David Blecken
2018年9月12日

自由について考えさせる、アウディの新CM

日本向けの新しいキャンペーンは、素敵な仕上がりではある。だが同社が以前英国で展開したような、真に型破りな作品を期待せずにはいられないのだ。

アウディが「A7スポーツバック」モデルの日本向けキャンペーンを新たに公開した。テーマは「自由をどう使うか」である。

制作はワイデン+ケネディ トウキョウ。テレビCMや屋外広告、印刷媒体広告などに展開される。CMでは、スーツ姿の男性が都内の夜の閑散とした道路を駆け抜け、自動車へと一体化していく。

一方、東京湾のレインボーブリッジを走るA7が「自由をどう使うか」というキャッチフレーズとともに描かれた広告は、新聞や雑誌、高速道路沿いの屋外広告として掲出されると、ワイデン+ケネディの広報担当者は話す。

ワイデン+ケネディは今年上旬より、アウディの広告に携わっている。広報担当者によると、このたびA7ならびにA8のボディ形状が変わり、ブランドの方向性を新たに創造する機会となったという。

Campaignの視点:
新型モデルの車体も広告も、スポーツブランドのような印象を与えるもので魅力的だ。開放感のある道路で自由を謳歌するというのは普遍性がある。男性と自動車の像が重なり合うまでに20秒ほどかかるのも良い。

駆ける男性で自動車を表現するという手法にはひねりがあるものの、もっと自動車広告の型を打ち破るようなキャンペーンにもできたのではないだろうか。この機会に、20年以上も昔の広告をご紹介しよう。当時のアウディの広告は、真にディスラプティブ(破壊的)なものだった。

1994年に発表されたアウディA4のCMは、当時の自動車広告の中でも傑出した(そして自動車の広告っぽさを感じさせない)作品として、(少なくとも英語圏では)大変話題となった。制作はBBHロンドン。

このCMでは、ヤッピー(自分中心で気取った若手エリート)がA4を試乗。男性は自身の成功について自慢し続け、どの車を選ぶかで人となりが分かると語る。アウディはヤッピーが選ぶ車だというメッセージなのかと思いきや、ディーラーに戻ると彼は「僕の趣味ではない」と言い残して去る。その後「万人に認められる車ではありません」とのキャッチフレーズが映し出される。

当時は消費者の間で、けばけばしさに対する嫌悪感が沸き上がっていた。そんな中、アウディはこのような状況を逆手に取ったのだ。驚きや、社会に向けた主張といった要素で人々の関心を引きながら、アウディはヤッピーとは対極にあると位置付けた。また同時に、ライバルであるBMW(当時ヤッピーが選びそうな車だと思われていた)についても見事に暗示している。公開されてから25年近く経つCMだが、今も色褪せない。
(豆知識:このコンセプトはもともとフォルクスワーゲン・パサートのために考案されたが、却下された)

もちろん、このCMは英国市場に向けて制作されたものであり、日本向けに作られた今回のA7のCMと単純に比較するのはフェアではないかもしれない。ただ、ここで重要なのは、人々の期待を良い意味で裏切る大胆な施策は、大きな収穫をもたらすということ。これは、あらゆる文化圏について言えることだ。それでも最近は、このように傑出したオリジナリティーを、英国でも目にすることがほとんど無い。自動車広告はどのマーケットにおいても、似たような法則にのっとって作られたような作品が多い。

自動車ブランドが、アウディA4のように型破りなCMをまた制作してくれたならば、なんと素敵なことだろうか。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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