「想定外」をもたらす力
「クリスピン・ポーター+ボガスキー」のチャック・ポーター会長は、「『想定外』をもたらす力こそ、広告代理店の存在意義」と語った。同氏のセッションは、ユーモアに満ちた広告の楽しさを改めて問い直すものでもあった。題材として取り上げたのは、「チャブ用鎮静剤」(英国では攻撃的でマナーの悪いトラブルメーカーを、軽蔑の意を込めて『チャブ』と呼ぶ)やMiniの「偽造品」、バーガーキングの「NASCARチキンフライ」といった新旧のCF。広告代理店は常々、「広告はそもそも楽しくあるべきで、それを実現できるのは代理店のみ」とアピールするが、最近はそうした好例にあまりお目にかかれない。だが、これらの広告には確実にユーモアが溢れている。同氏は質疑応答で「広告に何を期待するか」と問われ、こう答えた。「とにかく私はCFそのものが好きなのです。優秀な若い才能に出会い、良い作品を生み出すことがとても楽しい。ばかばかしい答えですが、そうとしか言いようがありません」。
マーケティングは、「企業のアンテナ」
アイソバーのジーン・リンCEOは、「企業は消費者との接点であるマーケティングに力を入れ、その活動を広く発信すべき」と語った。更にスムーズなカスタマー・エクスペリエンスの必要性を説き、その一方で実用性のみを追求するのは得策ではなく、「昔ながらのコミュニケーションにもまだ役割がある」と述べた。「消費者が企業やブランドに親しみを持てるよう、垣根を取り払う必要があります。人々は必ずしも理にかなった判断ばかりをするわけではありません。合理性も大切ですが、心に響くストーリーを結びつけることが大事なのです。ブランド構築を成功させる道は、それ以外にありません」。
「なぜ」から始める
初日に続き登壇したレイ・イナモト氏は、「今日のマーケターはコンサルティング会社やデザイン会社、そして広告代理店などの間を右往左往し、ますます混乱した状態で仕事をしている」と指摘。特に日本における顕著な問題は、新しいプロジェクトに取りかかる際に「マーケターが『どのように』という方法論から入ってしまうこと」と述べた。肝心なのは、「なぜそれに取り組むのか」と自問すること。そしてその仕事に価値があるという前提で、ターゲットは誰なのか、次に何をなすべきかを熟慮し、最後に「どのように実行するか」を考える。こうした順序で物事を進めるのが唯一、明快な答えにたどり着ける方法だと力説した。
新しいアイデアを突き詰め、試す
東京にオフィスを開設したばかりのR/GAでアジア太平洋地域担当のエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるジム・モファット氏は、「今までにないまったく新しいものを要求するクライアントが、途中でおじけづき、『過去の成功実績を見せてほしい』と言い出すことがしばしばある」と語った。新たな手法には、いつもある程度のリスクがつきまとう。その1歩を踏み出すための最善策は、大きな構想から始め、「試験的に実行できるよう、できるだけ簡素な形に突き詰めること」。最初から完璧を求めていては、イノベーションは望めない。常により良い結果を目指すべきだが、「既存の良いアイデアがあれば迷わず使うべきです。常に新たな『発明』をする必要などないのですから」。
テレビは……決して変わらない
この日を締めくくるセッションのテーマは、奇妙にも昔ながらのテレビ広告だった。パネリストは資生堂ジャパン執行役員・音部大輔氏とデジタルマーケティング・コンサルティング会社「デジタルインテリジェンス」の経営陣2名。オンライン広告の安全性が懸念される中、テレビ広告は安全性が高いことから、マーケターが改めてテレビ広告を見直していることに言及した。その一方で、テレビ広告はいまだに誰が見ているのか、見た人はどれだけ興味を持ったのかという適切なデータが判明しないという欠点も指摘。広告予算をどのように割り振るべきか、ディスカッションでは明確な結論が出なかったが、マーケターの多くが頭を抱えていることは確かなようだ。日本では依然、テレビに圧倒的な広告費が計上されるが、本当にユニークな作品はオンラインの舞台に移っている。我々Campaignはテレビ広告に投資するマーケターに、1)成熟した視聴者にメッセージを発信していることを意識し、作品をテレビ向けにあつらえる2)オンライン広告から学んで、テレビ向けにより娯楽性の高い、特徴ある作品を仕上げることを求めたい。「成熟」とは、「退屈」と同義ではないのだから。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)