Ilyse Liffreing
2017年5月25日

「グーグルレンズ」が生み出す、新たな可能性

グーグルが人工知能(AI)を応用し、新たなビジュアル検索アプリを開発した。消費者への更なるアクセスを可能にするこのアプリを、各ブランドはどう活用すればよいのだろうか。

「グーグルレンズ」が生み出す、新たな可能性

広告主であるブランドにとってはまた1つ、大きな潜在力を持つグーグルのアプリが加わった。身の回りのものにカメラをかざせば、瞬く間にその情報が表示される – 日常生活に新たな発見をもたらす「グーグルレンズ」が発表されたのだ。

「グーグルレンズは視覚をベースにしたコンピューター機能です。これによってユーザーは見るものを理解し、それに基づいて行動を起こすようになるでしょう」。今年で10年目を迎えた同社開発者向けカンファレンス「グーグル I/O」で、サンダー・ピチャイCEOはこのように新製品を紹介した。

例えば、ある店の前でカメラをかざすと、その店の名や評価、商品やサービスの価格帯、更には利用した友人の有無といった情報が分かる。「グーグルアシスタント」にも組み込まれる予定で、ユーザーは写真を使ってグーグルアシスタントと連動させることができる。つまり、コンサート会場に掲げられた看板にレンズを向ければ、その日程や時間をグーグルアシスタントが「グーグルカレンダー」に記録してくれるというわけだ。

百聞は一見にしかず、写真は言葉よりも多弁で、ユーザー情報に関しても然り。ロサンジェルスのマーケティングエージェンシー「フェノメノン(Phenomenon)」でクリエイティブテクノロジー担当ディレクターを務めるレイ・ドルテ氏は、グーグルレンズは「広告主にとってユーザーの意志や目的を確かめるのに役立つ」と語る。

「広告主によりきめ細かなデモグラフィックを提供するでしょう。飛行機の搭乗券を写真に撮るだけで、その人の旅の計画やライフスタイル、航空会社の好み、シートの選び方など様々な情報が分かるのですから」

レンズは、グーグルのようなIT企業が今最も注力して投資する画像ベースのプロダクトの一例だ。

ニューヨークを拠点とするエージェンシー「アテンション(Attention)」のトム・ブオンテンポ社長は、「急激なスピードで、携帯電話のカメラ機能が現実の世界と巨大なインターネットの世界をつなぐ最も重要なゲートウェイ(かつ変換装置)の1つになっている」と言う。「スナップチャットはカメラの威力を示しました。レンズやフィルター機能で既存の広告を変換できるようにしたからです。ピンタレストは、カメラによって商品の識別と購買行動が同調することを示した。そして、今回のグーグルレンズです。確実に、今後の私たちの生活に多大な影響を及ぼすでしょう」。

だが、グーグルの核心はあくまでも検索プラットフォームで、レンズもその機能から派生したプロダクトだ。ユーザーは文字の代わりに音声と画像の組み合わせか、そのどちらかを利用して検索をする。グーグルは長年この技術に取り組んできた。今回発表したレンズは、4年でサービスの提供を終えた画像検索アプリ「グーグルゴーグル」に相通じる。

「グーグルゴーグルが登場したときには、ユーザー側の準備がまだ整っていなかったのでしょう」とブオンテンポ氏。「グーグルは時間をかけてユーザーの習性を変え、新たな方向へと導こうとしています」。

レンズの発表後、グーグルがピンタレストのプラットフォームを真似ているという批判が起きた。ピンタレストは「レンズ」という同名のよく似た機能を3月に発表したばかりだ。ピンタレストのレンズも、ユーザーが食べ物や服の写真をアップすると関連するレシピやアイテムを表示する。グーグルレンズがグーグルアシスタントと連動し、検索のオプションに音声と画像を組み合わせられることを除けば、ユーザーにとって双方のプロセスは変わらない。ただ、自らをマーケティング上でビジュアル検索プラットフォームと位置づけるピンタレストにすれば、こうした比較は不満だろう。

ピンタレストのフロントエンドエンジニア、ケント・ブリュースター氏は、今年後半までレンズは入手できないとグーグルがツイートしたのを見て、「代わりにピンタレストのレンズを使ってみたらどうでしょう。今すぐに、誰でもどこでも使えるのですから」と投稿した。

ピンタレストの広報担当者は、「名前が同じでもプロダクトそのものが違う」と答える。「ピンタレストのコンピュータービジョンは被写体を特定するだけでなく、それをどのように応用するか考えることができるのです。新鮮なイチゴで何を作れるのか、あるいは新しい服をどのようにスタイリングすればいいか……こうした主観的な疑問に我々が答えられるのは、コンピュータービジョン技術の応用が他社とまったく違うからです」。

逆に、ピンテレストに対するグーグルの強みは何か。グーグルレンズは「グーグル翻訳」など他のアプリを通しても使うことができ、「広告主は重層的なデータを入手できる」とドルテ氏。ただ、情報量が多ければ正確なターゲティングができるかというと、必ずしもそうではない。「グーグルレンズにはユーザーから送られる画像によって多くのデータが集まるものの、ユーザーが何を求めているか知るためのコンテクスト(前後関係)が十分ではありません」。

一方ピンテレストは、「集まるデータ量が少なくても、ライフスタイルなどに関してユーザーが求めるものの認識がしやすいのです」。

例えば、バスケットに入った果物の画像をユーザーがグーグルレンズで撮れば、栄養分やアレルギー、植物種などの情報を求めていることが分かる。だがピンテレストレンズでライフスタイル的画像を撮れば、「キッチンのインテリアなど、ピンポイントで求めている情報を割り出せる」とドルテ氏。「ディープラーニング(深層学習)の精度と品質を高めるためには、こうしたコンテクストが不可欠です」。

それでもブオンテンポ氏は、グーグルレンズが「マーケティング重視のサービスやブランド体験の付加価値を考える企業にとって、可能性を大きく広げる」と語る。「レンズは各企業に、顧客にどうやって辿り着くかというプロセスを再考させるはずです。つまり、どこでどのようにマーケティングをするべきか、見つめ直す機会になるでしょう」。

(文:イリーズ・リフリング 翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

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