インスタグラムを使っている人ならば、同じようなデザインが広く使われていることに気が付くことだろう。いくつかのデザイン上の特徴で、それが分かるはず。落ち着いた色調の、たいていはパステルカラー(特にピンク)で、シンプルなサンセリフ体の文字に、ミニマリスト的なデザインが施されている。温かみのある絵文字や、手書きのイラストもあるだろう。
デンタルフロスやマスカラ、地ビール、保険、マットレス、スキンケア製品に至るまで、あらゆる分野のブランドがミレニアル世代好みのデザインを用いている。最近バーバリーがロゴのデザインを一新したが、それもミレニアル世代受けする仕上げを選んだように見える。独自性や伝統を犠牲にし、シンプルなデザインを選んだのだ。
独自性は、既に失われてしまったかのようだ。世界中どこもかしこもパステルカラーだらけ。我々は「デザインのミレニアル世代化」の真っ只中にいる。
色はとにかくピンク系で
インスタグラム向けのセンスを取り入れているのは、ひと握りの新興ブランドだけではない。我々の仕事場も、コーヒーを買いに行く店も、旅先のホテルも同じような道をたどっている。
カイル・チャイカ氏は世界的に広がるジェントリフィケーション(都市再編)についての記事の中で、エアビーアンドビー(Airbnb)、フォースクエア(Foursquare)、インスタグラムといったプラットフォームが、世界をいかにして同じテイストへと導いたのか書いている。
「Four Barrel(サンフランシスコのコーヒー店)は、Toby's Estate(ブルックリンにある豪州発のカフェ)のようだし、それはまた、コペンハーゲンのThe Coffee Collectiveのようでもある。東京のBear Pond Espressoにも似ている。ここに挙げた店のどこででも、申し分のないラテアートが施されたドライ・コルタード(ホットミルクの入ったエスプレッソ)を注文でき、それを大理石のカウンタートップの上に置いて写真を撮ってインスタグラムに載せれば、フォロワーにその世界観をさらに広めることができる」
どこを見ても、ブランドやブランドが提供する経験は「誰の反感も買わない」という、最低限度の共通点に集約されているかのよう。ブランディングやデザインは、統一されたテイストを満たすために使われ、独自性や特異性は犠牲にされている。言い換えれば、全てがありきたりになっているのだ。
ピンクがトレンドとなった所以
1950年代以降、モダンでミニマルなデザインや感覚が一定の人気を集めているが、我々が知るところのミレニアルデザインはインターネットから生まれた。コーディングにおける限界から、ウェブサイトのデザインやユーザーフローにはシンプルさが求められ、アップルやエアビーアンドビーなどの大手企業は当初から、色の種類が少ないカラーパレットと一貫したスタイルを採用した。
まもなく新たなブランドが立ち上がるようになると、どれもシャープではあるが丸みを帯びた、目にやさしいミレニアルなデザインを使うようになった。新興ブランドばかりではない。今や伝統ある大手のブランドさえ、ミレニアル世代を意識したデザインを採用した。
ミニマルなデザインの特徴といえば、余白の使い方やシンプルさ、無駄のない文字デザインだろうが、新興ブランドも大手ブランドもエージェンシーも、若い世代が求めているものはミレニアルデザインと考えているようだ。
最も困る点は、全てがなかなか良いデザインだということ。かっこいいのだ。目にもやさしい。ミレニアル世代であろうとなかろうと、我々は皆、ミレニアルデザインが提供するシンプルさや明確さを好むと言っていいだろう。「我々には共通点がある。我々の製品はシンプルで正直で、思慮に富んでいる」とミレニアルデザインは訴えてくる。だが我々はまた、どれも同じように見えて、同じように感じられるブランドに、うんざりもしているのではないだろうか。
ブランド構築にとって意味するところ
今日のリスク回避型マーケターたちは、ユニークな考えや視点、センスで目立つのではなく、すでに踏み固められた道を進むことを好む。その結果、全く同じようなブランドを作り上げるに至っている。
マスターカードの2017年のリブランディングでは、世界的に知られたロゴが一新され、話題を呼んだ。この新しいロゴが、以前のものと比べて魅力に欠けるといえるだろうか。もちろん、いえるだろう。
そして、最近ではこんなものも。
これは冗談。実際にあった例ではない。でも想像できるだろうか。もしディズニーランドが今日設立されたとして、果たしてヘルベチカの書体に淡い色合いでロゴを作るだろうか。
インスタグラム時代の個性
一時的なデザインの流行を、やみくもに追うのは危険な行為だ。ギャップやトロピカーナの例は、それを物語っている。
自分たちらしくあることが、これほど難しい時代は今までなかった。だが自分たちらしくあることが、これほど重要である時代も今までにはなかった。つまるところ、ブランディングとは独自性を作り出すこと。突出することが肝要なのであって、周囲に溶け込む術ではないのだ。
ではその2つは両立できるのだろうか。ミレニアル世代が望むようアピールしつつ、永続的な資産価値を作ることはできるのだろうか。もちろん可能だ。新興のギリシャヨーグルトブランド「チョバーニ(Chobani)」は、他とは一線を画したデザインで若い消費者に訴求することができた。またマクドナルドやコカ・コーラ、ナイキといった既存大手ブランドも、長年にわたってそれを実証してくれている。
だから次に、ブランドをもっとミレニアル世代に訴えるものにすべくクリエイティブブリーフを作成する際には、これだけは忘れないこと。誰もあなたのブランドの代わりにはなれないし、それが強みでもあるのだと。
(文:タニア・クロノゴラック 翻訳・編集:田崎亮子)
タニア・クロノゴラック氏は、シンガポールにあるクリエイティブエージェンシー「ジョーンズ・ノウルズ・リッチー(Jones Knowles Ritchie)」のストラテジスト。