カルチャーの商業化をめぐって幾多の論争を巻き起こしたアンディ・ウォーホルなら、今日の代表的な商業イベントである11月11日の「独身の日」をどう表現するだろうか?
もはやそれを確かめることはできないが、世界で最も有名なポップアーティストと称されることの多い、この世界的なアートの象徴は、彼の財団とスキンケアブランドSK-IIとのコラボレーションにより、「独身の日」に合わせて発売される限定版新商品のプロモーションに起用されることとなった。
アンディ・ウォーホル美術財団でライセンス、マーケティングおよびセールス担当ディレクターを務めるマイケル・デイトン・ハーマン氏は、次のようにコメントしている。「このユニークなSK-IIとのコラボレーション商品『 アンディ・ウォーホル Xピテラ エッセンス限定版コフレ』を通じて、すべてのひとは美しいというウォーホルのインクルーシブな哲学を称えることができて大変興奮している。このコラボレーションでは、ウォーホルの非協調主義の精神が、アート、マスメディア、商業の垣根を超えて、生き生きと表現されている」
垣根を超え、境界を曖昧にするというモチーフは、マーケティングキャンペーン「あなたの美しさを表現しよう」でも追求されている。このキャンペーンで戦略とクリエイティブを担ったのは、2015年からSK-IIのグローバルクリエイティブパートナーを務める、フォースマン&ボーデンフォース(F&B)のシンガポール支社だ。映像は、オーストラリアに本拠を置くアンリステッド(Unlisted)が製作した。
SK-IIのブランドデザインおよびイノベーション担当グローバルバイスプレジデント、ガイユーン・ジャン氏は、Campaign Asiaの取材に応じ、ウォーホルとSK-IIを最初に結びつけたのは「すべての人は美しい」という共通の信念だったと述べた。「アンディ・ウォーホルは、世界で最も多作で人気のあるアーティストのひとりとして知られているが、誰もが彼の美に対するスタンスを知っているわけではない。彼は誰もが美しくなれる可能性を信じ、アートとマスメディアを通してそれを称えたのだ」
主に中国と日本を対象としたこのキャンペーンでは、ウォーホルが美について語った3つの名言、「All is pretty(すべてのものは美しい)」、「If everyone is not a beauty than nobody is(美しくない人なんていない)」、「I've never met a person I would't call a beauty(ぼくは美しくない人に会ったことがない)」を取り上げている。これらの言葉は、ピテラ エッセンスのパッケージにも使われており、パッケージの背景には、ウォーホルがテレビというメディアを探求するために設立した「アンディ・ウォーホルTV」のトレードマークで、ウォーホルの象徴でもある、テクニカラーのカラーバーのデザインがあしらわれている。
「アンディ・ウォーホル以上に、広告とカルチャーの関係を理解していた人はいない」と評するのは、F&Bシンガポール支社でクリエイティブを担当するゲリー・リム氏だ。「そこで私たちは、ウォーホルの膨大な創作活動の足跡を追い、放送の世界に対する彼の思い入れに命を吹き込んだ。その一部がSK-IIのボトルに美しく再現されている」
テスト放送のカラーバーは、ウォーホルの象徴的な作品「スクリーンテスト」シリーズで行われた、美の表現に由来する。同シリーズは、ウォーホルが自ら撮影した数百人の著名人と一般人で構成されるモノクロのポートレートだ。今回のキャンペーン映像では、SK-IIのブランドアンバサダーが撮影したモノクロ写真が、色々な街のさまざまなスクリーンに「放送」されている様子が映し出される。これらのスクリーンテストは、キャンペーンのキックオフとなったライブストリームシリーズの中心的なインスピレーションにもなったとジャン氏は説明する。
新しい放送の形を模索する:ライブストリーミングとソーシャルメディア
「独身の日」ショッピングシーズンの幕開けとなる10月8日に、中国のECサイトT-Mall上のSK-IIフラッグシップストアで、「Beauty Broadcast」ライブストリームの第1回が公開された。この動画は、中国過去最大のウォーホル展となる「Becoming Andy Warhol」を開催中の北京ユーレンス現代美術センター(UCCA)から配信された。
キーオピニオンリーダー(KOL、中国版インフルエンサー)にリーチしたこのライブストリームシリーズは、これまでに800万回以上再生されている。SK-IIのブランドアンバサダーやアートを愛好する著名人らが、音楽、コマース、アートを融合させながら、先に紹介したウォーホルの美の哲学について、それぞれコメントしている。
「アンディ・ウォーホルの作品は、芸術表現と広告、セレブ文化の間の関係性を探求している」とジャン氏は説明する。「デジタルメディアやソーシャルメディアが普及した現代において、『アンディ・ウォーホルTV』を再現し、最も魅力的な方法でこれを消費者に届けるためには、ライブストリームより適した配信媒体はほかに考えられなかった」
このほか、全体的なキャンペーンに含まれるクリエイティブとしては、Douyin(抖音)、Weibo(微博)、インスタグラム、ユーチューブ、ツイッターといった主要なソーシャルメディアプラットフォームで配信されるブランド動画がある。また、「アンディ・ウォーホル X SK-IIゲームセンター」も用意されていて、これにはゲーム化された仮想都市「SK-IIシティ」も含まれている。ここを訪問した者は、3つのステージをプレイする過程で、ピテラ自体やその使い方、パッケージのリサイクル方法、特典の利用方法などを学ぶことができる。
つながりのあるコラボレーションを実現するために
アート世界の住人の多くは、アーティストの名前や作品、アイデアを利用して消費財を宣伝することに抵抗を感じるかもしれない。しかし、ウォーホルは言うまでもなく、消費財のプロモーションをアートに変えた人物であり、このようなパートナーシップは非常に理にかなっている。契約の金銭的条件は公表されていないが、ウォーホル財団のハーマン氏は、今回のSK-IIのプロジェクトは、社会から取り残されたアーティストコミュニティをサポートする、我が財団の慈善活動を「手厚く支援する」ものであり、それを大変嬉しく思う」と述べている。
一方、ブランドの側にはリスクも多々ある。ウォーホル自身の人生や、彼の財団のその後の活動までが、たびたび物議を醸しているからだ。それでも、SK-IIはこのコラボレーションを、先進的な消費者にアピールするユニークな差別化ポイントのひとつと位置づけており、消費者はこのメディアメッセージをポジティブに解釈してくれると確信している。
SK-IIのジャン氏は、「私たちは消費者とつながり、ブランド構築の限界を押し広げるための、新鮮で有意義な方法を常に探している」とCampaign Asiaに語り、「Bare Skin Chat」におけるコミカルな演出や、アスリートが社会的圧力に立ち向かう様子をアニメーションと実写の組み合わせで描いた「VSシリーズ」など、過去の動画キャンペーンをいくつか紹介した。 さらに遡れば、伝統的な結婚観に強く異議を唱えた、「Marriage Market Takeover(婚活マーケットを乗っ取ろう)」や、いわゆる「売れ残りの女性(leftover woman)」の援護キャンペーンなども挙げられるだろう。
「美とアートを掛け合わせたアンディ・ウォーホル X SK-II限定版は、私たちが消費者とコミュニケーションするための重要な手段のひとつとなるだろう」とジャン氏は語る。「消費者には多様な興味があり、アートは彼らの世代にとって非常に重要だ。アートは、若い世代に向けて、『すべての人は美しい』という私たちのブランド哲学を新鮮かつ興味深い方法で表現することを可能にしてくれたのだ」