女性の靴で歩くことがどのようなものかを男性に知ってもらおうとした2021年のキャンペーン「In her shoes」に続き、ユニリーバのLux(ラックス)とワンダーマン・トンプソン・シンガポールは、新キャンペーン「Shut Up, Sexism」で、性差別的な言動に再び戦いを挑み始めた。
4月にローンチしたこのキャンペーンの目的は、AI搭載のホームデバイスや音声アシスタントのほとんどが女性の声をデフォルトにしている(スマートフォンでは92.4%)ことで、いかに性差別的な言動が助長されているかを伝えることだ。残念ながら、これらのアシスタントは侮辱的な言葉を浴びせられることがあまりにも多い。このキャンペーン動画では、女性の声のバーチャルアシスタントが、性差別的な発言に対し軽妙に切り返し、人を害するような振る舞いを思いとどまらせようとする。
Luxのグローバルブランドバイスプレジデントを務めるセブリーヌ・ボーレオン(Severine Vauleon)氏は、なぜこの問題を取り上げ、人々の意識を高めることにしたのかを説明してくれた。
このキャンペーンのアイデアはどのように生まれたのですか?
このアイデアはワンダーマン・トンプソンによってもたらされたもので、主要なAIバーチャルホームアシスタントのほとんどが、デフォルトで女性の名前と声に設定されているという知見から生まれました。「頭が悪い」「醜い」といった性差別的な言葉を投げかけられても、従順に反応するようプログラムされているという事実もその背景にあります。
Luxはこのキャンペーンのため、さまざまな立場の女性たちと協力し、バーチャル音声アシスタントに最もよく投げ掛けられる性差別的な言葉に対するウィットに富んだ反論を用意しました。今回のキャンペーンでは、バーチャルアシスタントに対して性差別的な言動を行った経験のある、実在の人物(家族やカップル)を起用し、いつも利用しているアシスタントが、これらの(反撃の)セリフを発するように訓練しました。
この反撃はあらゆるバーチャルアシスタントに簡単にインストールでき、世界中の誰もが利用できるようになっています。また、動画キャンペーンとともに、世界屈指の影響力を持つある女性ともコラボレーションしています。インスタグラムで1840万のフォロワーを獲得している女優のヤスミン・サブリです。
このキャンペーンで実現したいことは何でしょうか?
家庭で女性に向けられるちょっとした性差別を浮き彫りにすることです。次に誰かがバーチャルアシスタントを侮辱したら、”彼女”は反撃し、性差別的な行為や有害な言葉を浮き彫りにするでしょう。性差別的あるいは虐待的な言動が起きないようにするため、このテーマについて議論し、話し合い、啓発したいと考えています。
Luxが取り組むべき課題として性差別に行き着いた経緯は?
何よりも、Luxは女性のためのブランドです。私たちのコミュニケーションと広告の根底には、発展途上国や新興国のオーディエンスに関するインサイトがあります。「In her shoes」「Shut Up, Sexism」などのキャンペーンは、消費者が容易に理解し、共感できる不平等であり、アジアも例外ではありません。私たちがニールセンに依頼した2020年の調査がそれを裏づけています。
私たちは6つの市場を調査しました。中国、インド、インドネシア、ブラジル、中東、南アフリカです。調査の結果、女性たちは日常的に最大17種もの断定的発言を受けており、そのうち70%が外見に関するものであることがわかりました。
「In her shoes」と「Shut Up, Sexism」は、広告で取り上げることで日常の性差別に対する意識を高めるという、Luxの継続的なミッションの一部です。また、キャンペーンのグローバル展開の一部でもあります。私たちは2025年までに5000万人の女性にインスピレーションを与え、日常の性差別的な言動を恐れることなく、自分らしさを表現してもらうという目標を掲げています。私たちのキャンペーンは、加害者たちが女性たちに与える影響を自覚し、両者が敵対することなく協力し合うことをサポートするのです。
コーズマーケティングはLuxにとって、今後のマーケティングの戦略や方向性を決めるうえで重要なものですか?
これまで以上に多くの消費者が、自分たちが関心を寄せる社会問題や環境問題に取り組むブランドを支持するようになっています。そのため、日常のちょっとした性差別に取り組むというビジョンは私たちのビジネスを強化し、成功に導くと確信しています。また、パーパスを持つブランドは2倍以上のスピードで成長していることもわかっています。
Luxがパーパス志向に転じたのは、姉妹ブランドのなかでは比較的最近ですが、この3年間、このアプローチを着実に採用してきた国においては、非常に大きな成果が出ています。例えば、私たちにとって最大市場である中国では、製品広告にパーパスを取り入れることの効果を実感しています。
中国市場で最もよく見られる性差別の一つが、美しいが「頭が空っぽ」な女性という意味で、「花瓶」という侮辱的なレッテルを貼る文化です。そこで3年前から、私たちの長く続く香りが、そのようなレッテルを打ち破り、止めることができない(アンストッパブルな)強さで女性に力を与えるというテーマで広告を制作してきました。そして、これを補完するため、2021年には女性の共感を意識したポップス音楽「Unstoppable」を制作し、音楽とモバイル広告を用いた統合マーケティングキャンペーンで配信しました。
パーパスを重視した施策の成果は?
有意なブランドパーパスが、有意なブランド力を育むことはすでにわかっています。そして、ブランド力は、市場シェアと成長の原動力になります。このアプローチは大きな成果をもたらしています。中国では現在、スキンクレンジング部門の美容ブランドでは1位、スキンクレンジング全体でも、衛生ブランドのSafeguard(セーフガード)に次ぐ2位、eコマースでは、シャワージェルブランドの1位を獲得しています。また、中国では10年にわたって年率2桁の成長を続けており、このアプローチを開始してから、ブランドのシェアオブボイスは1%近く上昇し、2位の座を獲得しています。