「コンサルがやって来る」。これは、筆者がマネージングパートナーを務めていたエージェンシーのカーマラマ(Karmarama)が2016年にアクセンチュアに買収されたとき、恐れや嘲笑を込めて囁かれていた言葉だ。
それ以来、クリエイティブエージェンシーとコンサルティング企業のM&Aが世界中で相次いでいる。最近では、VCCPグループ(VCCP Group)がカウリー・コンサルティング(Cowry Consulting)を買収し、キャップジェミニ(Capgemini)が23レッド(23red)を買収した。また、クリエイティブエージェンシーが、コンサルティング部門を設立したり、ビジネスモデルをコンサルサービスの提供にシフトしたりする動きも見られる。
こうした変化は、エージェンシーが自らを表す言葉にも現れている。「エージェンシー」という表現からの脱却が進んでいるのだ。筆者が最近話をした業界の2人の友人によれば、どちらも自社の提案書から「エージェンシー」という言葉を排し、「成長支援企業」や「オルタナティブコンサルタント」といった表現を好んで使うようになったという。
筆者が現在、戦略的ブランドパートナーシップ責任者を務めているサイエンス・マジック(Science Magic)も、自社をエージェンシーではなくカンパニーと呼んでいる。なぜなら、私たちのビジネスは、当初から、戦略コンサルティングとクリエイティブサービスを1社で提供するモデルだからだ。だが、どのようなモデルやスタイルであれ、エージェンシーが、幅広い統合サービスを提供する動きを強めていることは間違いない。
クライアントの側から見れば、こうした動きには明確な利点がある。ガーディアン・メディア・グループで以前CEOを務めていたデビッド・ペムゼル氏は、その当時、午前中にはボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と、午後にはエージェンシーのハードル・ボーグル・ヘガーティ(BGH)と打ち合わせをするのが常だった。だが、新鮮なアイデアを生み出すには、両社のメンバーが同時に顔を合わせた方がいいと考えていたという。クライアントの経営層が求めているのは、コンサルティングに創造性を加えたり、クリエイティブに科学的思考を取り入れたりできるパートナーだ。
一方、エージェンシー側から見ても、自社のケーパビリティをエージェンシー業務に限定せず、コンサルティングサービスにまで拡大することは理にかなっている。その主な理由は次の3つだ。
1. 経営層に対する影響力が強まる
コンサルモデルを採り入れると、CEOやCMOといった「上層部」と会話ができるようになる。例えば、私たちは、より良い世界に向けた課題に取り組むビジネスを支援したいと考えているが、そのためには、CEOの課題意識(ビジネスの戦略や変革から製品やサービスまで)を理解する必要がある。そして、ブランディングやコミュニティとのつながり、コミュニケーション等を通じて、課題を解決できるよう、長期にわたって支援することが必要になる。
コンサルとのハイブリッドによって、クライアントにより良いサービスを提供できる領域は他にもある。例えば、優れたデータと洞察に基づいて未来を予測し、クライアントのビジネスに将来的に寄与する新しいコミュニティを特定するなども、その一つだ。それが特定できれば、企業はそのコミュニティの言葉に耳を傾けることで、ブランドイメージを良くできるだけでなく、コミュニティのニーズに即して、製品やサービスを変革していくことも可能になるだろう。サステナビリティ戦略や新たなイノベーションの創出も可能だ。
2. クリエイティビティの幅が広がる
これまで、コンサルティングとエージェンシーが連携する目的は、クリエイティビティを活用して極めて困難な課題に対処することにあった。だが、クリエイティブ人材が、データやビジネス戦略の専門家と連携することで、キャンペーンだけでなく意義のあるイノベーションにも注力できようになればどうだろうか。例えば、筆者がアクセンチュアにいた頃、あるクリエイターは電気自動車の普及を促す製品のイノベーションビジョンを考えていた。クリエイティブチームが、人々のニーズを満たすまったく新しい革新的なビジネスを思いつき、大企業向けにそれを構築するのを想像してみてほしい。クリエイティブとコンサルティングを融合させることで、クリエイティビティの可能性が広がり、より幅広いアイデアが生まれるのだ。
3. サプライヤーではなく、大切なパートナーとして扱われる
この業界では、長い間エージェンシーとクライアントは対等な関係であることが推奨されてきた。だが実際に、そうなっているケースはどれくらいあるだろうか。クライアントの担当者はすぐに入れ替わるし、ブランドからはあらゆるプロジェクトでピッチを求められる。その上、調達チームからは、高圧的な態度を取られることもある。おかげで、エージェンシーは往々にして、自分たちが大切な戦略パートナーではなく、キャンペーンの単なる下請けとして扱われているように感じる。
だがその一方、コンサルタントやビジネスストラテジストは、経営幹部の重要なアドバイザー、あるいは価値の高いパートナーと見なされることが多い。
業界に新時代が到来するか
マーティン・ソレル卿は2017年、コンサルティング企業が広告業界に進出する動きを「ちょっと奇妙だ」と評し、コンサルの文化が広告業界に定着するか疑問を呈していた。
大々的な企業文化の統合は、どのような種類のビジネスであっても簡単ではない。こうした文化の問題に対処するため、サイエンス・マジックでは、当初から、双方のスタッフが同じ部屋で仕事をするようにしている。このアプローチの利点は、自分もそういう環境でクリエイティブな仕事をしたいと考える人を採用できることだ。もちろん、クリエイターと一緒に仕事をした経験がないコンサルタントを採用する場合は、共通のフレームワークや認識を確立することも重要だ。
画期的なアイデアは、クリエイティブから生まれることもあれば、コンサルティングから生まれることもある。だが、この2つを融合させ、首尾一貫して連携させられるならば、実に驚くべき革新的な成果を生み出せるだろう。
グローバル化が進む今の世界では、「これまでどおりのビジネス」は終わりを告げた。したがって、さまざまなビジネスモデルや組織を組み合わせて、画期的なアイデアを見つけ出す必要がある。現状を打破し、過去を繰り返すのをやめ、新たな未来を形作るのに、今ほど良い機会はないのかもしれない。
ハティ・マシューズ氏は、サイエンス・マジックの最高ブランド責任者。