昨年11月、カルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕されたとき、コミュニケーション業界の観測筋は日産への影響は限定的だろうと予測した。むしろ、「日本ブランド」への影響の方が大きいだろうと。
だがそれから4か月、ゴーン氏の勾留は依然として続き、法的手続きも(少なくとも今夏まで)開始される目処が立たないなか、事態はより複雑な様相を呈している。日産の株価は周囲の予想に反して回復せず、ゴーン氏の不正行為は日本にコーポレートガバナンスが明らかに欠如していることを露呈させた。そして、この点が早急に改善される兆しもない。
加えてゴーン氏の新たな弁護人となった弘中惇一郎弁護士は、ゴーン氏に対する司法機関の扱いは「ビジネス界における日本の国際的地位を貶めた」と発言。意図的な不正でなくとも当局の手に簡単に落ち、公正な事情聴取もほとんど行われずに拘置所に入れられる危惧を生んだというのだ。
一部の海外メディアや観測筋は、ゴーン氏の保釈請求の却下は強引かつ恣意的で不公正だとし、日産側の動きを新たなリーダーシップと方向性を見出すためのクーデターと表現する。
では、ゴーン事件を取り巻く状況は実際に日本のイメージを傷つけているのか。Campaignは日本貿易振興機構(JETRO)に問い合わせたが、スポークスパーソンは回答を拒否した。
ロンドンに拠点を置くM&A(合併・買収)コンサルティング会社クリムゾンフィーニクス(Crimson Phoenix)のマネージングディレクター、中島勇一郎氏はこのように語る。「良きにつけ悪しきにつけ、一連の経緯は司法制度の暗部に強い光を当てた。そして、決して尋常とは言えない手法で当局が被疑者を拘留することが明らかになりました」。
また同氏によれば、ロンドンのある日本大使館関係者は「ゴーン氏への措置は時代遅れかつ理不尽ですらあり、言い訳が効かない」とコメントしているという。「ゴーン氏の収入と地位が高いから厳しい措置は当然、という考え方は日本のイメージにとって決して良いものではありません」。
「この事件が日本のイメージを傷つけるかどうかは分かりません。ゴーン氏がフランスと日本の企業で働いていたから、日本の企業のケースとは異なるという懸念が高まったわけではない。ただ、日本の商取引に影響が出ないと考えるのは危険でしょう」
一方で、弘中氏がゴーン氏を「犠牲者」に仕立て上げようとしていることに否定的な見方もある。だがそうした意見の者でも、これまでの経緯の副次的影響を憂慮する。
「海外メディアがこの事件を日本ブランドを攻撃するための政治問題にすり替えても、日本の検察の態度を変えることはできないでしょう」というのは東京の経営コンサルティング会社レランサ(Relansa)のチーフエグゼクティブ、スティーブン・ブライスタイン氏。「おそらく検察は、つかんだ証拠に相当の自信を持っているのだと思います」。
「日本株式会社」は時に、既成の秩序にあからさまな挑戦をする者を罰する傾向があるようにも映る。だがブライスタイン氏は、「日本を大きく変えようとしたゴーン氏が『よそ者』だったゆえ懲罰を受け、犠牲者となったという受け止め方は賢明ではない」という。
だが同氏も、日本の司法基準の問題点に注目が集まっていることは否定しない。「他の多くの国々の民主主義のスタンダードで考えれば、ゴーン氏の容疑者としての権利や不正行為に対する証拠は極めて弱い。それでもゴーン氏が厳格な法制度の裁きを受けていることは、国際的ビジネスの場としての日本ブランドに傷がつきかねません。ただ、私は大きなダメージにはならないと思います。中国ブランドでさえ、自国の法制度の影響でイメージを大きく損ねたということはありませんから」。
では、日産はどうだろう。中島氏は、海外企業の上層部はこの事件を「日本の典型例として受け取ることはないだろう」という。「情報通で洞察力に富む外国人マネージャーは、今回の極めて例外的なケースの特殊性を見抜くと思います」。それでも同氏は、日産のコミュニケーションのとり方には批判的だ。「この問題を玉虫色にし、陰謀説を助長させてしまった」。
「オーディエンスの視点からすれば、日産は大きなチャンスを逸しました。株価の回復にはつながらず、ルノーや三菱自動車に対しても多大な疑念を生んでしまった。多くの投資家は、日産を今どのように評価すべきか迷っています。3社のアライアンスも今後の行方が見えない。もし私が投資家ならば、日産の株は今は買いません。既に日産の株を持っているのであれば、透明性の欠如に対し非常な苛立ちを感じるでしょう」
事件の影響は今後も広がるだろうが、エデルマンによる調査「トラストバロメーター」の最新結果では、日本株式会社に対する信頼度は上昇している。日本企業に対する信頼度は、昨年よりも9%高かった。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)