トヨタの声明によれば、ライドシェアビジネスが拡大している市場において新しいサービスの確立を目指し、両者は協業を進めていく。
トヨタの専務役員で「コネクティッドカンパニー」プレジデントの友山茂樹氏は声明の中で、トヨタは「安心、便利で、魅力的なモビリティサービスを提供する新しい形態の検討を進めていきたい」と述べた。
今回の協業の内容は、ナレッジの共有、車載アプリの開発、そして、Uberドライバーへのトヨタ車・レクサス車の販売である。トヨタ車のオーナーは、Uberのドライバーとして働くことで、自身の自動車リース料の支払いに充てることが可能だ。
ライドシェアリング会社Uberとの提携により、トヨタは、同様の戦略をとるフォルクスワーゲン(VW)やフォード、ゼネラルモーターズ(GM)と競合することになる。VWはGettに、GMはLyftに出資している。またフォードは、米国の大量輸送サービス会社Bridjとパートナーシップを組んでいる。
Uberとの提携によってトヨタブランドの話題性が高まる――。ブランドの観点から、こう話すのは、香港を拠点とするブランドコンサルティング会社プロフェットのアソシエイトパートナー、デイビッド・ブラビンス氏だ。
トヨタは世界最大の自動車メーカーであり、Uberはライドシェアリング・プラットフォームの最大手。今回の協業は「納得がいくもので、世界規模のものになり得る」とブラビンス氏。さらに、Uberドライバーとしての収入をリース料金の支払いに充てられる仕組みを「イノベーティブだ」と評価する。
しかし、自社と大幅に異なる文化を持つ企業との協業に、トヨタは学ぶところも多いだろう。「Uberは破壊的なブランドであり、保護されてきた既成の市場を破壊する同社の進め方は、トヨタにとって決して心地よいものではないはず。保守的な組織であるトヨタと、成長を貪欲に追求するUberとの協業で衝突が起こるのは必然で、適応していく必要がある」(ブラビンス氏)
ただし、Uberがライドシェアリング分野をリードする立場になり、印象が和らぐにつれて、衝突も少なくなっていくだろうと同氏は予測している。
さらに「(テスラを例外とする)自動車メーカーは、自ら改革するスピードが不十分なため、テクノロジープラットフォームと提携する必要がある」とブラビンス氏。自動運転車の普及を視野に入れると、今回の協業は両社にメリットをもたらす。Uberにとってはトヨタの技術ノウハウを取得できること、トヨタにとってはUberの優先サプライヤーになれることである。
販売面においては、トヨタは今回の協業によって、Lyftを共に米国都市部での売り上げ増を図るGMと競うことになる。しかし、Uberを通じた米国での売り上げ増には限界があると話すのは、東京を拠点とするマーケティングコンサルタントの松井一正氏だ。今回の協業にはレクサスブランドの販売も含まれてはいるが、カローラのような量産モデルを売ったところで大した利益にはならないだろうと言う。それよりも価値があるのは、協業による安定的な収入増だろう。
さらに、顧客と直接交流するコミュニケーションプラットフォームとしてUberを活用することにも、ポテンシャルがある。Uberが日本で提供するサービスは、現在のところは限定的だが、将来的には日本人の生活の一部として浸透する可能性がある。そのため、この分野に早期参入し、同社の米国市場での技術を試しながら経験を積むのは、理にかなっていると松井氏は付け加える。
Uberからトヨタがどれだけのことを学べるかは、まだ未知数だ。もちろん、容易なことではないだろう。今後は、「チャンスも大きいが、悩みも多いのでは」と松井氏は結論づけた。
(編集:田崎亮子)