「デジタルトランスフォーメーション」の概念をひと言で表現するならば、「デジタルの活用によって企業のマーケティングやビジネスプロセスに変革をもたらす」ということになる。こうした認識はだいぶ浸透してきているように思えるが、その実態や実現へのステップなど、具体的にはまだイメージしにくいことが多いのではないだろうか。そこで今回は、デジタルトランスフォーメーションの中でも企業の営業活動の変革を目的とした「BtoBのデジタルトランスフォーメーション」に着目し、その現実化への糸口について考察したい。
1. 新たなプラットフォームは機能したのか
ここでは、実際に携わったあるケースをご紹介したい。「営業活動のデジタルシフト」をテーマとし、オウンドメディア上でOnetoOneのコミュニケーションがとれる仕組みを構築したケースだ。この仕組みにより、営業スタッフは顧客一人ひとりに対してサイト上やメールで興味に沿った情報を発信し、その反応を見ながら商談へとつなげていくことが可能となった。また、サイト上の顧客の行動データはあらかじめ顧客の承諾を得た上で蓄積・連携されるので、営業スタッフはそのデータを活用して次の手を考え、営業効率や提案の精度を上げていくことができるのだ。
この新たな仕組みは、日々の営業活動で活用されて初めて機能する。しかし担当が異なればニーズも異なる数多くの営業スタッフ一人ひとりに、習慣的に活用してもらうことは一朝一夕にはいかない。そこで次のステップとして、規模と期間を限定したトライアル運用を実施したところ、2つの大きな発見があった。1つは、日常的に活用したという営業スタッフの割合は想定よりも少なかったこと。もう1つは、その一方で日常的に活用した営業スタッフの多くは「営業活動に変化があった」と回答し、「今後も利用したい」という声が実に8割にも及んだことである。
この2つの発見のうち、1つは課題、1つは成功ポイントだが、これによって今後の推進の方向性と注力すべき点を明確にすることが出来た。そして、この2つはいずれも仕組みを活用して初めて分かったことであり、新たな仕組みを取り入れる上で実際に活用してもらうことがいかに重要か、強く認識したのだった。
2. 営業活動が変化した要因
では、その成功ポイントの要因を探ってみたい。営業スタッフ一人ひとりに尋ねてみると、「(顧客が)特定の曜日に頻繁にアクセスしていたので、そのタイミングを狙うとアポが取りやすくなった」「ある商品の閲覧数が急に増えたので、自主提案を申し出たところトントン拍子に新規受注が決まった」といったような声がいくつも上がった。
これらの声から、今まで知りえなかった顧客の「行動」「気持ちや関心」といった頭の中までが可視化され、営業活動に不可欠な「最適なタイミング」や「検討HOT度の高まり」を察知出来るようになり、新たな「営業の武器」として機能したことがうかがえる。そしてもう一つの大きな要因は、仕組みの使い手である営業スタッフ自身が「成功体験」を重ねて効果を実感し、モチベーションが高まって、新しい仕組みの活用が加速されたことではないだろうか。
2. 「人」を主役にした営業活動のデジタル化
このケースを通して強く感じたことは、デジタルによる新たな仕組みを実現する際、構築までのフェーズが大切なのはもちろんだが、それと同様に新たな仕組みの活用を促し、定着させていくための取り組みがいかに重要かということである。
なぜなら、仕組みを動かしていくのは「人」にほかならないからだ。デジタル化が加速しても、ビジネスの中心にいるのはやはり「人」であり、素晴らしい仕組みを用意しただけではスタート地点に立ったにすぎない。ゆえにBtoBのデジタルトランスフォーメーションにおいては、主役である「人」がどのようにデジタルを味方につけ、既存の営業活動の中に取り入れて活用し、定着させていくのかという戦略が欠かせない。具体的には、このプロセスで浮き彫りになる多くの課題や成功要因を捉えて、活用と定着へつなげていくためのPDCAサイクルの設計と実行、活用が進まない営業スタッフへの成功体験作りや動き方、モチベーション形成のサポートなどが必要と考える。
今後ますます増えるであろう、このような営業活動のデジタル化に取り組む際には、仕組みを用意して終わりにするのではなく、「デジタルを活用した仕組みの構築から、『人』に対する活用促進、定着」までの全体設計を推進すべきであり、それこそが我々に求められている「真のデジタルトランスフォーメーション支援」ではないだろうか。
文:深川夏子(電通デジタル 統合マーケティング第2事業部 プランニング/マネジメント第2グループ シニアコンサルタント)
(編集:水野龍哉)