Campaign Asia-Pacificがニールセン社と共同で毎年実施する消費者調査「アジアのトップ1000ブランド」。2020年の総合ランキングで首位に輝いたのは、9年連続で韓国のサムスン電子だった。
サムスンは長らく不祥事が続き、ブランドへの評価は揺らいでいる。先月には実質的経営トップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長に対し、粉飾決済と株価操作の容疑で逮捕状が請求された。だが華々しい新製品やパートナーシップの積極的展開が醜聞を抑え、消費者の支持を得たかたちだ。
同社の近年における最大のイノベーションは、「折りたためるスマートフォン」の開発。スマホの概念を覆したこの戦略は、iPhoneに匹敵する技術革新とも言える。2019年9月に最初の商品「Galaxy Fold」を市場に導入、今年2月には新モデル「Galaxy Z Flip」を発売した。
携帯電話部門のランキングでもサムスンが首位を守ったのは予想通り。調査対象となった14カ国・地域の市場のうち、同社は9カ国で首位。日本(サムスンは7位)、香港、台湾、ベトナムで首位になったのはアップルで、中国ではファーウェイだった(サムスンは4位)。
テック企業としてのサムスンの大きな特徴は、スマホに限らず幅広い製品分野で存在感を発揮していることだ。他の部門ではテレビとスマートホームで首位、コンピューター/タブレット、ホームオーディオ/ヘッドフォン、キッチン家電、ウェアラブルデバイス部門では2位。カメラ、エアコン/空気清浄機で4位、ゲームコンソール/ハードウェア、印刷機、コンピューターソフトウェアでは5位だった。
また「地域に根ざしたブランド」や、今年新設された「持続可能性に関して最も貢献したブランド」など5つの部門でも首位を獲得した。
消費者がサムスンをトップブランドに挙げる大きな要因は、イノベーションへの継続投資だろう。昨年の5Gスマホの販売台数は670万台強。これは世界の5G市場の54%で、5Gスマホでは世界一のメーカーであることを証明した。
さらにはKポップの世界的スター、BTSともコラボレーション。紫色をベースとした「Galaxy S20+」と「Galaxy Buds+」のBTSエディションは、発売後わずか1時間で完売となった。
こうしたモバイルデバイスや5G、AI(人工知能)といった分野のイノベーションに加え、サムスンは科学的快挙も達成。この7月、次世代半導体につながる「アモルファス窒化ホウ素(a-BN)」という新しい2次元材料の合成に成功した。2016年に起きた
「Galaxy Note 7」の発火事件以降、サムスンはリチウムイオン電池の代替品開発に取り組み、名誉挽回を目指す。
これらの成果に支えられ、第2四半期の営業利益はコロナ禍にもかかわらず、前年比23%増との見通しを発表。スマホや家電製品、半導体の堅調な売上が後押しした。
それでも、中国のライバル企業との競争は激化している。米中貿易摩擦にもかかわらず、世界市場における中国企業の躍進は目覚しい。今年の携帯電話部門のランキングでファーウェイは3位から7位に下がったものの、4月の販売台数ではトップメーカーのサムスンを上回った(カウンターポイント・リサーチ社調べ)。ファーウェイはブランドイメージの改善が必要だろうが、業績は今も好調だ。他の中国メーカーではOPPO(オッポ)とvivo(ビボ)がさらに基盤を固めた。携帯部門でOPPOは7位から5位に、vivoは16位から11位に順位を上げた。
「アジアのトップブランド1000」は2004年にスタートしたが、初めてソニーがトップ5の圏外に。代わって4位に入ったのは韓国のLGエレクトロニクス。同社は2010年にこれまで最高の3位となり、4位に入ったのは2001年以来。
ソニーの緩やかな下降傾向は、消費者嗜好の変化や韓国企業との新たな競争に日本のイノベーターが四苦八苦していることを象徴する。ソニーは2011年まで首位だったが、その後は徐々に、そして確実に下がり続けている。かつては「ウォークマン」やロボット犬「aibo(アイボ)」、DVDプレーヤーの人気製品でトレンドを築いたが、近年はこうした勢いを維持する革新的アイデアが欠けていた。スマホの分野でも出遅れ、オリジナルの「Xperia(エクスペリア)」は市場に浸透せず、初めはノキア、その後はアップル、そしてアジアのライバル企業であるサムスンとの闘いに破れた。さらにカメラ機能付き携帯電話の急速な普及でデジタルカメラが衰退したように、B2Cビジネスでも苦戦。デジタルカメラをあきらめ、流動的なスマホ市場向けのテクノロジーを見直すことで利益を上げてきた。
ソニーのようなビッグブランドですら勢いの維持に苦心したこの10年。その一方で、韓国ブランドは市場での存在感を見せつけてきた。ソニーをはじめとする日本企業がイノベーションや最先端テクノロジーを武器に欧米市場へ「日本らしさ」を輸出してきたとすれば、サムスンやLGなどの韓国企業はそれらの要素に加えて低コストと流通・販売網の急速な拡大を実現、序列を逆転させた。
今から1年ほど前にLGは世界初の8K OLEDテレビを発表、競争の激しいテレビ市場での地歩を確立した。今年1月にはラスベガスで開かれた世界最大の技術見本市「CES」で、65インチOLEDテレビを今年第3四半期に発売すると発表、来年の増益を宣言した。
また、「ロール(巻き取り)式」ディスプレイの4K有機テレビを年内中に発売することも発表。来年にはロール式スマホの発売も予定している。さらにはAI機能を高めた「LGThinQ」(画面が2倍に広がるスマホ)の開発も進めており、最先端デバイスメーカーとしてのイメージ確立に余念がない。ブランドとしてはサムスンの方が存在感が強いかもしれないが、白物家電などの分野ではLGの方がシェアが優っている。
実際、サムスンに対しLGは激しく肉薄する。昨年はグローバルメディアビジネス(事業規模は8億米ドル)を担うエージェンシーにPHDワールドワイドを指名。AI対応のThinQキャンペーンを2018年にスタートさせるなど、将来を見据えた活動を展開する。
ソニーは順位を下げたとは言え、まだそのブランド力は健在だ。「東京通信工業」から「ソニー」に名を変えて62年になる今年、再び「ソニーグループ」と社名変更。かつて栄光を誇った電子機器にも再び脚光を当て、成長を支えたゲームや映画、音楽といった分野とともにコングロマリットとしての特質をアピールしていく戦略だ。
ソニーの株価はコロナ禍の逆風にあって、19年振りに高値を更新した。社の方向性を巡っては約10年に及ぶ協議が繰り返されてきたが、最終的には映画と音楽というメディアに今後の活路を見出す。レガシーである電子機器分野への依存は避ける方針だ。このアイデンティティを浸透させる「Boundless by Sony」と名付けた新たなブランドキャンペーンもスタートした。
いずれにせよ、アジアのブランドの新たな長い覇権争いは始まったばかりだ。
(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)