社員こそがブランド
日本マクドナルドのサラ・カサノバCEOが、同社にとって最も重要な市場である日本における業績の推移について語った。商品の安全性に関する醜聞やマンネリ化したメニュー、店舗の老朽化……こうしたマイナス要素が重くのしかかり、同社の売上は長年下がり続けていた。だが徐々に業績を持ち直し、今年度の利益予測は150億円。同氏はその主要因として大規模な店舗の改装を挙げ、「売上を5〜20%押し上げることに貢献し、ブランド認知を高めるカギとなった」と話した。だがほかにも、回復の重要な要因が挙げられる。食材と製造過程の透明化、デジタルコミュニケーションを活用した消費者の購買意欲の喚起(非現実的な話に聞こえるが、実際これが機能した)、そしてほぼ全てのスタッフによる献身的な努力などだ。「我々マーケターは、巧妙なクリエイティブという『魔法の杖』であらゆる課題を解決できると思いがちです」と同氏。「でも、クリエイティブの力だけではマクドナルドが置かれた状況は好転しませんでした。業績回復の本当の要因は何だったのか。それは、我々の打ち出したプランを全面的に支持し、実行してくれた12万の従業員たちなのです。私は第一線で働く人々の声を聞くことに、消費者の声を聞くのと同じくらい時間を費やしました」。
コンサルティング企業と広告代理店は、おそらく「友人」になれる
電通や博報堂、アクセンチュア インタラクティブ、PwCなどからのパネリストたちは、彼らが「同じゴールを目指して歩み寄りつつあり、今後は時に競合し、時に協業していく。共に競い合っていくだろう」と述べた。ディスカッションの最後にアクセンチュア インタラクティブの黒川順一郎氏は、「どのようなアプローチを好むか決めるのは、消費者です」と発言。今後どのように業界の形態が変わろうとも、新たなクリエイティブプレイヤーの登場と新たなレベルの競争は歓迎すべきことだ。近い将来には、最大規模の広告代理店が誕生する可能性も少なくない。
「チャットボットがブランドとの『無限の会話』を可能にする」
こう語って聴衆の強い関心を引いたのは、LINEの法人向けビジネスを統率する田端信太郎上級執行役員。人々が実際にこうした行為を求めているのか想像しにくいが、マイクロソフトが開発したAI(人工知能)女子高生「りんな」はその可能性を示唆している。感情と知性を有したチャットボットは、「これまでで最高のブランディング・フォーマットの1つ」と言う同氏。「マーケティングのコンテクストでは、ユーザーの時間を出来るだけ占有することが重要。それは、長ければ長いほど良いのです」。
広告代理店の、もう1つの典型的なプロセス
電通には、“Bチーム”というほとんど知られていないシンクタンクがある。広告とはほとんど無関係のクライアントからの課題にソリューションを提供するため、時に線引きが難しい領域で数々の専門家を集め、知性を結集させるのだ。例えば、新たなコーヒー製品を開発するプロジェクトでは、農学者を始め衛生学やストリートカルチャーの専門家、平和活動家までも招集。電通総研のクリエイティブであるナディア・キリロバ氏は、「一見何の関連性もない人たちの洞察を結合させることは、大きな効果を引き出す」と語る。これは広告代理店の典型的なプロセスとは逆のものだ。偶然の会話がブリーフに取って代わり、アートディレクターやコピーディレクター、テクノロジーディレクターは存在せず、プレゼンテーション用のボードもない。チームが頼りとするのはビッグデータではなく、少人数の人々の直接的な意思疎通から得られるスモールデータだ。トレンドを取り入れることは意識的に避ける。こうした試みは実験的だが、制約の多いプロセスを打ち破り、真にオリジナルなアイデアを生もうとする人々にとっては強いインスピレーションとなり得るだろう。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)