世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数2018」で、日本は149カ国中110位、ジェンダー後進国であることが明らかになった。先進諸国と比較すると男女間の賃金格差は大きく、上場企業における女性役員比率も4.2%と依然として低い。
差別の根底にあるのは「日本は近代的なようで、実は封建的な身分制の社会のままだから」と述べるのは、義理チョコをやめようと提案するゴディバの広告を手掛けた原野守弘氏(もり 代表/クリエイティブディレクター)だ。それは「女のくせに/男のくせに」や「中学生のくせに」といった表現にも表れているし、「今日この会場に来たときも、隣に座った人と挨拶をしないでしょう?」と会場に問いかけ、「身分が関係ない状態で、知らない人と関係性を結べない」、つまり身分が人間関係を規定していることを指摘した。
ゴディバや、「この国は、女性にとって発展途上国」と打ち出すポーラの3部作を手掛けた同氏は、「ブランドメッセージは基本的に、そのブランドが考えている未来を見せることなんです」と語る。「でも、嘘みたいに幸せな未来を描くと、信じられないしダサい。実際の問題意識に立ち、社会と共感が結べるところで、今よりちょっと良い未来を描くのです」
山田健介氏(PR TIMES コミュニケーションプランニング本部長)によると、ジェンダーを表現した日本のキャンペーンは欧米と比べるとまだ少ないが、「慣行を軸に、ステレオタイプを打ち破る」という興味深い特徴があるという。社会の暗黙のルールやしきたり、プレッシャーを軽減するようなコミュニケーションで、例に挙げたのはパンテーン「1000人の就活生のホンネ」と伊勢半グループ「顔採用、はじめます」だ。いずれも就職活動生が個性を発揮できない不自由さを訴求するものだが、当事者である学生だけでなく、かつて苦しい思いをしてきた記憶がある大人の女性たちからも共感を得られたという。
また、生きづらさを感じているのは女性だけではない。白石愛美氏(Amplify Asia代表)によると、ホフステッド指数で日本社会は世界で2番目に「男性的社会」、すなわち男女の役割分担が明確で、給与や昇進、やりがい、承認などが重要視される、いわば「働くために生きる」社会なのだという。一方で海外では、ジレット「We Believe」、アックス「Is it OK for guys…」に代表されるように、マッチョな男性像を押し付けるステレオタイプについても議論が巻き起こっている。これに対し、「(男性側も)自分らしさを肯定しづらい社会があるので、ブランド側がこれを肯定するコミュニケーションや働きかけをしては?」と山田氏は提案する。
エデルマンの調査によると、ブランドは自らのスタンスを表明し、変化を牽引していくことが期待されているという。その一つのファクターが、ジェンダーだろう。では、ジェンダーを表現する際に気を付けるべき点とは?
山田氏は「ブランドが何を言うか、だけでなく、ブランドが当事者として何をしているのかが重要」と、メッセージのみならず企業姿勢が問われる時代になったことに触れる。また原野氏は「身分で人間関係を規定してしまう日本人の癖をどう乗り越えるのか」が日本の課題とした上で、「差別や不合理が“文化”というものに擬態されると、(差別や不合理をされてきた)一番弱い立場の人たちの気持ちがどこかにいってしまう。“文化”という時には、気を付けた方がいい」と注意を喚起した。
(文:田崎亮子)