最近の調査で、英国人の50%が、一日にやりたいことに対して時間が十分にないと回答した(学生の場合は61%、無職の人の場合は44%だった)。
現代のテクノロジーは、この問題をさらに深刻なものにしている。スマートフォンのおかげで、時間が速度を増しているかのように感じ、現実と知覚の間の差が広がっている。心理学教授のオイフェ・マクローリン博士は、「テクノロジーのおかげで、時の経過を図る我々の体内ペースメーカーが早められてしまっている」と書いている。
締め切りまでの時間はどんどん短くなり、この問題を悪化させているように感じられる。理論上は、締め切りまでの時間が短くなることは問題にならないはずだ。このことはパーキンソンの法則で「仕事の量は、完成のために与えられた時間を全て満たすまで膨張する」とされている。だがこれが当てはまるのは製造やコンピュータ計算といった、リニアな問題解決が必要なタスクのみ。問題なのは、クリエイティビティーの仕事に関しては、これが正反対だということだ。
2015年、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に「もっとクリエイティブになるには、もっと非生産的になろう」という記事が掲載された。プレッシャーの下でクリエイティブになろうとするのは、深刻な問題だという内容だ。生産性の高い人間は体系的にタスクをこなしていくが、クリエイティブに携わる企業が一定のペースで、計測可能なやり方で仕事を進めることはほとんどできない。クリエイティブであるということは、あらゆる可能性を試し、袋小路にいくつも突き当たりながら、正しい解決策を導き出すということだからだ。ワイデン+ケネディ社のダン・ワイデン氏も、かつてこう言った。「霧の中で迷うことが大事」だと。
ハーバードビジネスクールから出された論文「時間的制約とクリエイティビティー」によれば、時間的制約はクリエイティブな思考の大きな妨げになる。強い時間的プレッシャーにさらされると、クリエイティブにものを考える能力が45%落ちる。時間的制約は、人々を創造的洞察に導くのではなく、反対にそういった洞察をますますあいまいなものにしてしまうという。
つまり時間的制約は、分析や計算といったタスクには非常に向いているが、クリエイティブに関しては全く意味をなさない。だが我々には締め切りが待ち構えている。では、何をすべきか。
時間は作り出すことも、歪めることもできない。(『ハリー・ポッター』の)ハーマイオニーが持っていた「逆転時計」のようなものが作られない限り、時間を戻すこともできない。ただ時間との関係性は変えることができる。時間に関する心理を見つめ、違う捉え方をすれば、我々に有利なように時間を管理できる、というのが私の主張だ。
1. 疲労を大切に
おかしな響きだろう。だが、昼食後のほっとした時間や早朝の疲労感、あるいは深夜の眠気など、我々の注意力には山と谷がある。タスクをこなすには、最も緊張感の高まっている時がベストだろうと、本能でも論理的にも思うところ。だが、それは間違っている。疲れて脳の緊張が少し緩んでいる時に、抽象的な考えに形を与えることができることが科学的に証明されている。つまり緊張感が研ぎ澄まされている時は分析タスクに取り組み、少し疲れているような時にはクリエイティブな仕事をするべきなのだ。
2.ぼんやりとする時間を大切に
クリエイティブな問題解決にあたる際に使われる脳の一部は、考えがあれこれ飛んでぼんやりしている時のみに働く。これが「デフォルトモード」といわれるものだ。実際、一息入れて少しぼんやりした後の方が、クリエイティブの問題解決において40%向上するという調査結果が出ている。ぼんやりとする時間を大切に。
3.時間を割り当てる
男性か女性かに関わらず、人間の脳は複数のタスクを行うことができない。我々の脳は意識的注意を分割することができず、一つのタスクから次のタスクに移っていくことしかできないのだ。一度に複数のタスクを行えば、どれ一つとして目的にきっちりたどり着けないことになる。チャールズ・ディケンズは毎日、朝の時間を執筆に、午後の時間を散策に当てた。タスクの一つ一つに、まとまった時間をきちんと割り当てるようにしよう。
4.仕事に着手しよう
未完の仕事に対し、脳は不釣り合いなほど多くのエネルギーを割くことをご存じだろうか。これはツァイガルニク効果と呼ばれるもので、人は達成できなかったり中断していると感じることがあると、やらねばらないと考えて精神的緊張感を抱いてしまう、というものだ。たとえ物理的にその仕事を停止した後でも、意識下で仕事を続けてしまう。だから仕事に着手し、精神的緊張をほどこう。
5.携帯電話を片付けよう
近くにスマートフォンがあるだけで、仕事の速度が落ちる。たとえ電源を落としたり、裏返しにしておいたりしても、だ。今、スマホを脇においてこれを読んでいるかもしれないが、もしスマホを別の部屋に置いていたならば、問題解決能力は7%、注意力は11%高まっていたはず。何かを始める前には、携帯を片付けよう。
6.ペンを取ろう
手を使って何かを書くことで、理解力が大きく高まる。これはメンタルリフティングと呼ばれる効果で、書くことでスピードはゆっくりになるが、そのことによってタスクにより深く関わることにつながる。パソコンなどの画面を見ていて何も起こらないのなら、代わりにペンを取ろう。
7.「忙しい」と考えない
時間的制約は、不安感につながる。時間による不安と戦う最適な方法の一つが、それをポジティブなものに捉え直すことだというのをご存じだろうか。「忙しい」と考えるのではなく、代わりに「活発になっている」とか、「需要がある」と考えよう。見方を変えることが重要なのだ。
8.自分を甘やかそう
するべきことを先延ばしにした自分を許すことで、将来先延ばしをする可能性が減るということをご存じだろうか。最初の試験で見直しを行わないことをよしとした学生が、次の試験ではもっと良い結果を出すということが調査で分かっている。見直しをしなかったことをくよくよ悩んだ人の場合、また見直しをしない確率が25%高かった。だから、先延ばしにしたからといって自分を責めないこと。みんなやるのだから。ニューヨーカーがよく言うように、「忘れてしまえ」ということだ。
これで、不安感を減らし、もっとクリエイティブになるための8つのヒントが揃った。最後に本当にシンプルなヒントをもう一つ。帰宅後は、腕時計を外すこと。もう時間の奴隷ではないのだから、自らを解放してあげよう。このシンプルな行動一つで、もっとリラックスできることをお約束する。
さて、ここまで読んでもらって、だいぶあなたの時間を取ってしまった。もう、仕事をした方がよいのでは? いまや時間があるのだから。
(文:ケヴィン・チェスターズ 編集:田崎亮子)
ケヴィン・チェスターズ氏は、オグルヴィ(ロンドン)のチーフストラテジーオフィサー。