David Blecken
2018年12月26日

2019年を展望する

明けましておめでとうございます。国内外で様々な動きがあった2018年のマーケティング界。鍵となるテーマを取り上げ、この1年を読み解く。

2019年を展望する

大手広告代理店の変革は予想以上に困難 −− 米投資ファンド・ベインキャピタルはこう実感しているに違いない。昨年の今頃、同社は買収したADKをまったく新しい広告会社に生まれ変わらせるべく大胆な青写真を描いていた。だがこれまでのところ、目に見える変化は起きていない。早期退職を奨励し、様々な部署の社員が離職しているようだが、こうした事実を除いては……。上層部にも大きな変化はなく、今後は中間管理職の異動が見込まれる。そうでなければ、何も起きないということだろう。それでも、ADKには今後を楽観視できる十分な理由がある。才能に恵まれた人材が豊富だからだ。来年はより具体的な改革が起きるのだろうか。

世界最大の広告代理店の変革は一層困難だ。極めて不遇の年を送ったWPPは、改革の歩みをできる限り速めようとするだろう。マーク・リード新CEOは高い期待を背負ってスタートしたが、これまで「収益のオーガニック成長率を2021年末までに同業他社と同じレベルにする」と述べるにとどまり、成長の具体的目標は掲げていない。WPPの企業価値はもはや巨大とは言えないだろう。クライアントはテクノロジーを重視した統合的なサービスの実現を求めるが、あぐらをかいているかのように動きは鈍い。改革の能力は確実に備えているが、その実現にはしばらく時間がかかりそうだ。

あまり注目されない企業により多くの可能性があるかもしれない。不名誉な形でWPPを追われたマーティン・ソレル卿。同氏が明白に報復の意を込めてS4キャピタルを立ち上げると、実情に疎い評論家たちはすぐに嘲笑した。だが、同社は効率的出資でイノベーティブな企業を2社買収。ソレル卿は今、失うものがほとんどなく、多くの見返りを期待できる立場にある。現存のマーケティングサービス企業を買収の対象として見た場合、潜在性の高いものは決して多くはない。それを期待できるのはむしろテック系企業だ。再び新たなキャリアを歩みだしたソレル卿は、少なくとも「プレイヤー」としての意気込みは十分に見える。

日本もその気になれば変われる。長らくプリント・フォーマットで行われてきたテレビCMの送稿が今、オンラインに変わりつつある。確かに遅きに失した感はあるが、重要なのはそれが実際に起きたという事実だ(効率化が実現するかどうかの答えは、まだ待たねばならぬが……)。残る課題は、他の根強い慣行も変えられるかどうかだろう。その代表例が、いまだプロセスが不透明なメディアバイイング。マーケターはより一層の透明性を求め始めている。

AI(人工知能)でも優れたクリエイティブワークを生み出せることが証明された。AIが原作を手がけた新型レクサスESのCF。自分に生命があるのかないのか、クルマ自身が葛藤するストーリーは予想以上の反響を呼んだ。「AIが不気味なほどの自己認識力を持ち、あたかも人間によって書かれたかのよう」 −− そんな評価がもっぱらだ。来年はより多くのブランドがAIを使って実験的試みを行うだろう。多くの駄作も生まれるだろうが、人間との差異を感じさせない珠玉の作品を期待したい。

日本の行政府はより優れたコミュニケーション能力を。プラスティックごみの削減や外国人労働者受け入れに対する法整備、築地移転におけるブランド戦略の一貫性、そして大衆に寄り添う意思の表明……。現在の政治指導者たちが様々な面で成功を収めてきたことは確かだ。しかしこうした問題を見渡してみると、決してそうであったわけではない。彼らがコミュニケーションとそれに対する投資の価値をもっと深く理解すれば、ずっと円滑な運営ができるようになるだろう。

巨大たばこメーカーによる巨大なマーケティング戦略。今年、フィリップ・モリス・インターナショナルが取った「攻め」の姿勢には誰もが目をむいた。スモークフリー社会をつくるという表向きの目標を掲げ、マーケティングサービス業界と手を握ったからだ。遅れを取るまいと、ブリティッシュ・アメリカン・タバコなども初のテレビ広告を打ち、若干気まずそうに同様のキャンペーンを展開した。たばこメーカーを倫理上「悪」とみなし、協働を拒む向きはこうした姿勢に極めて懐疑的だ。だがどのような意見が出ようとも、来年は各メーカーがマーケティング活動を強化し、そのための支出を増やしていくに違いない。

エンターテインメントへと様変わりするマーケティング。電通は今後コンテンツビジネスを強化し、ゆくゆくは事業全体の中核にしていくようだ。国内外でブランドのためにアニメを活用する大規模な計画もある。また、仏・ヴィヴェンディ社に買収されたハバスはエンターテインメント企業としてリポジショニング。米・ユナイテッドエンターテイメントなどもこうした方向性に舵を切る。更にポップグループEXILEのメンバーが運営するLDHのような新興勢力も、ブランドとのより密な協働を模索する。こうした流れは決して悪いことではない。広告主はオーディエンスを楽しませる、あるいは有意義なものを提供するという義務があるからだ(残念ながら、そのどちらも達成できないことがほとんど)。ブランドがより長時間のエンターテインメントを提供する際に注意せねばならないのは、自社の立ち位置だろう。いかにコンテンツの邪魔をせず、存在をアピールできるかにかかっている。

スポンサー企業のステップアップ。2020年東京五輪・パラリンピック大会まで約1年半となった。途方もなく高いスポンサー料を払うブランドは、来年を有意義な年にしなければならない。また、電通のアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」がどのように機能するかも興味深い。スポーツ関連のイノベーションで日本が世界の中心になれないという理由はない。大規模なスポーツイベントが続くこの数年で、日本のスポーツマーケティング、スタートアップ両業界が活性化することを期待したい。

制作分野も活性化しそうだ。コネクションのような制作会社の出現は、才能がありながら過小評価される人材が多い業界にとっては吉報。国内の制作会社がより効率的、かつクリエイティブになっていく明るい兆しだろう。彼ら(、そして才能あるフリーのプロデューサーやディレクターたち)が新たな枠の中で実験的試みを続け、ブランドコンテンツ制作の向上にますます大きな役割を果たすことを期待する。

フリーランスの人材の増加。「クリエイティブの才に満ちた人はフルタイムで働く気は毛頭ない」 −− よく言われることだが、日本でも会社に入るより個人として働き、自由(と不安定性)の享受を選択する人々が増えている。それには様々な理由が挙げられるが、いずれにせよこの流れが逆転することはないだろう。エージェンシーやブランドは、こうした人材を引き込むための対策が必要となる。

フェイスブック(FB)の苦闘は続く。PR的観点からすれば、2018年はFBにとって大きな災いの年だった。だが、数多の醜聞は同社の広告収入にほとんど影響を与えなかった。そんな状況が変わりそうだ。インターパブリック・グループ(IPG)傘下のメディアエージェンシー「イニシアティブ(Initiative)」のグローバルCEOが、FBへの広告を控えるようクライアントに呼びかけたからだ。もっと責任を持って行動するようFBに圧力をかけるためにほかならない。当のFBはインテグラル・アド・サイエンスのような第三者企業に広告監査をさせるなど、いくつかの点で徐々に透明性を高めている。だがユーザーのデータ利用に関してはまだまだ不透明な部分が多く、来年はより多くの課題が浮き彫りになるだろう。

日本のマーケターはより高い透明性を求めている。デジタルメディアに対する監査は、最近のちょっとした趨勢になっている。広告代理店やパブリッシャーはクライアントの広告費をどのように使っているのか −− P&Gやソニー、資生堂、ネスレといった大手企業が詳細を知りたいと考えるようになったからだ。だが、こうした姿勢を取る国内企業はほんのひと握りに過ぎない。世界の潮流にならい、来年は多くの企業がより厳正な態度を取るようになるのだろうか。

より多くのブランドが、ステレオタイプや悪しき慣習に挑む。資生堂が手がけたLGBTのラブストーリーや、就活学生の画一的なリクルートスタイルに疑問を呈するパンテーンのCFなど、今年は広告でいくつかの好作品が見られた。だがほとんどの広告は、いまだに極めて古い価値観に基づいてつくられている。より多くのブランドが若干のリスクを冒し、差別化を実現させることを期待したい。

職場を変えるか、変えないか。この1年半、各広告代理店が唱えてきた働き方改革に関する対策は効果が出ているのだろうか。我々は企業にお勤めの皆さんから率直な意見をお聞きしたい。今の会社での環境に不満はないのか。この問題はこれまで通り重要であり、決して忘れ去らてはならない。シェアすべきストーリーがあれば、是非こちらまで電子メールをお送りください。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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