David Blecken
2016年6月03日

Campaignが見た、初の「アドバタイジングウィーク・アジア」(パート1)

東京 - 広告やマーケティング業界の専門家たちが一堂に会する世界的イベント「アドバタイジングウィーク」が、アジアで初めて、5月30日から6月2日にかけて東京で開催された。 2回に分けてお届けするこのレポートの第1回では、ゲストスピーカーたちのコメントから印象的なものをいくつかご紹介していきたい。

ジョー・フライ氏、石川俊祐氏
ジョー・フライ氏、石川俊祐氏

成功は「慢心」の始まりである

まずは、テクノロジーの世界からキャンベル・スープ・カンパニーのマーケターへと転身したユマン・シャー氏。
氏はブラックベリー(BlackBerry)の凋落を例に取り上げ、いかに「企業の危機」を未然に防ぐかについて語った。
「ブラックベリーは自己満足の末、負け組になってしまったのです」と言うシャー氏。
「カードゲームで言うなら、彼らは最初の時点で有利な手札をずらりと持っていました。にもかかわらず、それらを自ら捨ててしまった。メッセージングアプリによって米国市場のほぼ半分を獲得したことで、自らの地位を確立したと思い込み、ユーザーとの対話をやめてしまったのです」

そして、「世界最高のレストラン」という評価を得た「ノマ」を引き合いに出し、ブランドを維持するための心得を語った。
「世界No.1に選ばれた後、どうすればその座を守っていけるかじっくりと考え直すため、彼らは1年間店を閉めたのです。これは並大抵の決断ではない。ほとんどの人は同じことを継続し、現状に満足してしまいますから」

「合格点」は進歩にあらず

同氏はさらに続ける。
「私が重要なカギと見るのは、『前向きな失敗』。仮にあなたが5つのプロジェクトを行い、そのすべてがうまく行ったとしましょう。その理由は、それらのプロジェクトは決して難易度の高いものではなく、ある意味であなたは全力を尽くさなかったとも言えるのです。
我々のイノベーション・ラボでは、こうした場合に一定のプロジェクトは必ず失敗する、という結論が出ている。成績表で常に合格点を狙うことはないのです。『注意』や『不可』が出たときは、あなたがより大きな目標に向かって努力していることを意味するのですから」

さらに、「失敗をどのように定義するかも重要」と述べる。
「例えば、すでに生産が終了したグーグルグラスは失敗例と見なされるかもしれません。しかし、グラスで開発された技術や得た様々な教訓は、他の数々のプロジェクトに生かされて具現化した。実はグーグルで最も成功したプロジェクトの一つ、と言っていいでしょう」

デザイン思考を強化する「おもてなし」

IDEO Tokyoのデザイン・ディレクター である石川俊祐氏は、「デザイン思考とは、人々がイメージするような複雑なものではない」と指摘する。
デザイナーのチャールズ・イームズの言葉を引用し、「究極的には良いホストに徹するようなものです」。
「おもてなし」(自己を抑えたホスピタリティー)の本質はブランド体験にも当てはまるので、日本人は己の文化に対する認識を刷新する必要がある、とも。

同氏が例としてあげたのは、狩りを終えた豊臣秀吉に石田三成がお茶を出した際の逸話。
三成はその時の秀吉の様子を見て、温度と量を変えたお茶を3回に分けて供し、お椀を出す際には箸をあらかじめ水に浸して、木の風味が汁に移らないよう配慮したという。
「ビジネスの際、我々はついゴールやリソースのことばかりを考え、『人』のことは忘れがちになってしまいます。デザイン思考とは、人々のニーズを考えることから始まる。何が人々の暮らしを良くするか、ということが出発点なのです」

「ビール2杯」の生産性

同じセッションでは、グーグルのグローバル・クリエイティブ・チームのメンバーで東京在住の ジョー・フライ氏が、クライアントとビールを酌み交わしたパブの小さなスペースから、子供向けのサッカーのトレーニングのソリューションが生まれたという経緯を語った。
このソリューションはNFCと呼ばれる近距離無線通信技術をサッカーボールに応用するもので、彼はこの飲み会の後すぐにそれを実行した。
「もしこのクライアントが大企業だったら、同じことをするのに優に1年はかかっていたでしょう」と同氏。
「プロセスに時間がかかり過ぎるのは問題です。もしビールを2杯飲む間に答えを引き出せるのなら、そうあるべきなのです。新しいことを試すのに、いつも多くのお金や時間を費やさなければならないわけではない」

電通のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター である佐々木康晴氏もこうした意見に同調し、「リファンビリテーション(Refunbilitation)」というコンセプトについて語った。
これはゲームなどの娯楽を作り出す基礎的なテクノロジーを応用し、高齢者にもっと活動的な暮しを送ってもらおうというプロジェクトで、「テクノロジーは決してとっつきにくいものではない」というメッセージが込められている。
「このコンセプトは、高度なテクノロジーのプロたちによって編み出されたものではありません」と同氏。
「実際、我々(電通)がそうではありませんから。日本人はよく、『テクノロジーは苦手なので…』と言って敬遠してしまう傾向がある。それを解消するための手立てなのです」

(編集:水野龍哉)
 

提供:
Campaign Japan

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