ベインキャピタル によるADKへの株式公開買い付け(TOB)が成立してから3カ月が経つ。これまでベインは将来性のあるADKの事業について語ってきたが、逆にADKは被買収から得られる成果 −− WPPとの不幸な「結婚生活」から自由になること以外で −− に関しほぼ沈黙を保ってきた。
この2月、ADKの中井規之・取締役専務執行役員がはじめてCampaignの取材に応じ、同社の現状、そして今後起こり得る変革をどのように捉えているかを語った。新たな経営戦略の発表を4月に控え、現時点での同社の見解を以下にまとめる。
ベインとの取決めである合理化の推進
プライベートエクイティ(PE)ファンドは容赦のない経営合理化を進めることで知られるが、ADK社員にとってはそれが悩みの種だ。だが中井氏は、「合理化は長年の懸案だった」という。「3年前に着手すべき案件でしたが、実行が難しかった。それゆえ、ベインのプランに懸念はありません」。「合理化はスピードアップしなければならない。どの企業にも組織としての『緩み』があります。我々はそれを克服せねばなりません。業績が落ちている事業は取り止め、成長分野に再投資をしていくことが肝要です」。
変革には、丁重な社内コミュニケーションで
中井氏は、「機動性」をより発揮するには構造改革が必須と考える。組織をこれまでのように維持する方が「楽なのは確か」だが、その選択肢はないという。「変革に消極的な社員には、説得力あるビジネス目標を与えることが大切でしょう。場合によっては、これまでとまったく異なる目標を設定してやる気を起こさせることも必要になってくる」。言うまでもなく、概して若手社員の方がベテラン社員よりも改革に肯定的だ。だが年配社員たちも危機感は持っている。「社内に世代間のギャップがあることは確か。変革はリスクをはらみ、時には痛みを伴う困難な作業です。それに直面することで、社員は無気力に陥りやすい。そうした空気を打破するには、丁重な社内コミュニケーションこそが唯一の解決策です」。
目標とする「コンシューマー・アクティベーション・カンパニー」に
ADKがしばしばうたってきたこの言葉は、意味が不明瞭だ。中井氏によれば、「単にコミュニケーションの創造ではなく、消費者行動の刷新に注力すること」だという。WPPとの提携関係が解消され、協業するパートナーを自由に選べるようになった今、「この目標達成は容易になりました」。「オープンネットワーク型グループへの転換」を推し進め、新たな分野のビジネスの活性化を狙うという。2017年の決算では、メディア関連以外の事業が勢いを失っていることが判明した。今後注力すべきは、クライアントに対し新旧のビジネスで効率性を立証することだろう。そうすることで、競合する大手2社との差別化も可能となる。
「デジタルファースト」とは「データファースト」
ベインによるTOBが進行中だった昨年、ADKは「デジタル優先企業になる」意思を表明した。「この言葉は誤解されやすかった。目標とするのはデータ主導です」。それこそが「コンシューマー・アクティベーションを実現するための優先事項」であり、同時に「我が社の購買データの分析能力の欠如を意味するわけではない」。同氏はデータ重視の戦略が変革を生むことを期待する。「購買データと消費者データ、そしてメディアデータをつなぐことができれば、消費者個々のアイデンティティーを把握した完璧なトライアングルを作り上げることができます」。電通は昨年10月、楽天とともに「楽天データマーケティング」を立ち上げた。ADKがこの分野でどのような戦略を打ち出そうとも、電通の先を行かねばならないだろう。
海外ビジネスを強化、だが不透明な部分も
昨年12月、ADKは海外事業を統括する部署を改革、片木康行氏をCEO、ロバート・シャーロック氏を会長に据えた。同社の海外における収益の70%は、日本企業のクライアントから。日本人ながら10年に及ぶ海外経験を持つ片木氏を、新たなステージにビジネスを引き上げる適任者と踏んだようだ。国際的な広告代理店でキャリアを積んだ片木氏の起用は、異例の措置。中井氏は片木氏を「別の生き物」と呼び、この異動を「より多文化的組織を築くための1歩」と位置づける。ベインはADKの国際競争力を高める上で中心的な役割を果たすと見られるが、中井氏も片木氏も具体的な戦略に関するコメントは避けた。
コンテンツビジネスとクライアントビジネスの連携
WPPはADKのコンテンツへの投資に反対だったようだが、逆にベインは重要な事業とみなしている。ADKは「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」といった人気アニメの版権を扱い、「こうした要素はコンテンツマーケティングビジネスの拡大に有益」と中井氏。「我々はコンテンツマーケティングを強化せねばならず、そのためにはクライアントとのビジネスでこれらのキャラクターをより活用していくことが重要」。「これまでコンテンツビジネスと代理店ビジネスとは、どちらかと言うと別々のものでした。国内外でのビジネス拡大のため、我々はこの2つの統合を目指していきます」。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)