マレンロウ・グループは、アジア太平洋地域の顧客に向けてデータサイエンスを提供する部局を東京オフィスに開設した。この「COE(Center of excellence = 中核的研究拠点)」はデータサービスを統合、ROI(投資利益率)測定にとどまらない包括的分析や、デジタルトランスフォーメーションのサポートを提供していく。
チームを率いるジョナサン・ハート氏の前任は、米広告代理店「GSD&M」の意志決定科学(decision sciences)担当バイスプレジデント。同社はウォールマートやサウスウエスト航空のブランディングで評価が高い。それ以前はアクセンチュア・アナリティクスに10年間勤務した。ハート氏をサポートするのはボーイング社でデータサイエンティストを務めていたクリス・ロジャーズ氏。更に2名の専属スタッフがいる。
このデータ部局はシドニーと中国・成都にあるCX(顧客エクスペリエンス)開発センターとも協働。個別のプロジェクトにも対応するが、マレンロウが地域で進める事業の一端を担っていくことが使命だ。
「代理店が提供するデータ分析はサイロ化し過ぎています。個々のキャンペーンの最適化に腐心するあまり、全体像が見渡せていない」とハート氏。そのせいで、「顧客の理解や顧客に適したブランド体験の設計ができていません」。
「広告界のアナリティクスソリューションは、根本的に他の業界のそれとは異なるのです。デジタルアナリティクスの影響は強く受けていますが、ダイレクトレスポンスマーケティングに根差している。ニューラルネットワーク(神経回路網)や人工知能(AI)の構成要素を基礎にしているのではなく、より算術的なものです」
マレンロウ・グループ・ジャパンのジェームス・ホローCEOは、「代理店は自らの分析能力を過大評価しています。通常作成するレポートのほとんどは自動化が可能」という。
「人力をデータ分析に必要以上に用いる必要はありません。その多くはコンピューターが処理できるのです。ですから、人間の頭脳はより高度な分野に活用すればいい。つまり、クリエイティブの部分です」
「クリエティビティーの定義は大きく進化した」というハート氏。データが時に不完全だったり、ある種の推測が必要だったりするため、「データサイエンスにおけるクリエティビティーの役割が今は認識されていない」。一方でホロー氏は、広告界以外のデータサイエンティストの見解が「代理店にとって有益」ともいう。ロジャーズ氏をボーイングから招聘したのも、「彼のスキルが1つの業界だけで活用されているのはもったいない」と考えたからだ。
「スキルの移動性は、広告界がもっと認識すべきトレンドです。『他業界の人々が広告界の文化やコンセプトを理解するのは難しい』と代理店は考えがちですが、彼らを巻き込み、様々な質問を引き出し、我々が使う基本的言語で答えることは有意義な経験でした。我々の文化に健全な効果をもたらしてくれます」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)