1.オンライン広告の危機管理を強化すべき
大手ブランドの広告が意図せずしてテロ行為を助長していたと、英タイムズ紙が2月に報じて以来、ブランドの危機管理に関する議論が世界各地で巻き起こり、一向に収束の気配を見せない。このような危機的状況を受け、ユーチューブでは1万人を雇用し、広告主にも害を及ぼしかねない不適切な動画を人海戦術で取り締まることを決定した。驚いたのは、日本のマーケターがこの問題にあまり関心を払わなかったことだ。オンライン広告費が増加の一途をたどる中、危機管理の一層の強化が必要だと有識者は指摘する。だが、これまで多くのケースでそうだったように、行動に移すのは実際に危機的状況に直面してからになるのではないか。
2. 広告主に多大な影響を与える、SNS上での批判
今年は実にさまざまな広告が、かつては問題にならなかったようなことで炎上した。中でも、サラリーマンにお酌する役として女性を描いたサントリーのCMはSNS上で物議を醸し、放送中止となった。このCMを叩いた人たちは、必ずしもターゲットとしていた視聴者ではないかもしれない。だが、広告の中での女性の描き方などをSNS上でバッシングする声に、ブランドはより慎重にならざるを得ないだろう。配慮の行き届いた広告は大歓迎だが、そのことでユーモアを削ぐようなことにならないでほしいものだ。
3.広告界で公然と横行する年齢差別
ある年齢に達した社員を雇わないという方針を大手エージェンシーの人事担当が公にしたが、これには違和感を覚える。企業が若手にチャンスを与えることは大切だが、経験を積んだプロフェッショナルにも、まだ活躍できる重要な役割がある。とりわけ彼らの多くは、高齢化の進むこの国の消費者のマジョリティーを、少なくとも20代の社員よりは理解しやすいという一面もあるだろう。
4. その競合プレゼンは本当に必要なのか?
日本ほど、プロジェクト単位の競合プレゼンが多い国はない。広告会社は年がら年中、新規事業や既存事業に関する提案をまとめざるを得ない状態。たとえそこから収益を得られたとしても、非常に少ないことがほとんどだ。問題の背景には、クライアント自身が何をしたいのかを把握していないことがあると、大手投資会社のマーケティング部長が5月に述べている。広告界が効率化に向けて舵を切る中、広告の見直しは本当に必要な場合のみにとどめ、それ以外のときは広告会社が仕事に集中できるよう任せるといった姿勢が、クライアント側に求められるだろう。
5. ブランドのコアバリューに沿った社会貢献活動を
多くの消費者がエシカル(倫理的)な観点からブランドを選ぶ昨今、社会に貢献する存在として見られたいと企業側が望むのは当然の流れだ。だが時間や予算には限りがある。そのため寄付や社会貢献活動を行うにあたっては、ただやみくもに手を広げるのではなく、ブランドのパーパス(存在意義)との関連性が明確なものに絞り込むべきである。今年特に興味深かったのは、アジアやアフリカで衛生環境の改善に挑むリクシルの取り組みだ。国外では、米ユタ州の国定記念物「ベアーズ・イヤーズ」の指定保護地域を大幅縮小したとして、アウトドアブランド「パタゴニア」がトランプ大統領を告訴したところ、売り上げ増に。自らの価値基準に基づいた行動が、事業面にも影響を及ぼすことを示す結果となった。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)