David Blecken
2018年10月26日

デザインでブランド力を強化 PMI「アイコス」

東京で世界市場に向けた新型アイコス(IQOS)が発表された。アピールされたのは健康への害の少なさだけでなく、デザインと滑らかな味わいだ。

アンドレ・カランザポラス氏。東京での記者発表で。
アンドレ・カランザポラス氏。東京での記者発表で。

10月22日、フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)は加熱式たばこ「アイコス」の新製品「アイコス3」と「アイコス3マルチ」を東京で発表した。「次世代アイコス」という位置づけで、世界市場を対象としたものだ。

アイコスは2014年に日本でデビュー。PMIにとって日本は最大の市場で、同社によれば国内たばこ市場におけるアイコスのシェアは20%近く。東京で発表会が開かれたのももっともと言えるだろう。これに先立ち、PMIはより多くの広告代理店やPRエージェンシーと連携していくことを発表。更に、日本におけるアイコス関連業務の多くをピュブリシスからマッキャン・ワールドグループ傘下の「サーティーン」に移した。

これまでPMIはアイコスの健康への害の少なさを重点的にうたってきたが、記者発表会ではアンドレ・カランザポラスCEOが新製品のデザインやイメージ、そして付随する数々の「素晴らしいアクセサリー」に関して詳細に説明。「これらは消費者からのフィードバックに基づいて開発され、消費者体験の向上を目指すものです」。価格の高いアイコス3は「より上質な味わいと非常に使いやすいユーザーインターフェースが特徴」。充電方法も改善され、アイコス3マルチではヒートスティックを最低でも10本連続で吸え、チェーンスモーカーにとっても満足できるものとなった。

更に同氏は、アイコス3マルチを「より身近に感じてもらうため、外観は576通りのカスタマイゼーションが可能」とコメント。「消費者にアイコスを1日中過ごす友人のように思ってもらうためには、視覚的な魅力や感触の良さは欠かせません」。アイコスの製作にはかつてアーティストや工匠が関わっており、こうしたコラボレーションは「ブランドのプロダクトマーケティングにとって重要な要素となる」。

「我々はアイコスを出来る限り美しく、パーソナライズしたいと考えています。だが言うまでもなく、アイコスは芸術品ではありません。最も魅力的なデザインと高いクオリティーを実現するため、常にバランスをとっていかねばなりません。デザイン面ではまだコラボレーションの余地があり、我々はそれを追求していきます」

観測筋は −− ある者は好意的に、またある者は批判的に −− アイコスのポジショニングとアップルのそれとを比較した。確かに今回の記者発表では、世界で最も価値の高いブランドへのPMIの対抗心を感じさせた。会場では「ワールドプレミア」「この製品が世界を変える」といったコピーが踊り、カランザポラス氏は「ファン」という言葉を使い、「アイコス・ファミリー」を増やす目標を掲げ、「先行予約」について語った。エキシビションスペースでは、アイコスの研究開発の過程を長々と見せるビデオを上映。情熱的なナレーションは最後にこのように締め括った。「これこそが精緻の極み。無煙たばこの未来を創造する科学なのです」。

新たなアイコスのラインナップ。(写真提供:フィリップ・モリス・インターナショナル)


ブランドイメージと製品に「洗練さ」を加味することは、用心深い喫煙者を取り込む上で重要な手段だ。アイコス愛用者は国内にある9店舗のアイコス・ストアで「メンバー」となれ、販売店でコーヒーが飲めたり、会員を対象としたイベントやコンサートに招かれたりするロイヤリティープログラムが供される。だがそうした一面とは対照的に、記者発表の前に立ち寄った東京・銀座のアイコスストア旗艦店の脇ではアイコスの広告の前で雨に濡れながら紙巻きたばこを吸っている人々の姿が目についた。彼らはPMIに取り残されようとしている、紙巻きたばこの頑固な愛好者たちだ。

カランザポラス氏は登壇中、「通常のたばことは味も香りも異なるアイコスをよく知るには、全ての友人と同じように時間がかかるかもしれません」と語った。あるPMI社員は、アイコスの香りを「ベイクドポテトに若干似ている」と表現。コミュニケーション担当シニアバイスプレジデントのマリアン・ザルツマン氏は、「家政婦が夢中になって消臭剤を使い過ぎたときのような香り」と言い放った。「でも重要な点は、非喫煙者の私にとって気にならないということです」。

喫煙者自身への有害性を減らしたといううたい文句とは別に、「他者を配慮し、“調和”を生み出す製品」というPRが「日本でシェアを伸ばすのに効果的だった」と同氏。「1つ言えるのは、家庭からたばこの灰を除去できたこと。それが大きな原動力になった。たばこの灰は夫婦の仲違いの元です。アイコスに切り替えた喫煙者は、より幸せな生活を送っています」。

喫煙者をアイコスに切り替えさせたもう1つの戦略は、「父の日」や「母の日」に合わせたプロモーションだ。健康に良くない親の習慣を、子どもの視点から考えさせようというもの。「日本では子どものためであれば親は何でもします。もし子どもから『紙巻きたばこではなくアイコスにして』と頼まれれば、お父さんやお母さんはおそらく従うでしょう。紙巻きたばこが歓迎されていないと感じれば、無煙たばこを試すはずです」。

更なる決め手は値段だ。最初にかかるハードウェアのコストは比較的高いが、長い目で見れば通常のタバコよりも費用はかからないとPMIはいう。「紙巻きたばこにこだわる喫煙者と異なる角度からコミュニケートする取り組み」(カランザポラス氏)として、現存のものより30円安い様々なヒートスティックを今後売り出すという。

アイコスを取り巻く環境が厳しくなっていることは、カランザポラス氏自身も認識している。ライバル社がセールスへの取り組みを強化し、日本でのアイコスの売上の伸び率は減少傾向だ(アイコス銀座店のすぐ近くでは、ブリティッシュ・アメリカン・タバコがライバルブランドである『グロー』の新店舗を建設中)。それでも同氏は、「3年以内に日本の喫煙者の大多数が加熱式たばこに切り替えるでしょう」と話す。

将来を考えれば、新たな市場の発掘がより優先事項となるだろう。一般の消費者が無煙たばこを購入する経済的ゆとりがない発展途上国では、たばこ会社は紙巻きたばこを積極的に売り続けている −− 彼らはこう批判される。ザルツマン氏は、「確かに我々は途上国で紙巻きたばこを売っていますが、販促予算は減っている。アイコスに切り替えるよう促すキャンペーンにより多くの支出をしています」。その後PMIのスポークスパーソンが明らかにしたところによれば、2017年の同社の広告支出の40%は無煙たばこに充てられており、今年は55%以上になる見込みだという。日本のような先進国市場では、80%以上が無煙たばこに充てられている。

「10〜15年前は、マールボロのマーケティングが最も優れているとされていました。でも今では、誰が担当しているかすら知りません」とザルツマン氏。

PMIにとっての更なる課題は、「健康に害の少ない製品を低所得層の人々に提供すること」(同氏)。通常のたばこを売り続ける理由については、「PMIがたばこを売ろうと売るまいと、喫煙者はたばこを吸い続けます。ですから社の利益をより健康への害が少ない、質の良い製品の投資に使うのは好ましいこと」。

一方でPMI幹部は、たばこに関連するリスクを完全に避けたいのであれば「喫煙はやめるべき」と公言している。今週前半、PMIは英国で禁煙を促す広告キャンペーンを行い、強い批判を浴びた。批評家たちは「喫煙を連想させる隠れたマーケティングだ」と糾弾した。

「変革を試みるときには、必ず反対論者が出るものです」とザルツマン氏。「『PMIは良くない会社だ』と言うのは、一般の人々の自然な心理傾向でしょう。我々のような会社が世の中を良くする、ということを彼らは信じないのです。皮肉なことに、我々にそうさせる要因はモラルとビジネス的責務の両面なのですが」。

たばこ会社に入社することについても、はじめは抵抗を感じる人は少なくないだろう。ザルツマン氏自身、今でも「アウトサイダー的気分」だが、たばこの害を減らすという明確な目標に向かって歩んでいる自覚をむしろ感じているという。「45億米ドル(約4950億円)を投じ、人々のためになるより良い仕事をしようとしているのです。傍観者の立場でただ批判しているだけが、果たして良いことなのでしょうか」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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