英国の広告事業者団体IPAと広告効果のエキスパートであるピーター・フィールド氏が最近発表した調査レポートが、熱い論議を呼んでいる。このレポートでは、企業パーパスを伝えるブランド構築キャンペーンには「従業員、ステークホルダー、投資家を引きつけ、販売を促進する」力があると強調している。現在マーケターは「パーパス」を正しくブランド戦略に取り込む方法を模索している。そして「DEI(多様性、公平性、包摂性)との整合性を取るにはどうすればいいか? この分野に参入できるほどの信頼を得ているか? 得ているなら、パーパスをビジネスにどう活かせばいいか?」と自問している。
しかし今、彼らが検討しているのは、自社ブランドにパーパスドリブンのコンセプトをどう適応するかという話題が中心だ。だが、筆者はこう尋ねたい。この考え方を自分自身の人生にも適応している人はいったいどれくらいいるだろうか、と。
「大離職時代(The Great Resignation)」は、筆者を含む大勢に、時間の使い方を考え直すきっかけをもたらした。マッキンゼーが米国で2021年に行った調査でも、従業員の3人に2人は、この間に自身の目的を振り返ったと回答している。これまで、キャリア、家、休暇を手に入れ、豪華なディナーやオンラインショッピングを楽しんできた人もいるだろう。だが、いったんそれらすべてから距離を置いて考えてみると、なぜこれらが大切なのか?それに どんな意味があるのか? 自分の目的と関連があるだろうか? といった疑問が浮かんでくる。人は給料をもらうためだけに生きているわけではない。また、先に挙げたようなことは、単に日々を快適に過ごすための諸要素にすぎない。他にもっと大切なことがあるはずだ。
長々と話していると、こんな指摘を受けそうだ。「やれやれ、偉そうなこと言わないでくれ。豪華なディナーや素敵な休暇を真っ先に楽しんでいたのは君じゃないか」と。
それは100%正しい。だが、今では私にも進むべき方向がわかっている。先ほど挙げたようなことは、もはや最大の関心事ではない。
私は、図らずも、この7年間で自分の人生のミッションに少しずつ近づいてきた。
仕事とは別に、私は、広告業界が時代に取り残されないようにするための活動を積極的に行ってきた。メディア・トラスト(Media Trust)やビリーブ(BelEve)では、若い人たちを指導し、彼らが広告業界でキャリアを築けるよう支援してきた。ストーンウォール(Stonewall)では、「学校のロールモデル」の一環として、生徒たちの前で自分が社会に出た頃の話をしてきた。また、ブルームUK(Bloom UK)では、プレジデントとしてインターセクショナリティの観点から女性の地位改善を支援してきた。だが、すべての歯車が噛み合い始めたのは、ヴァージン・グループで、マーケティング職からDEIの仕事に移り、さらにクリエイティブ・イコールズに移籍してからのことだ。
2021年のマッキンゼーの調査によると、米国では従業員の70%が、仕事によって目的意識が形作られると考えている。次世代の多様な人材のために世界を変えるという私のささやかな目的も、自身のコンサルティングの仕事によって支えられてきた。私はこれまで、自分の目的を言葉で明確に表現することができなかった。だが、世界が止まったかのようなロックダウンの静けさと、ジョージ・フロイド氏が白人警官から暴行、殺害された事件が、人生や仕事の優先順位を振り返る「精神の休日」を与えてくれた。そして、物事をいつもと違う方向から眺めたとき、思考がたちまちクリアになった。自分はなぜここにいるのか、なぜ平等に関してこれほど熱心に取り組んでいるのか、どうすればこの目的を達成できるのかを、ようやく理解したのだ。
ビジネスリーダーには、パーパスを中心に据えて人材を維持するために、以下のような明確な機会がある。
1. 時間をかけて、本当の意味でパーパスをビジネスに取り込もう。あなたのビジネスが存在している意味は何か? チームメンバーとワークショップを行うのもいい。Bコーポレーション認証(社会や環境に配慮した認証企業)を受ける検討をするのもいいだろう。
2. ビジネスパーパスを定義できたら、そのパーパスをどうすれば自社のメンバーにも適応できるか検討しよう。従業員のニーズを満たし、彼らが朝ベッドから出る理由を与えるにはどうすればいいかを考えてほしい。日本人が「生きがい」と呼んでいるこのような考え方こそ、私が追求しているものだ。
3. 従業員が通常の業務以外に個人的な目的も追求できるよう、手間ひまをかけて支援しよう。日々の業務と直接関係のないボランティア活動をしたり職業訓練コースを受けたりする時間を提供することを検討するのもいい。従業員へ今のうちに投資することが、将来必ず成果につながるはずだ。
ただし、最初に取り組むべきことは、自分自身のために時間を使うことだ。企業のパーパスやマーケティングキャンペーンの目標を決めるには、まず自分自身をしっかり見つめ直す必要がある。私の場合、自分の目的を明確にできたことが転機となり、自らの声に耳を傾け、自分の持つ能力を真に発揮できるようになった。
歌手で企業経営者、究極のフェミニストでもあるドリー・パートンに、こんな言葉がある。「自分が何者なのかを見つけよう。そして目的を持って生きよう」
ステファニー・マシューズ氏は、作家、アクティビストで、クリエイティブ・イコールズのシニアビジネスディレクターも務めている。2022年には新著が出版される予定。