デザイン思考は、さまざま不確定要素や、ビジネス上のあるいは関係者のさまざまな考え方が混在するため、意見が分かれる分野のひとつだ。一般的な理解とは異なり、デザイン思考には、UXデザインや作品制作などの要素だけでなく、従業員体験やサステナビリティ、そしてインクルーシブ(包摂的)な職場環境の構築といった要素も含まれる。IBMのグローバルデザイン部門を率いるマイケル・タム氏は、デザイン思考の紛れもないエキスパートだ。
9月14~16日の3日間(1日4時間)にわたり、若き才能たちがクリエイティビティ新時代への対応方法を学ぶ。そして、ザ・ネクスト(The Next)と呼ばれる没入型ブートキャンプで、タム氏はスピーカーを務める。Campaignはタム氏から、先進的なビジネスを構築する上での、デザイン思考の重要性について話を聞いた。
デザインディレクターとしての、あなたの役割を教えてください。
私は、クライアント企業のビジネス変革を支援しています。クライアントの多くは歴史のある企業で、デジタル時代に向けてビジネスを再構築するにあたり、さまざまな課題に直面しています。私の役割には多種多様な側面がありますが、手短に言うと、クライアントのビジネスの中心に人間を据えるということです。私は、どのように考え、どのように未来についての戦略を立て、どのように日々のビジネスに取り組むべきかについてアドバイスを行っています。その範囲は、一般顧客向けのデザインから従業員の職場環境の再構築まで、多岐にわたります。
人々がデザインについて考えるときに思い浮かべるのは、多分、プロダクトデザインやUXといった要素でしょう。従業員体験がデザインに含まれるとは、まず思わない。
デザインについて考えるとき、大抵は最終的なアウトプットを思い浮かべるからでしょう。例えば、プロダクトデザインやUXデザイン、ビジュアルデザイン、グラフィックデザインなどの具体的なアウトプットのことです。しかし、特に大企業では、デザインの価値がアウトプットだけに留まらず、思考の領域にまで及ぶことが理解されるようになってきました。私たちは、戦略的デザインの観点からビジネスに真の価値をもたらす必要があり、それには多くの思考が求められます。そこで登場するのが、デザイン思考です。問題を定義し、そこにチャンスを見出すことは、多くの人が見過ごしがちなデザイナーのユニークな能力のひとつです。そして、私の時間の多くが、そこに費やされています。
人間中心のデザインはなぜ重要なのですか?
私たちはさまざまな最新テクノロジーに魅了され、興味をそそられます。そしてこうしたテクノロジーは、最終的には人間の役に立つようにデザインされます。例えば、従業員がVRヘッドセットを使って没入型の研修を体験しているとき。あるいは、IoT(モノのインターネット)でフィジカル(物理的)とバーチャルが融合した仮想環境に取り組んでいるとき。すべてがユーザーの体験につながっています。だからこそ、企業とすべての関係者は、人間中心の視点で考え始めることが重要なのです。
デザイン思考は、どのようにすれば、異なる背景や身体的特徴を持つ人々を、よりインクルーシブに捉えることができるのでしょうか?
デザイン思考は、単なる研修課目のひとつと見なされることも多いのですが、本質的にはマインドセットのあり方です。デザイン思考を具現化する方法はたくさんあります。デザイン思考は、問題解決への人間中心のアプローチだと考えることができます。そのためこれは、未来の問題を解決するインクルーシブな方法になり得るのです。
私たちは、まず企業が真に語りかけたい相手は誰なのかを確認します。そして、極めて具体的な顧客体験を生み出すためにそのターゲットと深く共感し、そこで得た共感から、顧客体験を大きく拡げていきます。例えば、東南アジア出身で、兄弟姉妹がたくさんいるような人たちだけの顧客体験は提供しません。東欧出身で、家族もなく、新しいベンチャー企業を立ち上げたばかりの人にとっても、それは十分に普遍的で、親近感の湧くものでなければならないのです。
このように、彼らがまったく異なる存在であったとしても、普遍的な体験を共有できる可能性はあります。そこで登場するのが、デザイン思考です。さまざまな側面やタイミングに分岐しながらも、人々が体験を通じて共感できる共通点に向かって収斂させていくのです。
デザイン思考は、エシカル(倫理的)でサステナブルなビジネスを構築するのに応用できるでしょうか?
IBMには、「Enterprise Design Thinking」という独自のデザイン思考アプローチがあります。これは、複雑な問題を解決するために設計されたフレームワークだと断言することができます。なぜなら、このIBM版デザイン思考は、多層的で複雑な事業を展開する当社のクライアントを支援するために構築されたものだからです。多様性やインクルーシビティ、サステナビリティの問題など、さまざまな組織課題の解決にも最適です。
例として、ペットボトルのリサイクルについて考えてみましょう。これは、単にペットボトルをごみ箱に入れるだけでは終わりません。ペットボトルのリサイクルには、さまざまな手続きとシステムの連鎖があり、その背後には複雑な生態系が存在しています。捨てられたペットボトルを回収する作業、あるいはそれを再利用可能で価値あるものに再生する作業を、いったい誰が担うのでしょうか。こうしたさまざまなサプライヤーを中心に、どのようなビジネスモデルが構築されうるでしょうか。課題は山のようにあります。
私たちは、単に体験をデザインするのではなく、最終消費者がサステナブルな取り組みに参加できるよう、シンプルな体験となるようにデザインしています(さらに、関係する企業がエコシステム内にとどまれるような実行可能性も確保します)。航空券を買うときに、どうすれば二酸化炭素排出量を相殺するボタンをクリックしたくなるでしょうか。そして同時に、航空会社やそのエコシステム内の企業が、その行為を、実際に地球を救うことにつなげるにはどうしたらよいでしょうか。このように、デザイン思考は、すべての関係者の考えをひとつに収斂させるための助けとなります。
デザインを学ぶ学生たちに、何か一言アドバイスをいただけますか?
私からのアドバイスは、誰かに何かを頼まれたら「イエス」と言おうということです。成長するためには、何かを試してみてとか、何かをやってみてとか、新しいことを学んでみてなどと頼まれたら、すぐに「イエス」と答えて取り組むことです。デザイナーにとって最も大切なのは、好奇心を持つことです。多くの人は、好奇心とは単にいろいろなものと出会うことだと勘違いしがちです。もちろんその一面もありますが、重要なのは、新しい領域に足を踏み入れて挑戦することです。そして挑戦して成長したいなら、イエスと答えるのが何よりの近道なのです。
簡潔さとわかりやすさを考慮し、このインタビューには編集を加えています。スパイクスアジアアカデミーは、あなたのクリエイティブなキャリアを前進させ、プロジェクトを変革するために、実用的かつ具体的なアドバイスを提供します。今すぐ参加しましょう。