独立系マーケティングコンサルティング会社のR3が発表した世界の新規売上データによると、2020年のマーケティング業界では、クリエイティブエージェンシーの不振をメディア事業の伸びが一部補った形になり、全体で5.8%の減少にとどまったという。2020年1月~12月におけるメディアエージェンシーの新規売上は前年比で6.9%増となり、はるかに低調だったクリエイティブ領域の損失(12.6%減)を埋め合わせたとしている。
「こうした数字は、さらなる効率化の追求よりも重要なことを教えてくれる」と、R3の共同創設者でプリンシパルを務めるグレッグ・ポール氏は語る。「テクノロジーのおかげで、メディアがマーケティングの主な牽引役となった。そうしたメディアに、クリエイティブがフォーマットや視認性、エンゲージメントの点で依存するようになった。マーケターはこの変化を認識し、導いてくれるパートナーを求めている」
クリエイティブ領域では、Airbnb(エアビーアンドビー)やハギーズのグローバル案件を獲得したドローガ5が、この1年で順位を10ランク上げた。VMLY&Rは20位から3位に急上昇し、リストラを実施した2018年以来の躍進を遂げている。クリエイティブの新規売上で世界一となったエージェンシーはハバス・ワールドワイドで、前年の3位からランクアップした。全体的に見ると、2020年のクリエイティブ領域は、ピッチが14%増加したのに対し、売上は12%減少している。
メディア領域では、新規売上が回復基調にあるものの、上位5社のメディアエージェンシーが、新規獲得案件から得た売上は前年比で27%減少した。新規売上で首位に立ったのはメディアコムで、イニシアティブが僅差の2位となり、以下ウェーブメーカー、スターコム、OMDと続く。その結果、業績ランキング上位の顔ぶれは大きく変わり、前年から5位以内を維持したエージェンシーはメディアコムだけだった。
クリエイティブ領域とメディア領域の両方で各エージェンシーの順位が大きく変動したのに対し、ホールディンググループのランキングではWPPが首位を堅守した。同社は2番手のピュブリシス・グループの2倍近い売上と2倍以上の新規案件獲得数を記録するなど、好業績で競合他社を引き離した。R3によるとWPPは、急速にデジタル化する市場への対応を強化する方向に舵を切ったことで、クリエイティブ売上の前年比134%増、メディア売上の前年比161%増を実現したという。3位から5位までは、インターパブリック、オムニコム、電通という顔ぶれとなった。なお電通は、案件獲得件数で2位につけている。
APAC(アジア太平洋地域)に限って見ると、WPP傘下のエージェンシー2社がクリエイティブ領域とメディア領域の両ランキングで首位だった。クリエイティブ領域ではオグルヴィが同地域で1位を堅持し、メディア領域ではマインドシェアがトップに立っている。APACの新規売上ランキングについては、こちらで確認できる。
調査方法
R3の「ニュー・ビジネス・リーグ」は、グローバルエージェンシーから毎月提供されるデータを用い、2002年から集計されている。また、提供されたデータをクライアント推計値およびNielsen ADEXのデータと比較照合し、適切に調整を行い、売上推計値を算出している。R3は常に正確なレポーティングに努めているが、意見や質問も受け付けている(メールアドレスは[email protected])。また、同社ウェブサイト(www.rthree.com)では、詳しい情報の閲覧や資料のダウンロードも可能。R3は業界をリードする独立系コンサルティング企業で、エージェンシーの業績とマーケティングROIの追跡調査に注力している。