この9月、マッキャン・ワールドグループホールディングスは森浩昭氏のマッキャン代表取締役社長兼CEO就任を発表した。日本の代表的な広告代理店・博報堂でキャリアをスタートさせ、これまで様々な国で仕事をこなしてきた同氏。多様な視点を重んじ、柔軟なアプローチをすることが日本の広告界の将来を切り開くと話す。(質問への答えは、論旨をより明確にするため編集・要約してあります)
マッキャンに移った理由は何でしょう?
理由はいくつかありますが、まずは未知のポジションを経験してみたかったことです。何か新しい試みができるのでは、と。定年まであと10年しかないので、それまで何をするにせよ新しいこと、かつ面白いことをしたいと考えたのです。
これまで森さんのキャリアはほとんどが海外でした。日本の広告界を率いるエグゼクティブにとって、海外に住み、働くことはメリットでしょうか?
ええ、そうだと思います。日本はトップの地位を占める分野もありますが、全ての面でそうではありません。ですからこの点を理解し、足りない部分を埋め合わせる手段を考えねばなりません。1つの国に住み、1つの代理店だけで働いていたのでは文化の違いを感じることができない。私は米国人や英国人になりたいわけではありませんが、異なる視点を生かして自分の強みにしたいと思っています。日本ではたくさんの人々が変わりたいと望んでいます。私は「ルールを変える」という言葉が好きです。それはルールを破ったりテロリストのようになったりすることではなく、「盲目的に慣行に従う」という決まりを変えることを意味するのです。
日本が他国の市場から具体的に学べることは何でしょう?
我々にとってまず大切なのは、業務を遂行することです。日本は様々な分野で高い専門的な技術力を持っていますが、アイデアの重要性に対する認識が足りません。日本の広告はコンセプトの強さの面で遅れています。この点に気づいている人は非常に少ない。核となるコンセプトの重要性にもっと着目すれば、仕事のクオリティーを高めるきっかけになるはずです。
どうすれば皆がそういった考え方を持つようになるのでしょう?
単に流行を追うのをやめるべきです。いまだに西洋の新しいものを追いかけようとしている人たちが多い。それはそれでいいのですが、根本的な部分に目を向けなければいけません。なぜ日本のサッカー選手が海外で活躍できるのでしょう? それは彼らが基本を身につけているからです。日本にも英語を流暢に話す人たちがいますが、たとえ専門用語を使っていても真意が伝わっていないケースが見受けられます。
日本人はアジアよりも西洋の広告手法に価値を見出しがちです。近隣の市場からはどのようなことが学べるでしょう?
例えば中国では、スピードとサイズ、スケールが全てです。考え方が日本人とは全く違う。中国人は失敗を気にしません。レストランをオープンしてダメだと思ったら、すぐにコンセプトを変えて別の店を始める。そういう考え方です。
タイのクリエイティブは、かつて非常にエッジが利いていました。それらから学べることは今でもありますが、我々はすっかり忘れています。日本企業の多くが苦戦しているのは、多様性を嫌うからです。日本人は議論を好みませんが、時にはそれが必要な場合もあるのです。
マッキャン着任の際、「大阪にオフィスを構えていることが市場にコミットしていることの表れ」とおっしゃっています。皆、ビジネスの中心は東京と考えますが、大阪が広告界でより大きな存在になり得るのでしょうか?
東京人と大阪人は違うので、それぞれの特異性を重視したいと考えています。例えばメルボルンとシドニーは競争し合いながらも、お互いを尊重している。移住を好まず、地元で活動を続けたい人がいるのならば、彼らと一緒に仕事をすることも1つのやり方です。場所はどこであれ、母体は一緒なのですから。大阪のマッキャンが素晴らしいパン屋をつくることができれば、他のマッキャンもその恩恵に浴することができるのです。
(文:デイビッド・ブレッケン 編集:水野龍哉)