ネットフリックスは現在、広告主が特定の番組やタイミングで消費者にリーチできるターゲティング機能を開発している。米国ラスベガスで1月はじめに開催された「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)2023」で、同社の広告幹部がそう明かした。
ネットフリックスのグローバル広告担当プレジデント、ジェレミー・ゴーマン氏は1月6日、今後予定されている広告付きプランのイノベーションについて簡単なプレビューを行った。同プランの健全性と将来性は、CES 2023に参加した広告業界関係者の間で、最も話題になったテーマの一つだ。
ネットフリックスのプレミアムコンテンツに広告を出すという興奮は、同社の「広告つきベーシックプラン」の開始後、数週間で冷めてしまった。予期したほど加入者数が増えず、機能も制限されていたことから、広告主は不当に高いCPMへの懸念を口にしていた。
アマゾンやスナップの広告幹部を歴任してきたゴーマン氏は、ネットフリックスは、「実用最低限の製品」から始めており、「這う、歩く、走る」で言えば、まだ「這う」の段階にあるのだと説明し、広告担当者たちの不安を和らげようと試みた。
現在提供している15秒と30秒のスポット広告は、「断じて、私たちの長期的な野心を体現したものではない」とゴーマン氏は述べた。スペインでは20秒のスポット広告を開始しており、今後広く展開していく予定だという。
ゴーマン氏によれば、ネットフリックスの長期的な野心とは、コンテンツに広告を、よりネイティブかつダイナミックに統合することだという。
具体的には、家族の再会や初デートの場面など、番組や映画の重要な瞬間を特定して、広告主が広告を動的に挿入できる機能を導入する計画だ。
「ネットフリックス上での、人々のメディア消費時間はかなり長くなっている。その結果、これまでとは全く異なるターゲティングの機会も生まれている。例えば、どこでもできるようなジャンル別のターゲティングだけではなく(中略)マーケターにとってより意味のあるタイミングで、広告を動的に挿入することもできるようになった」とゴーマン氏は話す。
ユーチューブは2022年、「モーメントブラスト」という同様の製品を発表した。主要なスポーツイベント、映画の封切り、製品発表などの重要な瞬間に広告を配信するというものだ。
Campaign USが取材した複数の広告幹部によれば、ネットフリックスは、リニアTVの15分区切りという基準に従うのではなく、人工知能(AI)を使って、番組や映画の自然な区切りを特定し、広告枠を挿入する計画を立てているようだ。
また、番組1話ごとのスポンサー契約や、(データの収集が必要ではあるものの)年齢や性別によるターゲティングも計画している。
ゴーマン氏は、最大55ドルと言われるネットフリックスのCPMが「マーケットにおける最高値」であることを認めている。これは、とりわけ広告製品が限られていることを考えれば物議を醸すものだ。ゴーマン氏はこうした価格について、高い需要と限られた供給、そして、コンテンツがプレミアムであることの副産物だと説明する。ただし、徐々に価格が下がることにはオープンな姿勢で、「どれくらいのCPMが妥当かは、市場が教えてくれるだろう」と言い添えた。
ゴーマン氏によれば、日用品からラグジュアリー、自動車まで、幅広い広告主がこのプランを活用しているという。
今後、オープンマーケットプレイス経由で広告在庫を販売するかについて、ゴーマン氏は言及しなかった。ザ・トレード・デスクのCEOジェフ・グリーン氏は、一足早く行われたCESのセッションで、「ネットフリックスが参加することでオープンインターネットが得るものより、オープンインターネットに参加しないことで(ネットフリックスが)失うものの方が多い」と語っている。
マイクロソフトは、広告付きプランの技術パートナーとして、ネットフリックスの広告配信に関する独占権を持っているが、Campaign USが取材した筋の情報によれば、ネットフリックスは今後2年以内に、アドテク機能を完全に内製化するのではと予想される。
マイクロソフトがネットフリックスを買収するという噂は、大手ハイテク企業のM&Aに対する米連邦取引委員会(FTC)の「積極的な調査」によってかき消されてしまったようだ。ちなみに、マイクロソフトによるアクティビジョン・ブリザードの買収も調査対象になっている。
「成長に満足」
ゴーマン氏は6日、広告付きプランへのユーザーの取り込みは予想より遅れているものの、ネットフリックスとしては「現在の成長に満足している」と断言した。
同氏は、1月19日に決算発表を控えているため、具体的な加入者数を明かすことは避けた。
分析会社アンテナは、2022年11月時点で、ネットフリックスの広告付きプランは、米国の新規加入者の9%を占めていたと推定している。一方、アンテナによれば、HBOマックスの広告付きプランは最初の1カ月で、米国の新規加入者の15%を取り込むことができていた。
ネットフリックスは11月、広告主に対して、ユーザーの増加が予想より遅れていることを周知した。同社は当初、2022年末までに50万人の広告付きプランの加入者を獲得すると約束していたが、Campaign USが入手した推計値では、実績は20万人弱だった。12月には、視聴回数の保証を下回ったため、広告主への返金を行ったと伝えられている。
ネットフリックスは、広告付きプランでより多くのコンテンツを視聴できるようにライセンスの交渉を進めている。ネットフリックスの通知によれば、立ち上げ当初には、コンテンツの最大10%が広告付きプランでは視聴できない状態にあり、今、数年前に締結した契約の再交渉を行っているところだという。
現在、広告付きプランは世界12カ国で提供されているが、それ以外の国で提供することは当分ないとゴーマン氏は述べている。わずか7人のチームで運営しているため、12カ国が「適切」なのだとゴーマン氏は説明した。
ネットフリックスが「広告つきベーシックプラン」を立ち上げた数週間後に、ディズニープラスも広告付きプランを導入した。つまりネットフリックスは、ディスカバリープラスのほか、HBOマックスやフールー、パラマウントプラス、ピーコックなどがひしめく、非常に競争の激しい市場に参入したことになる。
ゴーマン氏は、こうした競争を不安視しておらず、むしろ消費者にとっては良いことだと考えている。
「コネクテッドTVは、『上げ潮がすべての船を持ち上げる』状況にあると思う」とゴーマン氏は語る。「競争によって、各社が素晴らしいコンテンツをつくらざるを得ない状況になっている」
ゴーマン氏はさらに続ける。「私たちの場合、歴代の人気番組のうち5つは、かつてないほど競争が激しかった2022年のものだ。これは、すべての者がすべての者を良い方向へと押し上げている表れだと思う。そして、ストリーミングコンテンツが特別な存在であり続けていることは、誰もが認めるところだろう。リニアTVの市場が変化したり停滞したりしたときには、私たちが、広告主と顧客にその行き先を提供することができるだろう」
競争は、広告主にとっても良いことだ。プレミアム・ストリーミングプラットフォームを利用する、より幅広い視聴者にリーチできるようになるし、契約も有利に運ぶことができる。
しかし、ネットフリックスはまだ新しいチャネルであり、多額の広告予算を獲得するまでにはしばらくかかりそうだ。
レーザーフィッシュのCEOジョシュ・カンポ氏はCampaignの取材に対し、こう述べている。「ネットフリックスは、従来とは異なるタイプの消費者をもたらす可能性を秘めているが、すべてをもたらすわけではない。マーケターが扱うべきチャネルは増え続けており、ネットフリックスも最終的には、マーケティングミックスのなかに取り込まれることになるだろう」