AOI Pro.(品川区)が、米国カリフォルニア州のシリコンバレーにオフィスを開設。野球関連のコンテンツを開発し、仮想現実(VR)コンテンツの商業化に踏み出した。
同社の広報担当者はCampaignの取材に応じ、現在シリコンバレーのオフィスに常駐のスタッフはおらず、スタッフが東京とシリコンバレーを行き来していると説明した。同社には仮想現実(VR)および拡張現実(AR)ビジネスに本格参入する計画があり、オフィスの開設はその意思を何よりも明確に示したものといえるだろう。同社はまた、クリエイティビティーと技術イノベーションを掛け合わせるための提携を推し進めると述べている。
「技術の進歩によって、映像は視聴するものから体験するものになりました」とAOI Pro.の広報担当者は話す。新しい事業領域における最初のコンテンツは、リアルな野球体験ができるVRコンテンツ「VR Dream Match - Baseball」で、デジタルエージェンシーのバスキュール(港区)と共同で制作した。バスキュールがプログラミング、AOI Pro.が映像制作を担い、ソフトウェアの著作権は両社で共同所有する方向で調整中だ。
このコンテンツは、ヘッドマウントディスプレイを装着し、打席に立ってプロのピッチャーに挑戦するというもの。日本やアメリカの公式試合のデータを基に、選手の投球の速度や回転数、軌道を忠実に再現し、没入感の高い野球体験を提供する。
同社は、既存のVRコンテンツに多く見られる「状況説明」や「操作説明」を必要としない、シンプルな構成で差別化を図っていく。11月にいくつかのイベントで、アトラクションとして一般公開される予定だ。リリース当初はイベントに出展するブース内での利用に限定されるが、広報担当者によれば、いずれは一般消費者向けに簡易版を配信する計画があるという。
AOI Pro.はまた、ユーザー同士が打撃を競い合う機能の追加の他、日米の各球団と提携し、データに基づく選手の育成・強化に貢献できるよう改良を加えていく予定だ。近い将来には「公式試合のデータをほぼリアルタイムで体験できるようにする」ことも視野に入れている。
視覚的に楽しめるコンテンツを消費者がますます志向する中、制作会社は広告会社よりも、VRなどの新しいテクノロジー分野のイノベーションにおいて優位に立つといえるだろう。AOI Pro.の主力事業は引き続きテレビCM制作だが、同社はこの新事業を短期間で、より大きな規模に仕立てたいと意気込む。
広報担当者も「今回のVRのような体験型コンテンツは今後ますます価値を高め、当社のビジネス領域もあわせて拡大していくでしょう」と展望を語った。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)