ベインキャピタル傘下に入ったADKはここ数年、マーケティングサービスやクリエイティブ、コンテンツマネジメント関連の部門を新設し、効率化を図り、生産性を高めるなど、社内体制の整備を精力的に推し進めてきた。組織構造はより明確になり、素早い意思決定がしやすくなった。同社の国内事業は現在も、従来型の広告・メディアビジネスが中核となっており、これを収益性が高いアニメコンテンツが強化し、アジアの新しい視聴者をソーシャルメディアで獲得している。
しかし2020年には、COVID-19によって消費者とブランドの接点がデジタルへと移り、ADKはマスマーケットメディア以外の事業の拡大に重点を置くようになる。まず1月には、国内のデジタルPRエージェンシー「キャッチボール」との業務提携を発表。続いてLINEと共に、クライアント企業のコミュニケーション施策支援を強化した。特に注目すべきなのは、国内でのD2C(自社製品をECサイトで直接販売するビジネスモデル)の成長性を見込み、同社がダイレクトマーケティング領域で培ってきた強みを活かした事業を展開したことだ。パンデミックに伴う業績や経済の低迷がなければ、さらに多くの投資が行われる可能性がある。
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WPPとの提携を解消し、新しい成長領域に対して自由な投資ができるようになったADKは2020年、パフォーマンスマーケティングを中心としたサービスをグローバルに提供開始した。目玉となるのは1月にパフォーマンスマーケティングに特化した「ADK CONNECT」を立ち上げたことだろう。より透明性が高く、データ主導型のコンバージョンキャンペーンを実施するもので、第一弾としてベトナムのデジタルエージェンシー「ベトバズアド」(「VBA」に改称)を買収した。7月にはインドネシアに新会社を設立し、シンガポールの連結子会社の社名もADK CONNECTに一新。バンコク、上海、広州、香港、台北でも事業を開始した。
ADKが追求するもう一つの分野は、ヘルスケアだ。既に複数の大手製薬会社をクライアントとして持っているが、中国でヘルスケア関連クライアントに対応する専門ユニット「ADKヘルス」を立ち上げている。米国でも新規に事業投資を実施した。
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日本以外では主にアジアに焦点を当てており、特に中国とタイの占める割合が大きい。グローバル事業センターで事業戦略部長を務める末松真人氏は、アリババとの中国における新しいソーシャルメディア事業や、新規事業を生み出すバイトダンスならびにソニー・プレイステーションとの提携について、展望を詳細に説明してくれた。中国以外では、ベトナムでケンタッキーフライドチキンとLGのローカル案件を獲得した他、愛奇芸(iQiyi)、マニュライフ、朝日生命のソーシャルメディア案件も獲得している。台湾では、クノール(ユニリーバ)をはじめとする日用消費財大手の案件をいくつか獲得した。
多くの日本の広告会社と同様、ADKも情報開示には慎重だ。5月に、シンガポールでNTUCフェアプライス(スーパーマーケットチェーン)のアカウントをハバスワールドワイドに奪われたことは把握しているが、その他の案件の受注・失注については国内・国外とも回答を得られなかった。
COVID-19の影響を受けて、ADKでも地域によって売上高が減少した。レイオフも実施されたが、アジア各地での新オフィス開設によって補われている。国内ではデジタル領域の専門職を増員しており、社員数は増加。離職率が低いのは、日本の転職市場の動きが緩やかであることも一因だろう。社員数は比較的多いが、社員への強力なサポート体制の構築、ポジティブな企業文化の醸成、ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包括性)の促進といった取り組みは不十分だと言わざるを得ない。
今回のエントリー時には、コロナ禍における在宅勤務の推進と、産前産後休業や育児休業の取得数が男女とも増加したこと(そして100%の職場復帰率)などが記載されていた。だがこれらは健全な職場環境に不可欠の要素であり、決して十分ではない。国内事業の大部分は今も従来型のビジネスではあるが、電通やマッキャンなど同業他社の変化に後れを取らないことも必要だ。国外では、アジア担当CFOのメイ・チュア氏(シンガポール)やVBAのCEOであるグエン・フュ・ハイン氏(ベトナム)など、リーダーシップ層のジェンダー多様性はわずかながら改善がみられる。末松氏もこの課題を認め、同社内のダイバーシティーの推進に今後取り組んでいきたいと述べていた。
だがADKが社会課題やインクルージョンの必要性を認識していないわけではないことは、同社の作品からも明らかだ。中でも近年注目されたのは、難病や重度の障害で外出が困難な人が分身ロボットを操作し、カフェで接客する「分身ロボットカフェ」だ。障害者の雇用を促進するこの取り組みは2018年にスタートし、2020年にD&ADで2つの賞(ウッドペンシル、フューチャーインパクトペンシル)、AD STARS(釜山国際広告祭)ゴールド賞、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSグランプリを獲得した。また4月には、クリエイティブディレクターの玉川健司氏が、アムネスティ日本「Cruel Recruitment(残酷な求人)」などが評価され、日本広告業協会(JAAA)のクリエイター・オブ・ザ・イヤー賞のメダリストに選出された。
ADKの2020年の作品はここまで知名度が高いものではなかったものの、Little Glee Monstersのオンデマンド有料ストリーミングライブ(6月)、ラジオ局を横断したポジティブな声を届けるプロジェクト(5月)、江ノ島周辺の混雑状況可視化の実証実験など、実用的で遊び心があり、創造性に富むものが目を引いた。今回の選考にあたり、企業の宣伝広告でクリエイティビティーを発揮した作品をもっと見てみたかった。トップブランドの顧客のための、傑出した商業広告を期待している。
ADKは、より良い組織の構築に着実に取り組んでいる。健康領域のマーケティングやパフォーマンスマーケティングは、同社の発展に寄与することだろう。しかし、同社がアジア太平洋地域で競合するグローバルエージェンシーと互角に渡り合うためには、このようなビジネス感覚を作品へと昇華させる強いクリエイティブ力が不可欠だ。
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(ADKは主要クライアントを公表していない。Campaignは公開されている情報をもとに上記のリストを作成した) |
(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)