Sarah Hardcastle
2017年9月07日

ロンドンのトリバゴの広告から学ぶ教訓

退屈顔のモデルと大きな検索バーを、見たい人なんていない。

ロンドンのトリバゴの広告から学ぶ教訓

編集者のコメント:これは現在ロンドンで展開されている広告に対する、ひとつの意見だ。しかしモデルや有名人を起用した平凡な屋外広告が多い日本と、無縁な話題ではないだろう。

今ロンドン中心部を移動すると、どこに行っても同じ人物に出会ってしまう。

トリバゴの広告の女性だ。

彼女はバスの車体や屋根付き停留所など、あらゆるところにいる。退屈そうな顔つきで「理想のホテルを最適な価格で」とむなしく訴え、大きな青い検索バーと共にアムステルダム、ニューヨーク、コスタ・ブラバへといざなうのだが、見る側はなかなかその気になれない。

この濃茶色の髪の女性は、オンライン、ツイッター、インスタグラムにも絶え間なく登場する。なぜ彼女はいつもアムステルダムにばかり行こうとしているのか。どうして、そのお気に入りのホテルとやらを紹介してくれないのか。

問題なのは、朝の通勤時には誰も広告など見ようとしないし、帰宅時にもほとんどの人が、果てしなく現れる同じポスターを気にも留めないということだろう。だからこそ広告界はとてつもなく面白く、かつ有益な広告を作る責任があるのだ。しかしトリバゴの広告には、そのどちらも欠けている。

私たちは、大胆で創造的な作品のために長い時間をかけて戦ってきたし、世界を変えるようなアイデアや人々が感動するような技巧を称えてきた。だが、一つの優秀作品の陰には、うんざりするような何百という失敗作が存在するのも事実だ。

きっとこれは、広告界が果たすべき責務を、私たちがもっと自覚すべき時なのだろう。

あるいは、「つまらないアイデアでせっかくの機会を台無しにした」と笑いものにされたくないがために、優れた作品を作ろうという動機が生まれるのかもしれない。

このトリバゴの広告が作られた背景は分からないが、制作を担当したマーケティングディレクターが、クリエイティビティーよりもメディアバイイングを重視したことは明らかだ。単にロゴを見せるだけではなくコミュニケーションに重きを置くということを、忘れてしまっている広告の世界。それが、我々が直面している問題といえる。

すべての企画が、大きな予算を伴ったブランドキャンペーンを必要としている訳ではない。しかし、商品のユニークさであれ、人の心に訴えかけるものであれ、ブランドを記憶されるにふさわしいものにすることが大事だ。

メディアを考え無しに買い、つまらない広告を垂れ流すよりも、もっとましな仕事のやり方があるはずだ。そして英国人にとっても、退屈顔のモデルと大きな検索バーを見せられるより、もっとふさわしい広告があるはずだ。

サラ・ハードキャッスル氏は、ロンドンのマーケティングエージェンシー「Mr. President」のクリエイティブ担当。

(翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign UK

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