Staff Reporters
2024年4月15日

エージェンシー・レポートカード2023:博報堂

事業は好調で、イノベーションも猛烈な勢いで進めている博報堂。今年はDEIについても、ようやく大きな変化が起きた。だが男女比の偏りは是正が必須であり、設定した目標を具体的な行動に移すことが重要だ。

エージェンシー・レポートカード2023:博報堂

日本で二番目に大きな広告会社である博報堂には、2023年に向けた大きな目標が二つあった。DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みを世に知らしめること、そしてその地位をグローバルエージェンシーに高めることである。同社は2030年までに管理職の女性比率を30%にするという、ジェンダー格差を埋めるための大胆な目標を設定している。控えめな目標のようにも映るが、多様性への要求への高まりを反映し、包摂性にコミットして確実に推進していくという同社の決意の表れといえるだろう。だが、男女比の是正については言及しているものの、賃金格差の問題には触れていない。解決に向けて、男女間の賃金格差に関する監査の実施が望まれる。

「コレクティブ」と称する同社では、人間を単なる消費者としてではなく生活する主体「生活者」としてとらえている。経済の苦境が続く中、同社の売上高は堅調に推移し、アジア太平洋地域では従業員数が11%増加した。クリエイティブ面でも、複数の市場で賞を獲得し、存在感を発揮した1年となった。しかし、ドメスティックな企業というイメージを払拭してグローバルな広告会社としてのアイデンティティーを確立するには、女性管理職比率の引き上げが試金石となるだろう。

カテゴリー 2023 2022
ビジネス成長 B B
イノベーション B+ B
DEI & サステナビリティー C C-
クリエイティビティー & エフェクティブネス B+ B-
マネジメント C C
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ビジネス成長 (B)

博報堂は今後数年間に向けて、大きな経営目標を二つ掲げている。一つ目は、不況で低迷する市場において、世界的な広告会社として存在感を高めるというミッションだ。国内市場に強いというペルソナを払拭し、国際的なエージェンシーとしての名声の確立に意欲を見せる。そして二つ目は、広告の総合会社から、創造型なイノベーションのハブへと変わることだ。

同社には自動車、家電、アルコール・飲料、トイレタリーなどさまざまな業界のクライアントが3000社以上あり、主要顧客の失注は無かった。他の国内エージェンシーと同様、博報堂は新規案件獲得について公表せず、クライアントの情報を明らかにしない。最近自らを「コレクティブ」と称する同社は、合併や買収に精通している。生活する主体としての「生活者」を軸に、アジア太平洋地域の急成長を遂げる市場に投資し、「補完的なスキルセット」を備えた企業を買収するというのが、同社の戦略だ。この点において、カンヌライオンズ受賞歴もあるムンバイのブランドエージェンシーグループ「マーチング・アンツ&トリガー・ハッピー(Marching Ants & Trigger Happy、以下MA&TH)」の51%の株式を取得したことも、非常に理にかなった経営判断だろう。コンテンツや映画の制作に強みを持つMA&THは、テレビや従来型メディアに強い博報堂の事業を補完し、日本のクライアントだけでなく、インドの広告産業の中心地であるムンバイにおいて新事業の開拓に役立つシナジー効果が期待される。

MA&THの連結子会社化は博報堂にとって、2020年にデリーに本拠を置くアドグローバル360(Adglobal360)の買収に続くインド市場への2度目の重要な進出となる。また、この買収を補完する形で、同社はクリエイター、PR専門家、ストラテジストからなる国際横断チーム「シックス・ジャーニー(SIX JOURNEY)」を発足した。

経済的な逆風下にもかかわらず、博報堂の売上高は前期比10.7%増と堅調に推移した。これまでと同様、成長に大きく貢献したのはテレビCMで、マーケティング&プロモーション、デジタルメディア、印刷媒体広告、OOHがこれに続く。

戦略的な買収と、政府からの案件が増えたことで、売上総利益は4.3%増加した。

売上高の約20%を新規事業が占めたが、既存クライアントの案件の範囲が多様化・拡大したことも成長に寄与した。たとえば、クライアントである自動車会社が電気自動車の市場に参入することで、博報堂はそれをサポートする事業を拡大した。また、美容ブランドのウェルネス領域への進出にも対応し、同社は事業のポートフォリオを広げている。

イノベーション (B+)

博報堂がイノベーションに積極的な広告会社であることは、誰もが知るところだろう。常にしのぎを削り、数多くの取り組みを進めている。

興味深いことに、同社はメタバースやWeb3から撤退していない数少ないエージェンシーの一つであり、この確固としたコミットメントによって2023年に着実な成果をあげたようだ。

プロジェクトチーム「HAKUHODO-XR」は、XRやARのサービスを拡張した。メタバースアプリ「Zepeto」では、メタバースをテーマにしたオリジナルワールドを提供。シンガポールのステーク・テクノロジーズ(Stake Technologies)とは合弁会社「博報堂キースリー」を設立し、クライアント企業のDX開発や、事業領域の拡大、Web3関連のハッカソンの企画・運営を通じたエンゲージメントの深化を図っていく。

博報堂キースリーは、企業向けのウォレットサービス「wappa」を提供している。この事業は既存顧客への追加サービスのように見え、収益性については依然としてとらえどころがない。だがハッカソンのスポンサーとしてトヨタ、マツダ、三菱自動車など大手ブランドを既に集めている点を高く評価したい。カルビーもこのプラットフォームを利用し、ポテトチップスのおまけとしてNFT(非代替性トークン)を配布するキャンペーンを実施した。

AIを抜きにイノベーションを語ることはできない。博報堂と、シンガポールに本拠を置くキルトAI(QUILT AI)とのコラボレーションによって、AIを活用した文化分析ツールが誕生。このツールは複雑なデジタルデータを解析し、実行可能な戦略へと変換することに長けている。似たようなツールは存在しているが、これを市場調査にうまく活用し、広範なサービスとして提供する点において際立っている。同社のコンサルティング部門の戦略プランナーは既に中国やタイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、インドにて、研究のために使用している。

博報堂は2022年、100億円と巨額の研究開発費を投資し、クライアント企業のDX化を支援する「H+(エイチプラス)」を発足した。H+には、博報堂のデジタルマーケティングの能力を向上させること、そしてアジア太平洋地域での存在感を高めることという二つの目標がある。この部門のデータ統合やビジュアル化の能力は、アルチェリク日立ホームアプライアンスなどの案件獲得に貢献した。

2023年9月にはベン・プール氏がH+の成長担当ディレクターに就任した。これは同社のグローバル展開への意欲に沿った布石といえる。同氏の就任による影響を測るのは時期尚早だが、WPP、リプライズ・デジタル(Reprise Digital)、フィフティ・ファイブ(Fifty-five)などで培った幅広い経歴は、国際的に展開していきたいという同社のビジョンとも合致している。

他にも数多くのイノベーションを列挙することができ、中には有望なものや、同社の大きな未来予想図の点と点を結ぶものもある。多額のコストを要するものもあり、目に見えて高いROIを達成できるものは僅かだろう。だが全体的にみれば、「B(とても良い)」との評価に値する。同社ではH+をリブランディングの礎として重要視しており、プール氏のチームやその他の面白いフレームワークが生み出す具体的な成果によって、評価が「B+(非常に優れている)」へと高まるよう期待している。

DEI & サステナビリティー( (C)

博報堂がオフィスの公平性や多様性、包摂性を前進させていないことを、私たちは例年懸案してきた。

博報堂の従業員に占める女性の割合は、国内ではわずか26%、アジア太平洋地域では約50%、グローバルでは41%だ。女性の上級管理職の割合は国内で5.7%、アジア太平洋地域で31%、グローバルで26%と嘆息せざるを得ない。

男女別の賃金格差に関する監査は2023年には行われず、2024年中の実施を示唆するものも無い。

だが、良い兆候も見え始めている。当編集部の問い合わせに対して同社がDEIをこれほどまでに強調したのは、おそらく初めてのことだろう。職場のDEIの改善に取り組むことは、企業として成長していく上では不可欠だというCampaignの指摘を同社は認識しており、2030年までに管理職の女性比率を30%にするという目標を設定した。控えめな目標のようにも映るが、女性の割合が世界的にも低水準という日本の現状や、女性の管理職就任を阻害してきた文化的な背景を鑑みると、2030年までに30%という目標は同社の決意の表れといえるだろう。しかし、女性の割合は博報堂のジェンダー格差是正に必要な側面の一つに過ぎず、賃金格差の問題は依然として解決されていない。

もう一つの良い兆候は、同社がLGBTQの相談窓口の設置のみならず、配偶者要件を事実婚のパートナーや同性のパートナーに拡大し、人事制度や福利厚生の適用対象としたことだ。同性婚が法的に認められていない日本においては大胆な取り組みといえる。

無意識のジェンダーバイアスやインクルージョンに関する社内教育を行い、新卒採用では男性よりも女性を多く採り、生理休暇や介護に携わる社員の柔軟な働き方を認めるなど、取り組みを継続的に実施している。これらの取り組みは同社の進歩を表している一方で、世界の水準に追いつく必要があることの表れでもある。とはいえ、DEIに関する明確なKPIの設定や透明性は、明らかな進歩を示すもので、評価の上昇につながった。

同社は2050年までのカーボンニュートラル達成や、CO2排出量の段階的な削減、再生可能エネルギーの導入比率を2030年時点で60%に引き上げるといった一般的な目標の他に、ESG関連の目標を多数設定している。

繰り返しになるが、博報堂がこの項目で「C(まあまあ)」の評価を維持するには、DEIを一過性のものでなく、継続的に優先事項として取り組んでいく必要がある。

クリエイティビティー & エフェクティブネス (B+)

博報堂はこの1年、クリエイティブ面において着実に実績を積み重ねた。日産自動車(自動運転モップ)、甲子化学工業(ホタメット)、ロビンソンデパート(エアドラマー)など、東京やバンコクのオフィスから生まれた作品がクリエイティブで価値向上に貢献し、賞の獲得につながった。特にエアドラマーのキャンペーンは、タイの人々が割引を好むという特徴を巧みに描き、予想外の結末は視聴者の共感を呼ぶもので、卓越したユーモアが目を引いた。このキャンペーンによって、前年のプロモーションの期間と比較すると売上が12%増加し、インプレッション数は1,800万回に達した。また、キャンペーンの成功は国際的な広がりをみせ、中国、韓国、スペインなどの市場にも影響を及ぼした。

SIXが手掛けた相鉄・東急直通記念ムービー『父と娘の風景』も、心温まる素晴らしい作品だ。相鉄線の車内を舞台に、12年間にわたって変化する父と娘の関係を美しく情緒的に描いた本作品は、カンヌライオンズのフィルムクラフト部門で金賞を獲得。スパイクスアジアでも称賛を浴び、賞を獲得した。

東京、バンコク、ソウルなど国内外に拠点を構える博報堂は、グループ全体で合計77の賞を獲得し、存在感を発揮した。

マネジメント (C)

長らく終身雇用が求められてきた日本国内では、離職率の問題は無いようだ。博報堂の離職率は5%と低く、これは国内平均とも差が無い。アジア太平洋地域ならびにグローバルでの離職率について、同社は公開していない。

採用人数が最も多かったのは国内で293名、そのうち54%が中途採用、残りが新卒採用だった。香港オフィスでメディア責任者を務めたセドリック・ラム氏が2023年6月に退任。後任として、ゼニス(Zenith)、OMD、PHDなどを経てウェーブメーカー(Wavemaker)でビジネスディレクターを務めたフィリス・ラム氏を採用した。シンガポールのチームにはマネージングディレクターとして、アンディ・タン・ヒョク氏が加わった。ベン・プール氏はシンガポールにあるH+の成長担当ディレクターに就任し、戦略担当シニアアドバイザーのスティーブン・リ氏や、ホーチミン市を拠点とするジョー・グエン氏と緊密に連携している。

トレーニングや能力開発のプログラムは特筆すべきものはなく、ごく標準的だ。同社はクライアントの要求に機敏に対応し、イノベーションの提供やトレーニングの強化を適切に行っている。内部資源を活用した成長を促進するためのマネジメントコースもある。これらのプログラムにはかなりの資金を投資しており、従業員からの評判は良いと聞く。しかし、これらを受講する女性社員や、参加後のリーダー職への昇進に関するデータは無い。

博報堂は、幹部に新しい風を呼び込んだり、女性を積極的に登用することで有名な会社ではない。2030年に管理職の女性比率30%というのは、本拠地である日本の文化を考慮すると現実的な目標だ。しかしグローバルに展開する同社の規模を鑑みると、リーダー層の公平なジェンダーバランスが求められるが、現状は女性の割合は4分の1に過ぎず、これは今日のビジネス環境において看過できない数字だろう。

テレビ(33.7%)
マーケティング&プロモーション(27%)
インターネットメディア(16.7%)
クリエイティブ(14.3%)
新聞(2.7%)
屋外メディア(2.4%)
ラジオ(0.7%)
雑誌(0.5%)
その他メディア(9%)

フルファネル・マーケティング・サービス
新しいデータドリブン・マーケティング・ソリューション
豊かな社会づくりに貢献するソリューション

ブラウン
セントラル・デパートメント・ストア(タイ、小売大手)
コカ・コーラ
本田技研工業
花王
三菱自動車
日産自動車
パナソニック
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
スズキ
トヨタ自動車
ユニリーバ

B+: クリエイティビティーと従業員満足度を高めるため、人的資本の増加/再編/向上に取り組み、社内のDEIを推進した。このことが博報堂のマーケティングサービスの拡大につながり、過去最高の売上高や純利益を達成することができた。

 

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