I-Hsien Sherwood
2017年4月24日

失敗の妙技:注目されてこそ意味がある

本当にだめな広告というのは、まずあり得ないということが、米国の有名ブランドの「失敗」事例から見てとれる。

失敗の妙技:注目されてこそ意味がある

バーガーキングは、音声認識機能を搭載したスピーカー型端末「グーグル・ホーム」を起動させ、同社の商品「ワッパー」に関するウィキペディアの説明を読み上げさせる広告を投入した。そのわずか数分後にはウィキペディアに、ワッパーの原材料として不審かつ不快な書き込みが追加されるいたずらが始まった。数時間後、グーグル・ホームがこの広告に反応しないよう、グーグルはひそかに対策を講じ、バーガーキングの短命な広告は失敗に終わったかのように見えた。

しかしその晩、深夜番組に別バージョンのCMが放映され、またもや米国中の家庭でグーグル・ホームが起動。生活の中に徐々に浸透するテクノロジーについて、議論が巻き起こった。

この一連の騒ぎが起こる直前、世界平和の黒幕的な人物としてケンダル・ジェナーを登場させた広告で、ペプシが批判の的になった。しかし、この広告を見た半数近くの人々が、広告を見た後にブランドに対する好感度が上がったとしている。調査では、広告を見た32%の米国人が、ペプシの製品を「買うと思う」と答え、「買わないと思う」(20%)を上回った。

ペプシの広告は、実は成功だったのかもしれない。「だめな宣伝」などというものが、この世に存在し得るのかとすら思えてくる。

視聴者はより真実味を切望していて、たとえ広告が不適格であったとしても構わないのかもしれない。また、人間味のある失敗に対して視聴者は寛容になり、親近感すら覚えつつあるのかもしれない。いずれにしても、一つだけ変わらないことがある。それは「注目されてこそ意味がある」ということだ。

話題性を狙ったバーガーキングの広告は、ニッチマーケティングだったといえる。グーグル・ホームの普及台数は100万台未満と思われ、そのうち、バーガーキングのCMが流れたほんのわずかな時間に端末がテレビの近くに置かれていて、音声検索が起動される状態にあったのは、ごく一部だろう。より多くのデバイスを起動させることが目的なのであればお粗末としか言いようがないが、同社の目論見はそうではなく、世間を騒がせることだった。

バーガーキングの投じた一石は、憤慨や不安となって同社に跳ね返り、この15秒の動画はユーチューブ上で、「高く評価」よりも「低く評価」のボタンの方が多く押された。リリース前にこの広告のことを嗅ぎ付けていたテクノロジー系ウェブサイトも、酷評している。

米国のエージェンシー「ドイチュ」でチーフ・デジタル・オフィサーを務めるウィンストン・ビンチ氏は、「開発者のコミュニティーでは、この広告はこき下ろされています」と言う。「しかし、この広告のおかげでプライバシーに関する問題意識が高まり、IoT(モノのインターネット)や、インターネットを介して動作するデバイスについて、実に興味深い議論を呼びました」

そうした議論は、バーガーキングの広告よりずいぶん前から盛り上がっていたが、今回はプライバシー侵害に強く抵抗する人たちが間髪入れずに取り上げた。これからシンギュラリティー(人工知能が人間の能力を超えるとき)に至るまで、スマートデバイスに関するあらゆる学術論争やネット炎上において、同社の広告は取り上げられ続けるだろう。バーガーキングがプライバシー問題について、有意義な意見を実際に持っているかどうかに関わらず、いかにも持っているかのようにすら見えてくる。

そして、グーグルが対策を講じたという「罰」も、バーガーキングに名声と悪評をもたらすこととなった。ニューヨークを拠点とする広告会社「ユナイテッド・エンターテインメント・グループ」の創業者兼CEO、ジャロッド・モーゼス氏は「この『失敗した』悪ふざけは、単に広告が成功した場合に比べ、口コミ、PR、波及効果の観点で、より大きな効果があったといえます」と評する。

バーガーキングがこのようにインターネット文化を挑発するのは、今に始まったことではない。同社は2009年に、フェイスブック上で友だちを削除するとワッパーのクーポンがもらえる「ワッパー・サクリファイス」というアプリをリリース。フェイスブックがこのアプリを問題視してキャンペーンが中止されるまでに、削除された友だちは237,000人にも上った。その当時、同アプリの制作を手掛けた「クリスピン・ポーター+ボガスキー」でインタラクティブプロダクションを担っていたビンチ氏は、「ネット上だけの友だち」という新しい社会現象を探ってみたいという興味から、このアプリが生まれたと振り返る。「こうした企画は、特に、話題喚起を目的に実行されるときに力を発揮します」。フェイスブックのユーザーの多くは、当時このアプリを面白がり、数年経った今でもおおむね前向きに評価されている。

一方でペプシの広告は、物議を醸すことを意図したものではなかった。それでも、不評を買った広告によってブランド認知度が高まったという点で、成功だったといえるだろう。2,000人以上を対象にした調査では、「動画視聴後、ペプシに対する印象が良くなった」という回答が最も多かった(44%)。

ペプシが4月5日に動画を削除しているため、実際に何人が視聴したかは定かではないが、ファンが再投稿した動画は880万回再生されている。もしペプシがあと数日間、ソーシャルメディア上の酷評の嵐に耐えていたら、今ごろどうなっていただろうか。

ブランド認知がもたらす効果の大きさを、誰よりも実証しているのはトランプ大統領だろう。ステージ上での滑稽な仕草、言葉の誤用、侮辱的な発言など、トランプ氏の一連の言動は、激高した政敵のみならず、無党派層や政治に無関心な人々からも注目された。大統領選中、野次馬的な市民はトランプ氏以外の共和党候補者16名には目もくれず、トランプ氏の動向を注視。同氏は孤軍奮闘の末、対立候補を次々と打ち負かした。

トランプ氏に関する報道がいかにネガティブなものであろうとも、メディアに取り上げられない競争相手たちよりは、ましだったのだ。「アイデアの市場」では、常に新しさが求められる。脚光を浴びる唯一のブランドになることは、市場を独占するのと同等のメリットがある。

愛されるに越したことはないが、嫌われるのも悪くない。ただ、忘れられないようにだけはしたいものだ。

(文:イーシェン・シャーウッド 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

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