大きな政治・社会問題が起きるたびにブランドは自社の立場を明らかにし、消費者の信頼を得る −− 昨年来、ビジネス界ではこうしたトレンドが主流となり、ブランドは声明の発表に忙しい。
だが今や「ブランドパーパスがあふれ、消費者はそれらを敬遠するようになっている」。先週行われたウェビナー「Campaign Connect」でこう語ったのは、グーグルのグローバルマーケティング担当バイスプレジデント、マービン・チョウ氏だ。
「昨年はあまりにも多くの出来事が起こりました。その際たるものが、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動や新型コロナウイルスのパンデミック。過去1年半は、ブランドからのメッセージがデジタル空間で氾濫した」
「こうしたメッセージは人々の共感や結束を唱えつつも、課題をどのように解決すればいいのか、社会をどうやって前進させるのかといった具体策は一切含んでいませんでした」
だが、ブランドへの同情も禁じ得ないという。「コロナ禍で業績が落ちないよう奮闘しつつ、正しいメッセージを消費者に送って関心を引き付けねばならない。ブランドはそうした義務感を負いながら、地雷を踏まないよう綱渡りをしてきた」
最近行われた調査で、「企業を信用する」と答えた回答者は半数ほどに過ぎなかった。またZ世代(90年代半ばから2000年代にかけて生まれた世代)の85%は、企業が「利益追及よりも社会的行動をとるべき」と回答。これはブランドにとって重く受け止めるべき結果だろう。
では、どうすれば消費者が正しいメッセージを受け入れるのか。チョウ氏は鍵となる3つの要素を挙げた。
ニュースではなく、コアバリューを
ブランドは原点に立ち戻り、創業時のコアバリューを今一度見つめ直す。世間の風潮に左右されるのではなく、ブランドの堅固なアイデンティティーを認識することこそが重要。
「正真正銘のブランドパーパスに沿って、一貫したコミットメント(責任)を果たす。常に時事問題と関わりあう必要はないのです」
有言実行
大切なのは言うべきことを言うよりも、実行すべきことを実行すること。
「ブランドパーパスを語るだけでなく、課題解決のためにやれることをやる。ブランドは世間から人種差別主義と非難されないような声明を出しますが、反人種差別主義のための積極的な行動はとっていない」
グーグルはコアバリューを見つめ直し、情報の共有・拡散でマイノリティーへのサポートを行っている。例えば、人種の公平性を啓蒙するコンテンツの発信。また、グーグルマップでは黒人起業家の事業支援のために、彼らの所在地を示すサービスを始めた。
メディアに惑わされない
あまりにも多くのブランドがニュースのヘッドラインを追い駆け、それに合わせた声明を出さねばならないという強迫観念に駆られている。だが、「それは間違っている」
「時には、大きな事件が起きても静観する必要があります」。その代わりコアバリューに即したテーマを取り上げ、「言葉と行動で示すことが肝要なのです」
(文:ショーン・ハーグレイブ 翻訳・編集:水野龍哉)