後、保護者と教師のチャットルームや製品に関する相談窓口など、ほかのチャンネルに移動できる。カノの製品を使用しているユーザー自身やその子どもの写真を投稿できるギャラリーもある。
「ブランドにとって、フィードバックが得られ、顧客と気軽に話ができることほど重要なことはない」とコール氏は話す。「多くの場合、ブランドはフォーカスグループと話をするだろう。ディスコードを利用すれば、その場で同じことができ、同時にロイヤリティも構築できる」
デロイトデジタルのヤング氏によれば、ブランドにとってのもうひとつの利点はカスタマイズ可能なことだという。オーガニックなプレゼンスを確立するには多大な投資が必要だが、ディスコードでは、ブランドが体験を完全にコントロールできる。
「たとえ技術的スキルが不足していても、思い描くことさえできれば、ディスコードではそれを実現できる」とヤング氏は説明する。
オーガニックであり続けること
既存のパブリックサーバーに参加して、ディスコードを事前調査しているブランドもある。その多くがソートリーダーとして会話を主催したり、インフルエンサーと協働して、特定のコミュニティでインパクトのある会話を促したりしている。
この戦略で「重要なのは、ブランドとしての話し方をしないことだ」とVMLY&Rのブレイ氏は言う。
「他人の家に入るからには、その家のルールに従わなければならない」とブレイ氏は補足した。「目的は会話の主導権を握ることではない。会話に参加して発言することだ」
デイ・ワン・エージェンシー(Day One Agency)のマネージングディレクター、ジェイミー・ファルコウスキー氏によれば、ディスコードを試したいと思っているブランドは、「プラットフォーム上で自分たちについて語られていることに耳を傾け、その会話を自分たちのサーバー戦略に役立てる」ことから始めるべきだという。
モデレーションが鍵
ほかのユーザー生成コンテンツ(UGC)プラットフォームと同様、モデレーションはディスコードでブランドのメッセージをコントロールするための重要な要素だ。オープンフォーラム形式のチャットは、ユーザーとブランドの間にオーガニックな会話を生み出せる一方、プライバシーやセキュリティの問題がある。
ディスコードのユーザーの大部分は18~24歳だが、プラットフォームへの登録は13歳からできる。ブランドは、プライバシーに関する懸念を回避するために、ディスコードと緊密に連携し、どのような個人情報が収集されているのか、その方針がブランド独自の方針とどれくらい合致するのかを理解すべきだとブレイ氏は述べている。
ディスコードのポリシーでは、13歳未満の子どもの参加を公式に禁止しており、13歳未満の子どもを参加させているサーバーの所有者には何らかの「措置を講ずる」ことになっている。また、ユーザーがコミュニティのルールに違反した場合に自動メッセージを送信したり特定のキーワードをブロックしたりするボットなど、モデレーションを支援する自動ツールも提供している。
ディスコードは、サーバー所有者がモデレーションについて学ぶためのリソースを集めたモデレーターアカデミーを開設している。また、ユーザーやブランドがディスコードのモデレーションポリシーを理解できるよう、透明性に関するレポートも公開している。