専門家からの意見を求める際にジェンダーバイアス(性差による偏向)が介在することが統計から明らかになり、世界中のパブリッシャーが、ニュース報道において多様性を深めることを目指している。
ブルームバーグで東南アジア担当の編集長を務めるステファニー・ファン氏は、先週シンガポールで行われたCampaign Asia-Pacific主催「変化を主導する女性リーダー」に登壇。ニュース記事で引用するコメントの発言者の50%を女性にしていくという、同社の新しい取り組みを発表した。
この決定の背景にあるのは、権利擁護団体「ユナイテッド・フォー・ニュース」による調査結果だ。それによると、ニュース記事でコメントを引用された専門家の中で、女性が占める割合はわずか2割。また、我々が日ごろメディアで見たり聞いたりする人たちの中に女性が占める割合も、わずか24%だった。
ファン氏によれば報道機関、特にビジネス関連のメディアはあまりにも長い間、過度に男性ばかりに意見を求めてきた。また、信頼できる情報源として同じ男性ばかりに繰り返し取材をするため、この傾向に拍車がかかり、一面に取り上げられる女性に影響を及ぼしてきた。
「これは、企業首脳陣の陣容に関する問題でもありますが、新進気鋭の女性エキスパートの発掘に関わる問題でもあります。同じ男性リーダーばかりに会って、繰り返し彼らばかりにコメントを求めているので、そこに女性もいることに気がつかないのです」とファン氏。
「発言できる人は他にもいるのに、我々が探そうとしていないのです。発言者が多様であれば、報道機関としての発言力も増します。各報道機関が同じようにすれば、それは大きな違いに結びつくでしょう。女性の発言を求めなければ、世界の視点の半分を見逃すことになるのです」
ブルームバーグは世界の9都市で、女性リーダーに向けたメディアトレーニングを開いている。また同社の記者たちは、女性の発言をもっと求め、さまざまな分野における女性専門家のデータベースを作成していくそうだ。
エデルマンでマーケティングとスペシャルプロジェクトのディレクターを務めるローレン・マイヤース・カヴァナフ氏は、ビジネスの側面から見れば、企業はもっとコメント提供者として女性を押し出すべきと語る。「それはつまり、女性の地位向上を意味します。女性の専門家が記者の質問にきちんと答えられるよう、環境を整えてあげることなのです」
「そんな取り組みは最終的に、より広範な意見を網羅するニュースとなり、優れたコンテンツにつながります。我々が特に心を砕いている、オーディェンスの信頼獲得にもつながります」
広告の観点から見れば、女性の声をもっと拾い上げることは素晴らしいものの、問題なのは、広告における女性の固定観念に基づく描かれ方であるーーBBHで統合戦略を統括するリジー・ノーラン氏はこのように語る。
「アジアには、意欲的で経済の知識が豊富な、新しい世代の素晴らしい女性たちがいます。しかし報道記事に登場する女性といえば、子どもや病人などの面倒を見る、おそらくあまり発言することもない女性ばかり。広告主には、新世代の女性を発掘する務めがあります。その方が、ストーリーテリングの観点でも興味深いでしょう。そこには大きなチャンスが潜んでいるのです」
ノーラン氏が挙げたユニリーバの驚くべき調査結果によると、広告に登場する女性のうち、知的に描かれているのはわずか2%、リーダーや指導者として描かれているのはわずか3%だ。「この傾向と逆をいくブランドは目立つため、得るものが大きいはず」とノーラン氏。BBHがストックフォト「アンスプラッシュ」と共同で実施した、ストックフォトにおけるジェンダーステレオタイプに焦点を当てた「See Difference」キャンペーンにも言及した。
ブランドは、例えば6秒デジタル広告など尺の短いものでは、即座に消費者に伝わるという理由でステレオタイプのイメージを使いがちなのだろうか。この問いにノーラン氏は「そうでしょうね、楽ですから。でもそういう広告は、すぐに忘れられます。記憶により残るブランドにはなりませんよ」
ビザのバイスプレジデントで東南アジアのマーケティングを統括するヴィヴィアン・パン氏は、状況は進展してはいるものの、「広告に巨費を投じるきわめて大手のブランドは、人々に影響を与えるという点で実に大きな役割を担っている」とし、この件でもっと責任を負うべきと指摘する。
ビザは今年、FIFA女子ワールドカップのスポンサーになっている。同イベントは、より進歩的でインクルーシブであろうとする同社の姿勢を示すものの一つ、とパン氏は語った。
(文:ファイズ・サマディ 編集:田崎亮子)