David Blecken
2018年3月16日

「新たなるミレニアル世代」の勃興

ミレニアル世代を2つのグループに分けて行った最新調査で、18歳から25歳までの若者たちはステレオタイプ的なミレニアルズとは異なる価値観を持っていることが分かった。

若者をひと括りで捉えることは、ほとんど意味がない。(写真提供:AFP)
若者をひと括りで捉えることは、ほとんど意味がない。(写真提供:AFP)

マーケティング業界は、常に人々の大きな集団をひと括りで捉えようとしてきた。理論上、その方が消費者の定義と理解がしやすいし、モノも売りやすい。だが実際は、役に立たない仮説を生み出す無意味なレッテルを貼るだけがほとんどだった。

1980年以降に生まれた若者たちを要約する「ミレニアル」という業界的用語も、おそらく彼らの実像を反映していないものだろう。米国で生まれたこの言葉を用いれば、世界のどの国のミレニアルズも自分勝手で思いやりに欠け、仕事嫌いで冷淡、そして往々にして厄介者、ということになる。

こうした性質は時に当たっているかもしれないが、決して全ての若者に共通するものではない。特に、世界的なトレンドをしばしばユニークな形で消化してきた日本の若者は例外だろう。そうした憶測に基づき、BBDOは18歳から25歳までの日本の若者に焦点を当て、より現実的な姿を描く試みを行った。同社のトニー・ハリスCEOは、「日本の若者たちをミレニアルという言葉でまとめてしまうのはかなり無理があると感じていました。彼らを理解しようとしなければ、ただ遠ざけてしまうことになってしまいますから」と話す。

同社は300人の若者を18歳から25歳までの「ネオミレ(neo mille)」と26歳から36歳までの年長のミレニアルズに分け、定性・定量調査を行った。その結果は、2つのグループの違いを際立たせることとなった。ネオミレの方が積極的かつ活動的で、その一方「禅」に近い考え方で人生を受け止めていることが分かった。BBDOジャパンのプランニング・ヘッドである谷津かおり氏は、その一因に東日本大震災の影響を挙げる。「人生は予測がつかないものという意識を、彼らは震災をきっかけに高めたのでしょう」。

柔軟な「現実主義者」

ネオミレのこうした姿勢は、多くの行動に反映されている。最も重要な点は、「人生は不安定でいつ変わるか分からない。だから今を懸命に生きたい」と彼らが考えていることだ。そういう意味では、この世代は日本のどの世代よりも柔軟な姿勢を持つとも言える。

「人生は変わりやすい」ゆえに、彼らは将来の計画もあまり立てないようだ。自分に手が届かないモノに対する欲望もほとんどない。これまでにも増して宥和的な社会にあっても、他人との摩擦は避ける。自分たちの嗜好に合わないものは、避けて通る。

「彼らは決してネガティブではありません」とハリス氏。「現実を受け入れ、それに適応するのです。我々は彼らを『モチベーションが低い』『関心が薄い』などと型にはめて捉えますが、実際はとても賢く、他人との対立を避けて欲しいものを得る術を知っているのです」。

東京のPR業界で働く(BBDOとは無関係の)ネオミレの1人、加賀美実里氏は、震災が彼らの考え方に影響したかどうかどうかは「はっきり分からない」としつつ、「私たちの世代はとても柔軟で、問題の解決能力が自然と備わっています」と話す。「日頃、あまりにも多くの情報と接しているので、自分の目標のために役立つ情報の見極めができるのです」。また、「新しい価値観や視点を取り入れても、自分たちの基本的な価値観は変わりません」。

多趣味こそ、人生の意義

ネオミレに対するもう1つの誤解が、彼らの仕事に対する考え方だ。現実的で決して反発はしないものの、仕事が個人的充足感を得られるものとは捉えていない。「理想の仕事を追い求める」と答えたのはわずか26%で、一流企業で働くことに年長のミレニアルズよりも価値を見出さない。

「会社で働くことは私たちの生活の中心ではありません」と加賀美氏。「私たちは好きなことをしたり、自分の課題を克服したりするために生きています。会社に属することは人生の答えではありません。経験を積んだら会社を辞めようと考えているので、『上昇志向』の感覚はないです」。

彼らの多く(53%)は、仕事とプライベートとの時間のバランスを取ろうとする。若ければ若いほどその傾向は強く、プライバシーを優先する。

その理由は、彼らがより活動的だからだ。ネオミレは平均で3.6の趣味を持っているのに対し、年長のミレニアルズは2.9。また、前者は月平均で36のアプリケーションを使用するのに対し、後者は27。ネオミレの4分の3は「些細なことも含めて、たくさんの趣味がある」と答える。調査からは、キャリアや人間関係といった従来の若者が重視したテーマと同様、彼らが個人的趣味を重んじていることが分かる。62%は人間関係を維持したいと考えているが、「趣味の時間の妨げになってまでも時間を割くことはしたくない」と答えている。

「ワークライフバランスはとても大切です」と加賀美氏。「仕事はあくまでも自分たちの人生の目標に到達するためのツール。私たちの世代は、1つのコミュニティーにとどまるようなことはしません。たくさんの趣味や興味を持てば、新たな出会いや多くの見識・経験につながり、それらが知識を形作っていく。賢く生きたいのです」。

「東京」「セレブリティー」の衰退

ネオミレは海外旅行への関心も上の世代に比べて低く、55%が「外国へ行くことに興味がない」。この結果は一見、狭量な内向き志向を思わせるが、どうやら計画を立てることを嫌う性質に関係するようだ。谷津氏によれば、その要因は「東京ではなく、日本に対する関心が高まっていること」。テクノロジーを通して個人的趣味に基づいたネットワークを形成する能力が増し、「大都市への憧れがなくなってきている」。「日本中をカバーするコミュニティーへの関心が高まっているのです」。

加賀美氏も「東京は決して全ての中心ではない」と指摘し、この世代に「日本文化に対する新たな興味が生まれている」と話す。「それが、2020年東京五輪への助走とリンクするのではないでしょうか」。

また、ネオミレの78%が貯蓄に興味を持たず、家やクルマといった高額商品、更にはレジャーにすら関心が薄い。これまでの時代も若者は貯金に熱心ではなかったが、ハリス氏は今の若者の傾向は「自らが決して望んでいない、人生における避けられない変化 −− 言い換えれば、彼らから柔軟性を奪う責任や義務 −− への無意識の抵抗の表れではないでしょうか」という。

消費行動については、50%が「衝動的にショッピングをする」と答え、67%は手軽に満足感を得たいためにモノを買うと答えている。ソーシャルメディアは比較的大きな影響を与えており、37%は「ソーシャルチャンネルで見たモノを買う」とも。谷津氏は彼らを「ショップの中で生活しているようなもの」と比喩し、「金額の小さなものでも迷わずどんどん購入する」という。

これはマーケターにとって悪い報せではないが、彼らが知っておかなければならないことが1つある。それは、メッセージを伝える媒介としてセレブリティーの影響力が次第に弱まり、名もないインフルエンサーの力が増しているということだ。ネオミレの46%がソーシャルメディア上のこうしたインフルエンサーを支持すると答え、年長のミレニアルズは30%だった。加賀美氏は、「セレブリティーは現実味がない」という。「私たちと同じような生活をし、考え方を持っている人々に共感を覚えます」。

つまるところ、ネオミレに訴求することは彼らの上の世代に比べて難しいわけでも容易なわけでもないのだろう。谷津氏はマーケターが留意するべき点として、「コンシューマージャーニーが極めて短くなっていること」を挙げる。その好例が、ラグジュアリーブランドのオンラインショップ「YOOX(ユークス)」の最近の動向だという。また、顧客体験に関しては「東京に重点を置いて全てを考えるべきではない」とも。更に、このグループとの関係を築くためには「彼らの生活の中でブランドがどのような役割を果たせるか理解すること」。「それは、広告の中で単に彼らの『肖像』を描くことではありません。メジャーなブランドは今でもそうした誤ったアプローチを極めて頻繁に行っています」。

「『君たち若者の全体像はだいたいこんなものだろう。だから我々のブランドを買いなさい』というようなアプローチでは、若者たちとコミュニケーションを図ることはできません。『お父さんが1人でダンスを踊っている』と後で気づくだけでしょう」(ハリス氏)。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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