「イノベーター」としての地位を海外で高めようと、日本のブランドや広告代理店がSXSWで存在感を強めつつある。
比較的堅実な出展をするのは、ヤマハだ。今回披露するのは、音楽に適応するAI(人工知能)。博報堂アイ・スタジオと共同開発したインスタレーション「Duet with Yoo(デュエット・ウィズ・ユー)」は、人間の演奏者にピアノで合奏するAIを実現させた。
このソフトウェアはリアルタイムで人間のパフォーマンスを解析、スクリーン上で映像表現をしながらアンサンブルを行う。博報堂によれば、SXSWの参加者は「きらきら星( Twinkle Twinkle, Little Star)」の演奏で共演ができるという。
こうしたインスタレーションは、クライアントのためのプロダクト開発で代理店がより積極的役割を果たすことの好例。今年は電通も、コンセプトとテクノロジーを結びつけた4つのプロジェクトでデビューを果たす。
その作品は一風変わっていて、種類も幅広い。まずは「スシ・テレポーテーション(Sushi Teleportation)」と名づけられた、「食」の再構築に貢献する試み。プリンターが食物に関するデータを蓄積し、栄養素や食感、味わいなどを再現する。これは山形大学と協働する大規模なコンセプト「オープンミールズ計画」の一環で、遠く離れた場所 −− 例えば地球と宇宙空間にいる宇宙飛行士 −− で食べ物をシェアすることを目標に掲げる。
また、「ルナビティー(Lunavity)」は東京大学と開発したパワードスーツで、究極のジャンプ力を実現。電通の淡白な表現では、「跳躍力を拡張する個人用デバイス」。スーツのサイズを考えるとバスケットボールのコートには不向きだろうが、ロボット工学の分野で電通が続ける興味深い実験の延長線上にある。この数年で、日本の著名人をモデルとした2体のアンドロイドも開発した。
電通の本業とより深い関わりがある「TVX」は、映画「ポルターガイスト」を若干思い起こさせる。これはテレビ、特にテレビ番組が視聴者のいる環境をコントロールするというシステム。もしあなたの子どものおもちゃがあなたの見る番組をどう思っているか知りたいのなら、是非この作品を試すべきだ。
同社はプレスリリースの中で、「人間の耳には聞こえない制御信号をテレビ音声に仕込むだけで、テレビ番組側から自由に周辺デバイスを連動操作することが可能になる」と説明。「例えば、手元の人形やおもちゃがテレビ番組の感想をしゃべったり、音楽ライブ映像に合わせて部屋の照明が変わったり、アイデア次第でテレビ番組の可能性がぐんと広がります」。
TVXと同じく発表間近の「リンガリングボイシズ(Lingering Voices)」は、人の会話の有形化を目指したアプリケーション。拡張現実(AR)の技術を使って話し言葉を視覚化する。「ユーザー同士で見つけあい、再生したり、シェアすることができる」コンセプトツールだ。
これら企業以外で、実験的プロジェクトの情報を集めたり、潜在的な成長分野を見定めたりする場としてSXSWの活用を図る日本のメジャーブランドがパナソニックだ。同社は昨年、このイベントでデビューを果たしている。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)