谷津かおり氏は長年マッキャンエリクソンで勤務し、プランニング・ヘッドとして最近BBDO Japanに移った。
同氏の主だった業績の一つは、グッドデザイン賞を受賞した西友・ウォルマートによるプライベートブランドの開発指揮。また、広告業界で出産と仕事を両立させようとする女性のサポートにも積極的に関わってきた。近年は「育児をしながらキャリアを磨く女性が珍しくなくなった」と強く実感するという。
BBDO Japanはグローバル・アカウントを管理し、国内クライアントの国際的リソースへのアクセスを実現させていく。その中で谷津氏の役割は、同社が扱うすべてのブランド戦略の管轄。プランナーとしてのアプローチの仕方や、日本の広告業界の将来に関して聞いた。
マッキャンエリクソンでは20年勤められました。転職のきっかけは何だったのですか?
私にとって今回は初めての転職です。マッキャン時代はほぼすべてのクライアントと仕事をし、社員もほぼ全員が顔なじみでした。これから先10年もここにとどまるべきなのか ― こう自問したときに、変化が必要だと感じたのです。
なぜBBDOを選んだのでしょう?
トニー(BBDO JapanのCEO、トニー・ハリス氏)は意欲的ですし、仕事に対する情熱を感じる。私は、何か新しいものを作るチームの一員になりたいと思っていました。(BBDOは組織として)まだまとまっていない部分もありますが、チームを作ろうと皆が努力をしている。そういうところに惹かれます。
プランナーとしての哲学は何ですか?
私は消費者のインサイト(実態、本音)に強い関心がありますが、最も重視するのはインスピレーションです。優れたアイデアは、インサイトとインスピレーションが合致した時に生まれると考えています。決断のためのデータやリサーチはとても重要ですが、より重要なのは消費者を見極め、プランナーとして自分を信じることだと思っています。
BBDOを発展させていくために、優先する事柄は何でしょう?
現在の部署では、各自が独立して仕事をすることが多いですが、チームとして取り組むことで知識やケーススタディを共有でき、組織としてより強固になります。チームには、様々なブランドや製品に応用できる共通の見識やバックグランドがあります。クライアントも自社ブランドのことだけではなく、他の業界の事例に興味を持ってくれることが多いです。他業界の話も、時に良い刺激になるからです。
外資系ブランドが日本で直面する最大のハードルは何でしょう?
コンセプトがどの市場にも当てはまることは時々ありますが、現地の市場に合わせなければならない場合も少なくない。例えば(BBDOのクライアントである)マースは、強固なグローバル・コンセプトをもっていますが、リサーチを欠かさず、日本市場に合わない場合は現地のインサイトを生かしてクリエイティブを作り直しています。ブランドによってはグローバル・コンセプトを絶対曲げたくないというところもありますが、柔軟な対応がなければ日本では難しいでしょう。
日本の広告で変わってほしいところは何でしょう?
例えば製品の特徴を紹介するだけだったり、結果的に退屈な印象しか与えない広告があります。あるいは15秒の枠の中に伝えたい要素を3つも4つも詰め込み、情報過多となってしまって、結局は何も伝わらないものもある。ですから時に、カギとなる1つの強いメッセージをもった、海外のシンプルな広告に感銘を受けることがあります。
日本のマーケティングは2020年までに何が変わると思いますか?
国内ブランドが、グローバルに機能するコミュニケーションにいよいよ本腰を入れ始めると思います。できれば海外の広告から学んで、15秒の枠に情報を詰め込みすぎないようになっていくとよいと思います。30秒枠なら、より感情に訴えかけられるものも作れますが。それから、スポーツ関連のマーケティングにより注目が集まるでしょう。現時点では米国や他の国々と比べ、日本のブランドの関心は低い。東京オリンピックが日本市場にとって良い転機となり、オリンピック後も投資が続くことを期待しています。
戦略やクリエイティブに他業種の企業が進出し、日本の広告代理店はかつてないプレッシャーにさらされています。代理店はどのように変わっていくべきでしょう?
代理店の最大の強みは、戦略とクリエイティブの実行を結びつけられることです。そこからどうやって利益を生み出すかは、また別の問題です。コンサルタント会社のフィーは高く、ビジネスモデルも異なる。私にとって戦略とクリエイティブの実行を繋ぐことはエキサイティングな仕事ですし、私たちはそこに焦点を絞るべきだと思っています。しかし報酬のシステムについては、従来のコミッション制からフィー制に変える必要も出てくるでしょう。コンサルタント会社や他業種の企業が代理店の領域に進出してきているからこそ、その重要度は増しています。さもなければ、代理店はアイデアや戦略を無料で提供することになり、他業種企業と競い合うことは困難です。アイデアに値段をつけることは難しいですが、これは重要なポイントです。
(このインタビューは、英語で行われた)
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:水野龍哉)