政府機関や企業に情報を提供するパブリックアフェアーズアジア(PublicAffairesAsia)と人材派遣会社プロスペクト(Prospect)が、「2018 State of the Industry Report」を発表した。専門家67人へのインタビューと、クライアントやエージェンシーで働く400人以上の男女への調査に基づくものだ。
その結果、アジア太平洋地域の平均年収は男性が15万6千米ドル(約1650万円)、女性が12万2千ドル(約1290万円)であることが分かった。格差が最も大きかったのは香港で、男性が女性を平均で6万ドル上回る。最も小さいのはシンガポールだが、それでも1万ドルの差があった。
香港の状況を詳しく見てみると、20〜24歳でキャリアをスタートした時の平均年収は男女共に3万ドルだが、25〜34歳なると男性の年収は女性を6千ドル上回り、その後格差が広がり続ける。「企業は昨今、若手社員の間の格差をなくそうと努めているが、上の世代の格差が克服できないためにこのような不平等が生じる」と報告書は説明する。
「香港で依然、このように大きな格差があることに失望しています」と話すのは、香港のPRエージェンシー、シンクレア(Sinclair)の創業者でマネージングディレクターのキリ・シンクレア氏。「新人社員の格差は大きな問題ではありませんが、ベテラン社員の格差は非常に深刻です(報告書は、同じ年数の経験を持つ男女の間で最大9万ドルの格差があることを指摘)」。
同氏は男女格差が生まれる原因として、「それぞれが指向する仕事の内容が違う」ことを挙げる。「女性は消費者向けのPRに従事することが多い。それに対し男性は、業界でも比較的賃金の高い広報や財務に集まる傾向があります」。それでも、「最近は男女が指向する仕事に変化が見られる」とも。シンクレアのPRやデジタル関連の仕事への応募者は、10人中8人が女性だという。
「我々が評価されるのは、ビジネスの意思決定につながる戦略的思考ができるから。ですからPRやコミュニケーションに対する古い認識は変えるべきなのです。それによって我々の仕事の価値が高まり、金銭的対価も増して、より高い報酬へとつながる。こうした認識が広がれば、PR業務は男性にとっても魅力あるものになるでしょう」。
外国人社員は現地社員よりも高所得
報告書は、豪州を除くアジア太平洋各国で外国人社員の所得が現地社員のそれを上回ることも指摘する。中高年層(外国人社員40%、現地社員57%)を対象とした調査結果では、外国人社員の平均年収が15万6千ドルであるのに対し、現地社員は12万3千ドルだった。
この点でも格差が最も大きかったのは香港。外国人社員の年収は現地社員を6万4千ドル上回り、月額ベースでは5333ドルだった。
その理由の1つに依然、上級管理職の多くを外国人が占めることが挙げられるが、欧米系多国籍企業の間では“現地化”が一気に進んでいることも付記。報告書は、世界有数の金融グループUBSで日本と韓国のコミュニケーション及びブランディングを統括するジェイソン・ケンディー氏のインタビューを掲載。同氏は、「外国企業は見せかけの現地化ではなく、しかるべき理由で現地化を実践し、それを的確に市場に伝える努力が大切」と語っている。
「韓国と中国とは非常に異なります」とケンディー氏。「中国とシンガポールも非常に異なるし、シンガポールとタイも然り。そしてこれらの国々は、米国とも大きく異なっています。私の会社は大きな裁量を与えてくれるので、『このメッセージはこの国では通用しない』と言うことができる。ですから日本市場に適応するために、やるべきことがやれるのです」。
報告内容から、他の4つの要点
・ アジア太平洋地域で広報関連に従事する人々の平均年収は2017年に5%アップし、14万1千ドルだった。ボーナス額の平均は、基本給の23%。
・ 年収が最も高かったのは豪州(19万3千ドル)で、次いでシンガポール(15万ドル)、中国(13万8千ドル)、香港(12万5千ドル)の順だった。シンガポールを除く東南アジアの平均年収は、9万1千ドル。
・ 平均年収が最も高かったのは広報部門の社員で、19 万5千ドル。逆に最も低かったのはPRと社内コミュニケーション担当社員で、それぞれ10万5千ドル、9万2千ドルだった。
・ 企業内で広報に携わる社員の平均年収は、どの国でもエージェンシー社員のそれを上回った。その差が最も大きかったのは中国。企業の広報担当者が16万5千ドルだったのに対し、エージェンシー社員は8万9千ドルだった。
(文:オリビア・パーカー 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)