広告の測定について考える場合、アドブロッカーやメガアプリの台頭、それにモバイルファースト市場への急速な移行によって、アジアの状況は大きく変化している。しかし、技術の進歩にもかかわらず今なお根強く残るレガシーな測定の課題に、これまで本格的に取り組んだことはなかった。
広告キャンペーンの成功を考える際、測定は必要不可欠な支柱だ。成功を判断するには、まず目標を設定し、測定と分析の結果をそれと比較することが不可欠だからだ。
筆者がエージェンシーや世界有数のアドテク企業数社で勤務してきた間に気づいた重要な課題は、測定が断片化されているということだ。CPAからCTR、ROASからCPMまで、マーケターが選択しなければならない測定指標群には非常に多くの略語が存在している。マーケターやメディアエージェンシーが直面する課題は、総合的な成功の定義に利用できる最良の指標を把握することだ。
まずは測定の重要性から
測定を行う理由は主に3つある。予算の正当化、予算配分、継続的改善だ。それぞれ背景にある論拠と受け手が異なり、異なる報告指標を必要とする。例えば、CMOに予算配分を依頼するときは、マーケティングプランに最も適したチャネルを判断できる指標が必要だ。一方、継続的改善を求めるときは、キャンペーン指標をより深く掘り下げなければならない。
システムには欠陥がある
測定について考えるとき、選択できる指標はいくらでもあるが、そもそもシステムに欠陥がある。測定の“聖杯”は「計測のユートピア」だ。ここでのユートピアとは、閲覧されたマーケティングメッセージからのダイレクトリンクとそこからの直接購入といったダイレクトコンバージョンの成果が簡潔な方法で広告費支出に紐づけられることを指す。単純に聞こえるが、なぜこの測定がそれほど難しいのだろう?
デジタルマーケティングに関しては、以下の4領域(そのうち3つは「ビッグデータ」の特徴)に要約できる。
- データの速度
- データの量
- データの種類
- データの正確性
最後の1つに関しては、IBMはデータの正確性をデータの「不確実性」と呼んでいる。筆者が正確性という言葉をそのまま使ったのは、データが積極活用されるあまり、しばしば誤用につながっているからだ。これこそが、測定が困難になる要因だ。大量のデータはあるが、成果と直接因果関係にある価値のあるインサイトを見つけるのはますます困難になっている。しかも、これをリアルタイムで行う必要があり、データの量や速度、種類も管理しなければならない。
クリックベースの指標の課題
私たちがアジアで何度も目にしてきたデジタル広告測定の主な欠陥は、成功の指標としてクリック数にフォーカスしすぎていることだ。しかし、クリックがコンバージョンにつながるとは限らない。消費者は通常、コンテンツを読んだり、買い物をしたり、ソーシャルを楽しむためにオンラインを利用している。必ずしもクリックしてページを移動したくなる環境にいるとは限らない。閲覧しているページ内のコンテンツであれば見てもよいが、「クリックアウト」、つまり、ページから離れる気はないかもしれない。クリックは確かに報告しやすい指標だが、実際のところ、クリックが売上につながることはほとんどない。それなら、実際に売上をもたらす指標に投資すべきではないか?
そこで取るべきアプローチとは
優れた測定とは、さまざまなアプローチの長所と短所を比較検討し、バイアスを減らすための明確な手法を確立し、選択した測定がマーケティングサプライチェーン全体のトーンやインセンティブと一致していることを確認したうえで意思決定を行うことだ。キャンペーンの測定には、以下のような指標の分類を活用することを助言している。
指標について考える際、キャンペーンの継続的改善をどのように支援できるかというアプローチが重要な場合。
このサイクルでは、前進のスピードは反復のスピードに正比例する。アイデアを実行し、これを測定し、また実行する。つまり、試して学習するアプローチをどう確立するかだ。
ここでの測定は以下の2点を明確にするものでなければならない。
- 計画はうまく実行できたか?
- 何らかの影響は出ているか?
継続的改善を目的とした測定では、この2点が極めて重要だ。
デジタル指標を見る際は、留意すべきことがいくつもある。各指標の長所と短所を詳しく知りたい人は、私たちが最近行ったウェビナーを参考にしてほしい。
パフォーマンスキャンペーンの成果を測定する場合、通常、クリック数、コンバージョン数、売上などの指標に注目する。しかし、前述の通り、クリックがコンバージョンにつながるとは限らない。そこでハイジーン指標(適正状態の維持を表す指標)が重要となる。この指標は目標に対するリスクの管理に役立つ。ただ、広告のビューアビリティ(可視性)は示されるが、顧客エンゲージメントは示されないので、単独では使えないということになる。
以下は「Sarah(サラ)」のカスタマージャーニーの概要だ。私たちの業界が直面するコンバージョンとパフォーマンスの指標に関する課題がよくわかる。
ご覧の通り、購入までにあまりに多くのタッチポイントがあり、どの広告パートナーがコンバージョンに貢献したかのかの判断が難しい。マーケターが成果を測定する主な方法はアトリビューションとインクリメンタリティ(広告がもたらした効果の増分)の2つだが、この2つを混同しないことが重要だ。どちらも測定の課題を解決しようとしているが、決して同じものではない。
アトリビューション
アトリビューションは購入に影響を与えたタッチポイントに注目する。因果関係というより相関関係に近い。貢献者を特定しようとしているが、売上に貢献した1つのタッチポイントを明確に決めることはできないからだ。アトリビューションが答えることができる質問は「どのタッチポイントがコンバージョンに関わっていたか?」という問いに対してだけだ。
アトリビューションに関する推奨アプローチは以下のようになる。
- 常識を働かせる:何が起こると予想していたか。キャンペーンの結果に矛盾はないか?
- 集計は現実を隠すため、方向性のわかるシグナルを探してほしい。戦術は機能しているだろうか。数字を1つにまとめない方が、何が起きているかがよくわかることがある。
- 広告キャンペーンを独立した一つのものと捉えるのではなく、広告インプレッションのポートフォリオの一部と考えてほしい。
インクリメンタリティ
インクリメンタリティ・テストは、期間と予算が設定された状態で、特定のマーケティングイベントが1つのメディアチャネルまたは戦術(この場合はディスプレイ広告)とどのような因果関係にあったかを測定することだと定義できる。
インクリメンタリティの課題
- パブリッシャーのインベントリに関するバイアス:パブリッシャーとアドエクスチェンジは、サイトのインベントリを選択的に提供している。こうした選択の結果は、クリエイティブの効果に違いをもたらすことがある。
- Cookie混在問題:トラッキング中にCookieデータは1st Partyデータから3rd Partyデータに移行することがある(その逆もある)。この際、アクション結果のシグナルに混乱が生じ、リフト値がゼロになる可能性もある。
- ベンチマーク不足もしくはベンチマーク操作:1st Partyデータは結果を大きく左右する。ノンビューアブルインプレッションを利用して1st Partyデータを収集するベンダーもいるが、新たな行動が加わることになり、結果をゆがめてしまう可能性がある。
- 一貫性のないアトリビューション:アトリビューションモデルの違いもリフトに影響する。アトリビューションベンダーによって全く違う傾向が示された結果、システムに誤ったシグナルが送られることがある。意図的でない場合もあるが、システムを操作し、コンバージョンリフトを高くする意図が隠されている場合もある。
インクリメンタリティの解決策
- ブロックリストの適応:ブロックリストを適用し、パブリッシャーのインベントリバイアスを回避する。
- Cookieの混在に対処するため、追跡可能なトラフィックの実験を行う。
- ベンチマーク不足もしくはベンチマーク操作に対処するため、手法と実行内容を検証する。全ベンダー共通の検証テストを用意し、公平な条件を設定しておけば、将来の成功に向けたベンチマークを確立できる。
- シンプルにすることによってアトリビューションモデルの不一致を回避。測定およびアトリビューションの基準を調整する。
測定の“聖杯”は見つかるか?
測定は本当に難しい。オーディエンスにリーチして影響を与え、ノイズを遮断し、行動を促すバリュープロポジションを見つけ出すことは驚くほどの難題となる。これらを1つの指標に集約できれば、それこそまさに“聖杯”だ。
注目する指標、ターゲットにするオーディエンス、使用する手法。それぞれを一連の測定の一部として評価しなければならない。
さまざまなアプローチの長所と短所を比較検討し、バイアスを減らすための明確な手法を確立して、選択した測定がマーケティングサプライチェーン全体のトーンやインセンティブと一致していることを確認のうえで意思決定を行うことだ。
これらの原則を守れば、繰り返されるフィードバックループから着実に学び、自らの測定戦略を進化させる助けになるだろう。
ソナル・パテル(Sonal Patel)氏はQuantcastの東南アジア担当マネージングディレクター。