Sabrina Sanchez
2023年10月19日

アニメ人気の急上昇、Z世代獲得のチャンス

消費者が世界中のコンテンツをますます消費するようになり、ブランドは、米国視聴者の間で人気が急上昇している日本のポップカルチャーを活用しようとしている。

(写真提供:デュオリンゴ、許諾を得て使用)
(写真提供:デュオリンゴ、許諾を得て使用)

マンガの人気が復活している。そして、ブランドは「日本のアニメ」ブームに乗って収益を上げたいと思っている。

アニメは世界中のZ世代の間で人気が高まっている。コミック情報サイトのCBRによると、辞書アプリWordFinderが行った最近のキーワード分析で、アニメファンの割合が最も高いのはZ世代であり、69%以上がアニメコンテンツを視聴していることが判明したという。ミレニアル世代の57%やX世代の40%と比べてもかなり高い割合だ。

ストリーミングサービス各社も、マンガ原作の著作権を獲得してオリジナルアニメシリーズを制作し、プラットフォーム上の専門コーナーでアニメジャンルを紹介するなど、アニメ人気に乗じようとしている。

7月には、Huluが一般アニメと成人向けアニメに特化したアニメイヘム(Animayhem)というカテゴリを立上げ、そこで200以上のアニメシリーズを紹介している。一方、ネットフリックス(Netflix)は、数年を間かけて、『HUNTER×HUNTER』(ハンター×ハンター)、『鬼滅の刃』、『DEATH NOTE』(デスノート)などの世界的大ヒット作を中心にこのジャンルのコンテンツを開拓してきた。

人気が高まるにつれて、制作への投資も増加している。ネットフリックスは8月に、人気マンガアニメと同名の『ONE PIECE』(ワンピース) 実写版シリーズを発表。公開から1週間足らずで、84ヶ国でネットフリックスのテレビシリーズランキング1位を獲得し、人気シリーズの『Wednesday』(ウェンズデー)や『Stranger Things』(ストレンジャー・シングス)を抜き去った。

アニメは、米国ポップカルチャーのメインストリームとなりつつあり、デュオリンゴ(Duolingo)、エンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)、NBA、日産自動車などのブランドが、その人気を活用して米国の消費者にリーチしようとしている。

ブランドもこの大ブームに乗っている

『ONE PIECE』ファンがネットフリックスのシリーズを観て感激している中、ゲーム開発会社エンスージアスト・ゲーミングは9月に、『ONE PIECE』アニメの2大勢力である「麦わらの一味」(主人公モンキー・D・ルフィが東の海で結成した海賊団)と「海軍」を描いた、バトルロイヤルマップをフォートナイト(Fortnite)で公開した

その前5月には、言語学習アプリのデュオリンゴが、アニメ配信サービスのクランチロールと提携して、『NARUTO -ナルト-』や『ドラゴンボールZ』などの人気アニメのセリフを取り入れた、没入型の日本語レッスンコースをローンチしている。コースに46の新しいフレーズと37の新しいスキルを追加したこのキャンペーンは、13歳から22歳のアメリカ人から要望の多い言語として、日本語が第3位になったことをうけ実施されたものだ。キャンペーンでは、デュオリンゴのアプリ内にアニメ風のマスコットが登場し、クランチロールの登録割引コードも提供された。

デュオリンゴの米国マーケティング責任者、ミカエラ・クロン氏によれば、日本語学習やアニメへの興味関心の高まりは、大ヒットしたアニメ映画や番組、ビデオゲーム、コスプレ、旅行、そして関連展示会の増加などに起因しているという。

「英語が主言語ではないエンターテイメントを視聴する場合、少し違和感を覚えることがあると思いますが、視聴コンテンツの言語に多少の知識があると、より楽しく観賞することができるのです」と彼女は説明した。

アニメの世界的な人気の爆発が、デュオリンゴのキャンペーンの成功にも寄与した。このキャンペーンは、ソーシャルメディアで3900万件以上のインプレッションを獲得し、同社がこれまでに行ったキャンペーンの中で最も成功したキャンペーンの1つとなった。

クロン氏はさらに「他の分野、例えば韓国(韓流)エンターテインメントなどにも、米国で急速に台頭しているものがあります」と述べ、特に若年層オーディエンスほどグローバルコンテンツに触れる機会が多いと指摘した。社内データによると、デュオリンゴ上の日本語学習者全体のうち、86%は30歳未満であり、その内13歳から22歳が70%を占めているという。

また7月にはNBAが、スーパーヒーローもののアニメ作品『僕のヒーローアカデミア』とのコラボレーション商品を発売した。NBA Conで発表され、NBAの9つのチームの商品に、作品キャラクターが登場した。各チームは次の通り:ロサンゼルス・レイカーズ、ゴールデンステート・ウォリアーズ、シカゴ・ブルズ、ボストン・セルティックス、フィラデルフィア・76ers、ニューヨーク・ニックス、マイアミ・ヒート、ダラス・マーベリックス、及びポートランド・トレイルブレイザーズ。

さらに2月には、日産自動車が、新型EV、日産アリア(NISSAN ARIYA)のプロモーションとして、ローファイ・ガール(Lofi girl)動画にインスパイアされた、日本のアニメ風キャラクターが登場する4時間にわたる音楽プレイリスト(勉強中や仕事中に聴くプレイリスト)を、ユーチューブ上で配信した。

このキャンペーンは、「日本のアニメにインスパイアされた世界観を構築する」ため、ユーザーの瞑想的な瞬間を活用する試みだと、日産自動車の担当者はCampaign USに語った。ローファイやアニメのコミュニティに参入することは「クリエイティブ上のリスク」でもある。そのため「この広告の制作にあたっては、徹底的にディテールに拘っている」と言い添えた。

「ユーチューブの過激で率直なコメントに晒される前に、新型EVにインスパイアを与えた日本の未来的な雰囲気を表現しつつ、ローファイスタイルをうまく具現化できていることを確認する必要があったのです」と彼らは述べた。

この4時間にわたる広告は、ユーチューブで110万時間超の視聴時間を記録し、日産チャンネルの登録者数を、少なくとも2.7万人増加させた。また、3.5万件のユーチューブプレイリストにも追加登録され、2月1日から3月8日までの日産アリアの商品検索数も、前月比で75%上昇した。

アニメはセレブのステータス

クランチロールのグローバル・クリエイティブ・マーケティングの上席副社長を務めるマーカス・ゲルデマン氏によると、アニメを用いた最近のブランドキャンペーンの成功の数々は、アニメがもはやニッチなジャンルではなく、世界的な魅力を持つ広範なコミュニティになっていることを示しており、それはマーケターの間でもすでに広く認識されているという。

「アニメは今やポップカルチャーの重要な一部になっている」と述べ、有名人たちもこのアートタイプからインスピレーションを受けていると付け加えた。「かつては必ずしもアニメからだけではありませんでしたが、今では状況が変わりました」

「このコミュニティのユニークな点は、ファン層とメディアへの思いを他人と共有し、他人を巻き込もうとする熱量があることです」と彼は続けた。「このコミュニティでは、興味関心が増幅するのです」

確かに、今では多くの影響力ある人物たちがアニメを応援している。実際、何人かの大物セレブリティが、個人的に、あるいはブランドとのコラボを通して、アニメの支持を表明している。

例えば、ラッパー兼音楽アーティストのメーガン・ザ・スタリオンもその一人だ。本名がメーガン・ピートであるスタリオン氏は、名声を得て以来、アニメファンであることを公言し、インタビューでも『鬼滅の刃』や『ブラッククローバー』などの作品が大好きだと語っている。2020年には、クランチロールとのコラボレーションで、自身の楽曲「サベージ(Savage)」に触発されたアニメ風衣装のコレクションも披露している。

他のセレブも、ファッションやアートにおいて、アニメを使って自分自身を表現している。4月には、ドージャ・キャットが、スケッチャーズウノのスニーカーの広告で、自分自身と対決する姿を描きだした。そこでは、彼女の2つの対立するアイデンティティが、アニメの戦闘シーンに出てくる格闘技で対戦訓練を行っている。そして、2つの分身はそれぞれ、自身にインスパイアされたスニーカーを身に着けているのだ。

そして9月には、プロテニスプレイヤーのコリ・"ココ"・ガウフ(Coco Gauff)氏も、全米オープン中にニューヨーク・タイムズの取材に応じ、『僕のヒーローアカデミア』が最もお気に入りのアニメだと語った。

ブランドは、アニメファンの熱烈な忠誠心はもとより、視聴者全般のアニメへの思いや文化的なつながりについても理解しつつある。

ティックトックなどのソーシャルメディアを通じて、アニメへの言及やミームが西洋文化にも幅広く現れるようになった。そしてブランドも、アニメが若い世代にアプローチする優れた方法だと認識するようになった」と、日産の広報担当者は述べた。

アニメは世界に広がる

アニメが米国でファンを増やす一方で、その文化的な影響力は世界中に拡大しつつある。

ゲルデマン氏によると、クランチロールが最も急成長している市場には、米国に加えて、ブラジル、フランス、ドイツ、メキシコなどがあり、アニメコンテンツに興味を示す人は世界中に8億人以上いるという。

アニメは劇場での存在感も増している。例えば、2月にはアニメ映画『すずめの戸締まり』が、ベルリン国際映画祭に登場している。アニメーションのタイトルが同映画祭に登場するのは、実に20年ぶりのことだ。

新シーズンのリリースもますます大規模になっており、アニメコンテンツを新しい別の言語に吹き替える需要も増加していると、ゲルデマン氏は付け加えた。例えば、クランチロールでは現在、作品をヒンディー語に吹き替える作業が進行中だという。

最後に、アニメに関連した対面イベントも世界中で着実に成長し続けている。日本以外で最も多くの日本人が住む地域であるブラジルは、サンパウロで世界最大級のコミコンイベントを開催している。クランチロールは、昨年、東京でアニメアワードを主催し、今年も開催する予定だという。アニメニューヨーク(Anime NYC)は、今年11月に開催予定だ。

「アニメへの関心は非常に高まっていますが、コアユーザーに忠実であり続けなければ、彼らにリーチすることはできません」とゲルデマン氏は言い、「改善の余地がたくさんあります」と言い添えた。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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