Gustav Westman
2023年10月26日

グーグル25年 「1強」への道のり

創業から四半世紀で巨大IT企業へと変貌したグーグル。今後もインターネットの「代名詞」として輝き続けるには、AI(人工知能)への注力が肝要だ。

グーグル25年 「1強」への道のり

この四半世紀、検索エンジン市場の「1強」として君臨してきたグーグル。だがその陰で、同社がこれまでどのようにハードルを乗り越えてきたかについてはほとんど語られることはない。アドテク企業「ブライトビッド(BrightBid)」のグスタフ・ウエストマンCEOは、同社の成長要因に3つの理念を挙げる。それは、「イノベーション」「実験に対する積極性」「一つひとつの製品の課題に向き合う姿勢」。逆にマイクロソフトに関しては、行動の遅さを指摘する。

「ググる」という言葉すら世界的に定着させたグーグル。将来に向け、検索サービス会社の枠を超え、より利便性の高いサービスの提供を模索する。どのような情報であれ、必要なものには簡単にアクセスできるその潜在力は甚大だ。

25年という節目は、これまでの軌跡を振り返るのに良い機会だろう。今や検索サービス市場で91%の占有率を誇るグーグル。この事実に目を向ければ、これまで他社に脅かされることなく全てが順風満帆だったと誰もが思うに違いない。だが実際は、数々のライバルとの競争に打ち勝ってきた結果なのだ。

ダビデ」と「ゴリアテ」

当初、グーグルにはヤフーとマイクロソフトという手強い競争相手がいた。

両社は共に無料電子メールのサービスを提供し、インターネット利用者の強い支持を得た。マイクロソフトはすでにウィンドウズやオフィスといった製品を世に出し、そのブランド力も大きなメリットになっていた。だが、結果としてそのレガシーを収益に結びつけることができず、ヤフーも広告主とエンドユーザー、収益の間の微妙なバランスを理解できなかった。両社の検索ページには煩わしい広告があふれ、一方でグーグルのそれは簡潔で、検索広告もユーザーの検索に役立つメリットを備えていた。

端的に言えば、マイクロソフトは行動が遅かったのだ。ビングはグーグルの6年後にサービスを開始した。だがその間、グーグルは多くの経験を積み、改善を行っていた。データも大量に蓄積し、検索はより円滑に。コンピューティング技術は往々にして短命に終わるが、マイクロソフトの場合はその代表格とも言えるだろう。

一方でグーグルは「イノベーティブ」かつ「実験的」という評価を高めた。その一風変わった社風と豊かな資金力は、若い新たな才能を魅了。グーグルの製品は当初からグーグルだけだ。だからこそ一般家庭の一人っ子のように、あらゆる注目を集め、成長の機会に恵まれた。

他にも、検索エンジンは現れては消えて行った。その1つが初の自然言語による検索エンジン「アスクジーブス(Ask Jeeves)」。一方、今も存続しているのが「ダックダックゴー(DuckDuckGo)」だ。市場占有率は0.54%に過ぎないが、個人情報を入力する必要がなく、広告主やトラッキングを避けたいユーザーに人気を博す。

「ググる」の進化

グーグルの市場支配は3つの理念の下に達成された。イノベーション、実験に対する積極性、そして各製品の主要課題に注力し、利益より改善を優先する姿勢だ。2006年のユーチューブの買収はその適例だろう。強力な検索エンジンと鋭利な広告パッケージの合体は、グーグルのサービスを実に多様なものにした。ワンストップサービスを消費者と広告主、双方に提供できる企業へと進化したのだ。

「世界中の情報を体系化し、世界のどこからでもアクセス可能にして役立たせる」 −− こうした使命を掲げ、グーグルは人々の生活の中で「標準的インターネット」としての地位を確立した。グーグルとは「標準的」検索エンジンであり、ホームページのブラウザであり、広告プラットフォームなのだ。消費者が実際に探しているものではなく、頭の中で考えている商品を見極め、きめ細かいターゲティング広告を発信できるのがグーグルの能力であり、だからこそ広告主にとって最も価値あるコミュニケーションツールの1つとなった。そして今、世界のどの企業よりも豊富なデータ量を武器にAI分野への進出を図る。

しかし、だからと言ってグーグルの優位性は永遠に揺るぎないのか。「挑戦者たち」は確実に存在する。我々のインターネット上の行動と情報検索の手段が変化したように、再び変化することは十分考えられる。

新たなビジョン

Z世代とα(アルファ)世代(2010年以降に生まれた世代)の情報へのアクセスやコンテンツ消費は、ティックトックによって変わった。この新しいフォーマットは、本質的機能だけを揃えたグーグルとは一見相容れない。だが広告主は新しいオーディエンスにリーチする手法を見出し、これらのフォーマットを活用する。また、生成AIは世界の情報をグーグルが独占しているわけではないことを示した。チャットGPTやビングAIは後発であるグーグルのAI「バード(Bard)」とつばぜり合いを演じているが、果たして「草分け」が最終的な勝者になるかどうか、判断するのはまだ時期尚早だ。

グーグルにとって今後の「主戦場」はAIになる。インターネットの代名詞として今後も威光を放ち続けるには、AIへの注力が欠かせない。AIや自動化、マシンラーニング(機械学習)といった新たなテクノロジーは、ブランドのイノベーションとマーケティングパフォーマンス向上に効力を発揮している。今後グーグルには、リンクを重視したビジネスモデルから移行し、消費者の志向とニーズをより直感的に捉える努力が求められるだろう。

この四半世紀で、グーグルはインターネット上の体験を再定義した。それによって短期的に他社より先行し、今でも長期的な利益を獲得している。だが将来的な成功は、テクノロジーや社会、ユーザーのニーズの進化に沿って、「ググる」という言葉をどのように再定義できるかにかかっているのだ。

グスタフ・ウエストマン氏
 
(文:グスタフ・ウエストマン 翻訳・編集:水野龍哉)
提供:
Performance Marketing World

関連する記事

併せて読みたい

3 日前

世界マーケティング短信:エッセンス・メディアコムCEOが退任

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

3 日前

「エージェンシー・ビレッジ」は諸刃の剣

どのマーケティングエコシステムにも弱点はある。大事なのは人材の能力を見極め、エージェンシーネットワークを崩壊させないことだ。

3 日前

リテールメディアは、パフォーマンスメディアの弱点を補えるか?

パフォーマンスメディアの収益が減少している。リテールメディアの可能性など、この変化する状況に適応するためにマーケターがとれる戦略を探った。

2024年12月13日

世界マーケティング短信:オムニコムがインターパブリックを買収

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。