2010年代、アジアでは政治と文化、そしてテクノロジー面で大きな変革が起きた。経済発展と中間階級の勃興がイノベーションの素地となり、アジアは成長を求めるブランドにとって激戦区となったのだ。そしてブランディングとコミュニケーションのローカライズに成功したブランド −− 地域に根ざしたスタートアップから国際的企業に至るまで −− が、この10年で広くアジアで知られる存在となった。
新たな時代の幕開けにあたり、Campaignは2010年代を改めて回顧。ブランディング企業「ランドー(Landor)」、クリエイティブエージェンシー「アナログフォーク(AnalogFolk)」両社のブランドスペシャリストに、最も成長を遂げたAPACブランドについて尋ねた。
クリス・ライアン(アナログフォーク・アジア共同創業者、マネージングディレクター)
人との交流から決済まで、「あらゆることができるアプリ」を初めて生み出したウィーチャット(WeChat、微信)は消費者の行動を根本から変えた。マーク・ザッカーバーグが打ち出したフェイスブックの新戦略もウィーチャットの影響を受けたほどだ。
エアビーアンドビーは旅のあり方を変え、我々に「belong anywhere(あらゆるところに帰属する)」という感覚を培った。創業者のブライアン・チェスキーが、同じく創業者のジョー・ゲビアにわずか数ドルを稼ぐアイデアをメールで送ったのはまだ10年ほど前のこと。それが起業のきっかけだった。2010年代を通して同社は38億米ドル(約4100億円)の売上を出す企業に成長し、自社のみならず世界中のホストと利益を共有した。保有する室数は、今や世界の5大ホテルチェーンの合計をも凌いでいる。
ネットフリックスはすべての人々のコンテンツの楽しみ方を変えた。「すべての人々」と表現したのは、ネットフリックスを見ていない人を私は知らないからだ。「Netflix and chill (ネットフリックスを見て、家で寛ごう)」というセリフは、カジュアルなセックスを示唆するインターネットスラングにすらなった。
エミリー・シーン(ランドール、シニアストラテジスト)
エアアジアは、キャッチコピーである「Now everyone can fly」を文字通り実現。過去10年以上にわたり、アジアにおける旅の「民主化」に貢献した。路線を開設した国々には新たな成長機会を提供。これほど観光産業に多大な影響を与えたAPACブランドはほかに見当たらない。経済面もさることながら、個人への影響も大きい。手頃な価格で航空券を提供、飛行機に初めて乗る喜びを多くの人々に与え、外国旅行を身近なものに。その演出も心憎く、機体は鮮やかな色で塗られ、機内では心弾む音楽が迎える −− 同社のポジティブな打ち出し方は、人々の心を見事に捉えた。昨年の第1四半期は前年比で17%の成長を達成。2020年代も利用客の増加と好調な業績が見込まれる。
イノベーションが生む服と、廉価な日常スタイルの融合 −− ユニクロが掲げた独自の「公約」は、2010年代に完璧にマッチングした。高機能な防寒ジャケット(例えばカナダグース)や速乾性の高いTシャツ(同じくコロンビアスポーツウェア)など、それまで富裕層が対象だった商品を大衆向けに変え、市場を席巻。「ユニクロはファッション企業ではなく、テック企業だ」。創業者・柳井正氏が語ったこの有名な言葉に同社のユニークさは象徴される。テクノロジーによって革新的な商品を生み出した初の主要アパレルブランドであり、機能性を重視したその完璧な美学は幅広い消費者を魅了。「高品質を低価格で」というブランドの信条は、一つひとつの商品に凝縮されている。一時的ブームに終わることは決してなく、テクノロジー主導による機能性へのアプローチでその存在感はますます高まり、この10年を通して成長を持続。今では紛れもなく、人々の生活にすっかり浸透している。
この10年、APACのみならず、世界の舞台で最も文化的トレンドを生み出した国は紛れもなく韓国だ。2000年代に高まった韓国ドラマやKポップに対する人気はまだ始まりに過ぎず、アジア以外では全く無名だった。「K」で始まる言葉といえば、Kマートのことを意味したものだ。しかし、この10年で状況は大きく変化した。LGとサムスンは誰もが知るブランドとなり、韓国の音楽は世界のヒットチャートを席巻。消費者は「Kビューティー」の商品を買うために列を成し、世界的化粧品メーカーも遅れをとるまいと、BBクリームのような韓国のアイコン的プロダクトの自社ヴァージョンをスタートさせた。こうした流れに伴い、観光先としての韓国の人気も急上昇。訪韓する外国人の数は毎月60万人から160万人へと激増した。この10年で、韓国はすっかり名を馳せる国となった。
(翻訳・編集:水野龍哉)