CDOは顧客のことを一番よく理解している存在
デジタルトランスフォーメーション(DX)の担い手であるCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)は今や、企業の成長にとって必須の役職といえるだろう。「誰よりも顧客データを見ているため、CMO、CIO、CPO、CEOの誰よりも、お客さんをよく知っているという自負があります」と話すのは、日本初のCDOとなった日本ロレアルの長瀬次英氏。人と人が話す際には通常、相手によって話し方を変えるものだが、そのためにはまず相手がどのような人物なのかをよく知らなくてはならない。ビジネスにおいても同様で、「個別の対応が本来あるべき姿で、行き着くところはパーソナライズドビジネス」とのことだ。
一方で、顧客との接点が少ないことが悩みだったと打ち明けるのは、ブリヂストンの三枝幸夫氏。同社が着目したのが、すり減ったタイヤの表面を新しく貼りかえる「リトレッド事業」だ。新品のタイヤが売れなくなるのではとの懸念もあったが、同社ブランドのタイヤユーザーのみならず、他ブランドのユーザーとの接点もでき、顧客ごとの特性や走り方、何キロですり減ったのかといったデータも得られたという。
「クリエイティブに所属していた頃は、自分が作ったものが本当に良いのかを調べるため、グループインタビューを行って顧客の反応を見ていました」と話すのは、花王にコピーライターとして入社し、ブランドマネジャーを経て同社デジタルマーケティング部部長を務める鈴木愛子氏。以前であれば実現し得なかったことが、デジタル化によって多くのことが可能になった。ただし、顧客のことをよく知るには、単に顧客の反応を見ていればよいわけではない。「顧客はなぜそう言ったのか、なぜデジタル上でその行動をしたのか、と一歩踏み込んで考える」ことで、次にどのようなアプローチをするべきかが分かるという。
多様な視点がなくては生き残れない
ダイバーシティ(多様性)と、多様な個性を活かしながら組織や社会として一体化していくインクルージョン(包括)の推進は、企業にとって重要課題だ。ヤフーの湯川高康氏によると、同社では人材活用において「社員の才能と情熱を解き放つ」という理念を掲げて会社は社員が活躍できる舞台を用意し、そこで社員が思いきり力を発揮する。この関係は「労使関係」というより「共存関係」であり、同等なパートナーとして適度な緊張感を保つようにしている。
多様性への取り組みは福利厚生としてだけでなく、ビジネス面においても大きな意味がある。同社の神取真一氏によると、社員も顧客も女性が多くを占めているブルガリでは「多様性=女性の地位向上」というイメージではなく、「世の中があっという間に変わる中で、テクノロジーやモノだけでは競合他社に勝てない。勝つためには人しかない」という使命感が、多様性を推進する原動力だという。「ブランドビジネスは、人と同じことをやっていても駄目。さまざまな視点を持った人が、さまざまな提案をして製品・サービスを作っていかないと、もはや生き残っていけない」という。
世界中で22億人もの利用者を抱えるフェイスブック(傘下のインスタグラムは利用者数8億人)でも、多様性が具体的なサービスに結びついている。例えば災害時の安否確認機能は、東日本大震災の際に多くの人々が安否を報告し合っていたことから日本人のエンジニアが発案し、世界規模で展開されていったもの。「震災大国でないと出来なかった製品。地域の声をグローバルな製品に活かすには多様性は不可欠」と同社の下村祐貴子氏は語る。他にもインドやバングラデシュでプロフィール写真の不正使用が問題となっていることを受け、インドの社員が写真のダウンロードやスクリーンショットも不可能にするサービスを始めたという(日本ではまだ展開されていない)。
(文:田崎亮子)