両社が行うブランド価値の年次調査「ブランドZ」が、「日本で最も価値あるブランド50」を初めて発表した。上位企業は順当だったが、ブランドパーパスや海外実績は興味深い結果となった。
1位はトヨタ自動車で、ブランド価値は290億米ドル(約3兆1900億円)。2位のNTT(NTTドコモを含む)を90億ドル上回り、3位ホンダの約2.5倍だった。トヨタは自動車メーカーから「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジを図っており、その取り組みは順調のようだ。「革新性が非常に高く、良質のブランド体験を提供し、目的意識も明確と消費者はみている」と調査報告書は記す。
日本のトップ50社のブランド価値総額は2230億ドル。日本を上回ったのは米国と中国、ドイツ、フランス、英国の5カ国だった。
自動車、通信が1位と2位に
トップ50は17の業種から構成される。最も価値が高いのは自動車産業で、6社合計は総額の25%(547億ドル)。小売・アパレル業も合わせると総額の18%(397億ドル)に達した。
ブランドパワー、イノベーション、パーパス
- 「ブランドパワー」のカテゴリーでは航空会社2社がトップを占めた。このカテゴリーは、消費者が一つの分野から一つのブランドを選択するもの。
- ブランドZのランキング調査対象となった16カ国の中で、日本では価値の高い企業がブランドパーパスにおいても優れているという結果が出た。このカテゴリーは、「ブランドが生活にどれだけ貢献しているか」という消費者の実感を表す尺度。
- ブランドパーパスで首位になったのはヤマト運輸(ブランド価値は24位、27億ドル)。同社はブランドパワーとイノベーションでも上位にランクされた。
ブランドエクイティの格差
「ブランドZ:最も価値ある世界のブランド100」には日本から2社だけがランクインした(トヨタが41位、NTTが70位)。これは過去13年間で最も少ない数字だ。
日本企業の海外での「活躍度(海外での売上高や販売数量、収益性を組み合わせた評価基準)」は、ブランドZの調査対象国の平均値を下回る。「多くの国内企業は依然、『ものづくり』の視点からブランディングにアプローチしている」(同報告書)。
ザ・ストアWPP EMEA及びアジア担当CEO兼ブランドZチェアマン、デビッド・ロス氏は以下のように話す。
「日本企業がブランドエクイティのギャップを埋め、国際競争力を高めるには今がチャンス。海外での地位を高めていく余地は十分あります。消費者が求める質の高い製品の提供を続けつつ、成功の裏付けとなる要素を検証し、良質のコミュニケーションやマーケティング、イノベーションといったブランド構築への取り組みでこうした点を強化する。そうすることでブランド価値を高められるのです」
以下は、報告書がまとめたマーケターへの5つの助言だ。
1. 業績を上げるための投資
「健全かつ消費者が強い印象を持っているブランドは高い収益を上げる。他ブランドよりも速いペースで売上を伸ばし、品質の高さを訴求し、価値を高めることができる。日本での調査開始にあたって我々が自信を持って言えるのは、ブランドへの投資は国内外で利益を生むということ。将来的にもそれは変わらないと言える十分な根拠がある」
2. ブランド価値を高める「意義ある違い」
「人々の生活に良い影響を及ぼすブランドの『意義』と、同業他社と一線を画す『違い』。この2点を消費者が認めているブランドは、そうでないブランドよりもひときわ大きな価値を有する。『意義ある違い』は製品やサービスのみならず、印象的で説得力あるコミュニケーションによって消費者に伝播する」
3. 最大の成果を生むイノベーション
「力強いイノベーションを推進してきたと消費者が認めるブランドは、トップ50のランキングでも上位を占める。だが、イノベーティブな製品が常にブランド全体のイノベーション力につながるわけではないことを企業は認識せねばならない。革新性やクリエイティビティー、リーダーシップなどを発揮することで総合的なイノベーションへの評価が高まり、結果として業績が向上する。日本企業にはそのチャンスがある」
4. 価値を高める「特性」
「意義ある違いが将来的な成長を促すのなら、『特性』こそブランドを一流へと飛躍させる要素だろう。消費者が製品を購入する際、その特徴を認識し、他の製品よりも優先するのであれば、そのブランドには特性があることになる。これは日本市場で成長を果たすために特に重要な要素だ。日本では、特性の強いブランドは弱いブランドよりも1.5倍以上の価値が認められる」
5. 必ずしも海外で通用しない、国内での成功例
「国内外の評価のギャップを埋めるため、日本企業には新たな戦略が必要。世界的に統一されたブランドイメージを維持することが重要で、ローカリゼーションは必ずしもそれを壊すことにはならない。国内で通用する戦略が、海外でも通用するとは限らないのだ」
(文:マシュー・ミラー, 翻訳・編集:水野龍哉)