David Blecken
2016年8月12日

海外進出を狙う、日本のニュースアプリ

世界市場での成長が見込まれるプラットフォーム、「スマートニュース」と「ニューズピックス」。これら日本発のサービスが世界の舞台で成功するには、何が必要なのだろうか。

スマートニュースの新しい国内ブランディング・キャンペーンには、タモリが出演
スマートニュースの新しい国内ブランディング・キャンペーンには、タモリが出演

人々がニュースに接する手段は、刻々と変化している。ニュースを提供する側は、そのペースに追いつこうと必死だ。「スマートニュース」のようなモバイル中心のニュース検索アプリは、コンテンツ配信の未来の姿と言えるだろう。最近では4,000万ドルに及ぶシリーズDの増資を行い、大規模なブランディング・キャンペーンで国産ニュースアプリケーションとしての地位を確立しようとしている。

この増資で、スマートニュースの時価総額は6億ドルに達したと推定される。同社は最近、日本で最も人気が高いテレビタレントの1人、タモリ(森田一義)を起用したテレビコマーシャルとオンライン広告を始めた。この広告はスマートニュースを「禁断のニュースアプリ」、すなわち1度のめり込むとやめられなくなるサービス、として描いている。

まず日本、そして世界へ

このブランディング・キャンペーンのコンセプトは若干大げさかもしれないが、数字が表す実績にはかなりの説得力がある。アプリのダウンロード数は1,800万件で、1日あたりのアクティブユーザー数は約250万人、月間では約550万人。これはグノシーやAntenna(アンテナ、ダウンロード数は1,000万件以上)、LINE NEWS(月間アクティブユーザー数は約400万人)に匹敵する数値だ。

マインドシェア・ジャパンのヘッド・オブ・プログラマティックであるカリル・マーウニ氏は、「スマートニュースの成長振りは目を見張るものがあり、従来の新聞などには到底なし得ないもの」と述べる。「こうしたニュースアプリの人気は以前からありましたが、成長の道筋が見えてきたのはここ2年ばかりのことです」。その一方、大手新聞各社はアプリ提供がほとんど進んでおらず、「広告モデルも完全に時代遅れ。ニュース市場に大きな革新をもたらしているのは、彼らのような新規参入業者です」。

スマートニュースのマーケティングディレクターを務める松岡洋平氏は、スマートニュースはまだ「『日本発』のサービスだと認識されていない」と指摘する。実際、同社はより大きな目標を掲げており、その使命は「日本だけではなく世界の舞台で、世界トップレベルの情報を必要としている人々に届けていくこと。今回のキャペーンは、そのための第一歩にすぎない」と同氏。英語対応サービスによって米国市場での普及は進んだが、広告による収益確保はまだ道半ばだ。

世界での展開を目指す日本のモバイル・ニュースアプリは、スマートニュースだけにとどまらない。同じくビジネスニュースが中心の「ニューズピックス」。スマートニュースほど浸透はしていないが、「単なるニュースだけではなく、会社情報なども提供する世界ナンバーワンのニュースサービスにすることが目標」と言うのは、取締役兼編集長の佐々木紀彦氏。ニューズピックスはスマートニュースと異なり、他の情報源からコンテンツを集めるだけではなく、独自のコンテンツも提供している。だが英語にはまだ対応しておらず、「最初の目標は日本でNo.1になること。そのためには、英語サービスをできるだけ速やかに始めなければなりません」(同氏)。今後5年間、国内の成長は鈍化し、市場は飽和するだろうと同氏は予測している。

「時間の戦い」

日本では、こうしたサービス競争がなかなか表面化しない。現在あるニュースアプリは、それぞれ読者層が異なるためだ。スマートニュースの読者は現在30~40代の男性が中心だが、今後最も成長が見込まれるのは若者や女性層と見ている。一方、ニューズピックスが読者としてターゲットとしているのは、従来型の中高年層。佐々木氏は、「ビジネスの世界では、昔からの企業がもつ影響力は今でも甚大。日本でNo.1のビジネスメディアになるには、こうした層を取り込む必要があるのです」と述べる。

松岡氏は現在の状況を、「ユーザーの時間をどれだけ確保するかの戦い」と呼ぶ。他のニュースアプリだけではなく、「ゲームやメッセージング・サービスなどもスマートニュースの競争相手」だ。一方で佐々木氏は、「日本経済新聞が競合相手と見なさされることもありますが、ニュースアプリと他のメディアとの連携モデルがあることを考えれば、一概にそうとも言えない」とあくまで慎重。これには議論の余地があるが、読者がニュースアプリに費やす時間が長くなれば、従来のメディアは明らかに収益を減らしてしまう。

マーウニ氏は、日本におけるスマートニュースなどのサービスの成長は「1~2年以内に頭打ちとなる」と予測する。Flipboardが強い米国市場で成長を遂げることも、決して簡単ではない。Flipboardはすでに3億件のダウンロードと7,000万人の月間ユーザーを達成しており、世界市場で圧倒的な規模を誇っている。だがマーウニ氏は、「スマートニュースは最近の増資で、様々の課題に対処していけるでしょう」と言う。例えばグノシーは、「外部からの投資による成長はそれほど大きくない」。同社は最近、ニュースアプリ業界の大幅な成長が見込まれるインドネシアのニュースアプリKurioに投資を行った。

成長実現のためには

では、各社はどのような見通しを立てているのだろうか。これまで各アプリの広告量はそれほど多くないのだが、単価は高い。これは独自のコンテンツでも同様で、特にニューズピックスはこうした傾向が顕著だ。マーウニ氏は、目下の問題は「柔軟性に欠けること」だと指摘する。

「広告モデルは非常に硬直化していて、いまだに広告掲載申込に頼っています。プログラマティックな1対1のターゲティングがまだ実現していません」「サードパーティ・トラッキングや広告の検証は、より重要な問題です。特に世界的ブランドにとっては。これらの機能は、デジタル広告の世界で新しい基準となりつつあります。これらのアプリには、それを実現できるデータや性能がすべて揃っている。後は彼らがこうした機能を最優先事項にできるかどうか、にかかっています」
実際、スマートニュースの大きな特長の一つが機械学習(マシンラーニング)だ。この機能を改善させていけば、最終的にどのメディア企業もほとんど実現できないレベルの広告ターゲティングが可能となる。佐々木氏は、動画広告は重要な成長分野の1つであり、「視聴者を引きつける効果的な手段」と考えている。一方で松岡氏は、「顧客にとって十分な動画広告枠、すなわち『安心できるスペース』がまだない」と指摘。「スマートニュースは、ユーザーにもっと便利な動画広告を提供する方法を見つけていかねばなりません」。

「各社が世界レベルでの目標を達成するには、これらのアプリは柔軟性が高くなければならず、また現在より将来を見据えたたものでなければならない」とマーウニ氏。「そのためには外部企業を買収して、技術やユーザーベースはもちろん、本当に必要とされるグローバルな発想力、つまり世界に通用する人材を短期間で手に入れる必要があるでしょう」。同氏曰く、グーグルやフェイスブックといった企業の成功要因はグローバルな視野と多様性にあり、さらに「1つの収入源だけに頼らず、新規事業を重視したこと」だという。

さらに、従来の感覚のニュースでは若い世代が興味を示さないということも留意すべきだろう。この点で、スマートニュースとニューズピックスは優れている。どちらも単純な堅いニュースを提供するだけの内容ではないからだ。新たな読者層を取り込むには、「新しいフォーマットやより多くの動画とビジュアルコンテンツ、パーソナル化、そして20代の読者に特化したストーリーが必要でしょう」とマーウニ氏。「フェイスブックやインスタグラム、スナップチャットはこうした点で最近は懸命な努力をしています。誰と何を競うべきなのか、自ずとはっきりするはずです」

スマートニュースは、さらに若い世代を視野に入れる。松岡氏は今後可能性のある新しいサービスについて、こう述べる。「子ども向けのニュースアプリもよいでしょう。子どもやティーンエイジャーがニュースに触れる機会は少なく、これは社会にとってよいこととは言えません。同時に我々は、デジタルネイティブ世代がどのようにニュースをとらえるのか理解する必要があります。子供向けのニュースアプリがあれば、そのヒントになるでしょう」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:PTSGI 編集:水野龍哉)

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