Helen Roxburgh
2017年8月09日

ASEAN市場成長のカギは地方都市

ASEANでの躍進を目指す各ブランド。だが今後10年、この域内での成長を享受するには国レベルでなく各地域の特性を見極める必要がありそうだ。

ASEANの活気を象徴するのは、こうした大都市の渋滞だけではない。
ASEANの活気を象徴するのは、こうした大都市の渋滞だけではない。

一般的な認識とは異なるが、東南アジアの今後の成長を支えていくのは大都市ではないかもしれない。市場調査会社ニールセンとコンサルティング会社アルファベータ(AlphaBeta)が実施した調査結果によると、ASEANの今後の個人消費を押し上げるうえで極めて重要な役割を果たすのは人口50〜500万人の中規模都市や地域で、ブランドはこれらの地域にもっと注目すべきだという。

また、ASEANの消費・市場動向に関する常識の多くが間違っていると指摘。この調査はASEANの7大経済国の700以上の都市と地域で実施され、チョコレートやインスタントラーメン、ビール、シャンプー、洗濯用洗剤といった最も一般的な10のカテゴリーの製品に関する現在の消費需要、そして将来の潜在的需要を検証した。

それによると、成長の主な「ホットスポット」は2030年までに中規模都市になる。これはジャカルタやマニラ、バンコクといった大規模都市がASEANの成長の唯一の起爆剤という見方を覆す。多様な民族や言語・宗教を擁し、6億3700万の人口を抱えるASEANは都市化が進み、活力に満ちている。だがこの域内の特徴や需要については、「驚くべきことにほとんど理解されていない」という。

インドネシアが全てにあらず

この報告書は、インドネシアがASEANで最も重要な市場という考え方にも異議を唱える。インドネシアはASEANの経済産出量の約40%を占めるが、域内レベルで見れば最大の消費者市場というわけではない。例えば洗剤やソフトドリンクなど消費財分野の3分の1で、上位50の市場を占める割合はフィリピンの方がインドネシアよりも高いのだ。

また、フェイシャルモイスチャライザーの2大消費者市場はバンコクとシンガポールだが、タイのナコンラチャシマやチョンブリ、ラヨーンといった県の売上が急速に伸びており、今後10年でトップ10の仲間入りをするだろうと見る。

ニールセンで成長市場の販売効果を分析するローラ・マカロー氏は、「この報告書は中規模都市が大規模都市と張り合っていることを示しています」と語る。

「域内や日本、中国、インドといった周辺国との自由貿易がASEANの大都市のみならず、中規模都市と地域の成長を可能にしています。モノやサービス、投資の自由な取引から恩恵を受けてきたのは、例えば主要な海上・陸上輸送ルートに当たるフィリピンのセブやマレーシアのジョホール。国境をまたいだ貿易ではタイのコンケンやチェンライなどです」

「大規模都市が過密になって生活費が上昇したため、その通勤圏にある周辺の都市や町も恩恵を受けているのです」

フィリピンのカビテやブラカン、インドネシアのブカシやタンゲランといった衛星都市の成長は消費者市場を大きく拡大し、新たな商機をもたらしている。

「報告書から読み取れるメッセージは、マニラやジャカルタ、バンコクといった人口500万レベルの大都市にも依然成長の可能性がある一方、他の地域にも大きなチャンスがあるということです」とマカロー氏。

中規模都市や地域の成長要因としてほかに挙げられるのは、天然資源の供給力、観光需要の大きさ、大都市圏からの通勤の利便性、消費者基盤の大きさ、そして消費者の経済力などだ。

過度な「単純化」は禁物

また、報告書は国全体の経済成長率と地域のそれとの大きな差異を指摘し、ASEAN地域を過度に単純化して捉えぬよう警告する。例えば1つの国の中でも、年間成長率が2桁台の地域と0%の地域が混在する。またある地域は売上高で国全体よりも伸びが大きくなると予想され、注意深いチェックが必要だ。例えばタイでは2010年以降、洗剤の需要の伸びは全国で年率1.2%と比較的緩やかだが、北部地域とチェンマイでは8.9% と7倍以上になる。

更に、2016年から2030年にかけて中規模地域でのチョコレートの需要は大規模都市のほぼ2倍の速度で伸びると予測。ベトナム南部のホーチミン市だけでもインスタントラーメンの需要はタイの3倍近くの伸びになるという。

そして新製品をいつ発売するべきか見極めるには、「現状をよく把握することが大切」と指摘。通常ならば消費財企業が市場に参入する最も良いタイミングは、消費者の所得が伸びて需要が大きく拡大する「テイクオフの段階直前」とされている。この時期に製品を発売すれば先行者としての利を手に入れられ、早すぎる参入による時間と資金の浪費を回避できるからだ。

だが報告書ではテイクオフの段階は製品の種類やASEAN内の地域によって大きく異なり、場合によってはそうした段階が存在しないこともあるという。例えばインドネシアでは現在、263の都市と地域がインスタントラーメンのテイクオフ段階にあるが、チョコレートでは87カ所に。製品の発売に関し、消費財メーカーは画一化したアプローチをとるべきではないと促す。

「1つの国の中でも都市によって異なる製品やブランド、コミュニケーション戦略が必要になることがあります。従って国全体ではなく、各地域を正確に把握することが必要です」と話すのはジェイ・ウォルター・トンプソンでシンガポールと東南アジアのプランニング責任者を務めるアイダ・シオ氏だ。

3つのポイント

ASEANの中規模市場への参入を狙う企業に対し、報告書は3つの重要なポイントを挙げる。

まず、テイクオフ段階は製品のカテゴリーや国の地域によって大きく異なることを考慮し、細かい地域別の販促計画をつくること。次に、特定の顧客セグメントと地域を対象にした戦略を立てること。これによりマーケティング予算や戦略的重要性など、リソースの優先順位を容易に決められる。

そして最後は、 ASEANにおける地域の多様性とビジネスの流通経路が断片化していることを考慮し、国内の流通構造を精査すること。これによってディストリビューターを発掘するべき地点が明確になり、良好な関係を築くことで競合他社よりも有利な立場をとれる。

ASEANの市場環境は、2030年までに一変するという。報告書では多くの中規模都市と地域がASEANのトップ市場ランキングで順位を上げていると予測。これらの地域に今から照準を絞っておけば、将来の重要市場で「プレイヤーとしての指定席を確保できるだろう」としている。

(文:ヘレン・ロックスバーグ   編集:水野龍哉)

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