Robert Sawatzky
2018年12月13日

ダイバーシティに逆行 2019年カンヌライオンズ審査委員長リスト

来年度のカンヌライオンズの審査委員長たちが発表された。27人のうち、24人が英米を拠点とする企業の人々だ。

ダイバーシティに逆行 2019年カンヌライオンズ審査委員長リスト

審査員長は依然として英米偏重、他国の意見は重視されず −− カンヌライオンズは引き続き、好ましからざる伝統を踏襲していくようだ。

アジアが既に週末に入った今月7日夕方、「世界的」クリエイティブフェスティバルの来年度の審査委員長のリストが発表された。その内訳はアジアだけでなく、他の多くの地域を冷遇するものだった。

新たに選ばれた27人の審査委員長のうち、24人が英国と米国を拠点とする企業の人々。残りの3人は1人が欧州、後の2人がアジア太平洋地域だった。南米や中東、アフリカからは1人も選ばれず、この地域にとっては厳しい結果となった。

確かに、リストにはラテンアメリカ人が若干名選ばれている。だがそのうちの1人は米国に拠点を構え、残りの人々も英国だ。豪州人も2人いるが、その1人であるデビッド・ドロガ氏も英米で仕事をしている。

ドロガ氏のようなクリエイティブ界のアイコンを指名することには、誰も異議を唱えないだろう。そうした見方をすれば、リストに載っている誰もがこの業界で高く評価されている面々だ。世界的なトップクリエイターがニューヨークやロンドンに拠点を置いたり、吸い寄せられたりするのはこれらの街の責任ではないだろう。

あるいはこのリストは、世界的フェスティバルをある種の方向性に導かないための新たな「宣告」なのだろうか。だが私は、ニューヨークやロンドンのクリエイティブの大御所たちが指名されればされるほど、彼らの影響力が保てるという意見には反対だ。

世界は急速に変わりつつあり、今では様々な「尺度」が用いられる。人口やモバイルの普及率、消費者の購買力、技術的イノベーションなどだ。

昨年のカンヌライオンズで、あるアジア人審査員はCampaign Asia-Pacific にこのように語った。「圧倒的多数の欧米人審査員に文化の違いや地域的キャンペーンの意義を理解させるのに、非常に苦労しました」。

「はっきりとしたバリアです」とマインドシェアAPACのアムリタ・ランダワ氏はいう。「このバリアは世界のほぼ半分の消費者を妨げている。これを突き崩すには、市場や地域性、文化について論じられる審査員をもっと選ぶ以外にありません」。

では、広告界の最前線で何が起きているのか。25億人の消費者を抱える中国とインドからは、1人の審査委員長も選ばれていない。アジア勢の受賞の少なさとともに、この事実に対する不満は高まるだろう。

カンヌライオンズはこうした批判を無視しても、果たして存続していけるのだろうか。

カンヌは世界各地のキャンペーンの良さを考慮し、それらの価値観を代弁するために適切な取り組みを行っている −− 全ての審査員の名が発表されたときには、是非こうした印象を与えてほしいものだ。文字通り、「世界的」なクリエイティビティーのフェスティバルでありたいのならば。

だがこれは、決して良いスタートではない。

カンヌライオンズ2019 審査委員長

「Entertainment Lion for Sport 」「Creative Strategy Lions」という2つのライオンズが新設された。その一方、「Product Design Lion」が廃止された。

コミュニケーション部門

  • Film Lions - マーガレット・ジョンソン / グッドバイ・シルバースタイン&パートナーズ(Goodby Silverstein & Partners) チーフ・クリエイティブ・オフィサー / 米国在住
  • Radio & Audio Lions - ホセ・ミゲル・ソコロフ / マレンロウ・グループ クリエイティブカウンシル・グローバル・プレジデント、マレンロウグループUK チーフ・クリエイティブ・オフィサー / グローバルに活動
  • Outdoor Lions - ジョン・パトロウリス / グレイ ワールドワイド・チーフ・クリエイティブ・オフィサー / グローバル
  • Print & Publishing Lions - オリビエ・アルトマン / アルトマン+パクリュー(Altmann + Pacreau) 共同設立者、CEO 兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー / フランス
  • Design Lions - リチャード・ティン / R/GA グローバル・チーフ・エクスペリエンス・オフィサー、米国チーフ・クリエイティブ・オフィサー / グローバル
  • Mobile Lions - アリ・ワイズ / DDBワールドワイド チーフ・クリエイティブ・オフィサー /  北米
  • Titanium Lions - デビッド・ルバース / BBDO チーフ・クリエイティブ・オフィサー(ワールドワイド)、チェアマン(北米) / グローバル

クラフト部門

  • Industry Craft Lions - トレバー・ロビンソンOBE(英国勲位)/ クワイエット・ストーム 設立者、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター / 英国
  • Digital Craft Lions  - レイ・イナモト / イナモト・アンド・カンパニー 共同設立者 / 米国
  • Film Craft Lions - レベッカ・スキナー / スーパープライム・フィルムス(Superprime Films) マネージングディレクター、エグゼクティブプロデューサー / 米国

エンターテインメント部門

  • Entertainment Lions - スコット・ドネイトン / ディジタス(Digitas) グローバル・チーフ・クリエイティブ&コンテント・オフィサー / グローバル
  • Entertainment Lions for Music - ポーレット・ロングOBE / ポーレット・ロング 音楽コンサルタント、ボードディレクター  / 英国

エクスペリエンス部門

  • Brand Experience & Activation Lions - ジェイミー・マンデルバウム / VMLY&R チーフ・クリエイティブ・オフィサー / 欧州
  • Creative eCommerce Lions - ダニエル・ボナー / ワンダーマン(Wunderman) グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー / グローバル

グッド部門

  • Sustainable Development Goals Lions - デビッド・ドロガ / ドロガファイブ 設立者、クリエイティブチェアマン / グローバル
  • Glass: The Lion for Change - ジェイミー・ロビンソン / ジョーン・クリエイティブ チーフ・クリエイティブ・オフィサー / グローバル

ヘルス部門

  • Pharma Lions - Robin Shapiro, ロビン・シャピロ / TBWAワールドヘルス グローバルプレジデント / グローバル
  • Health & Wellness Lions - シャヒード・ピーア / ピュブリシス・ライフブランズ、ピュブリシス・リゾルート・アンド・リアル・サイエンス エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター / グローバル

インパクト部門

  • Creative Effectiveness Lions - ジョン・セイファート / オグルヴィ ワールドワイド・チーフ・エグゼクティブ / グローバル

イノベーション部門

  • Innovation Lions - ビル・ヨン / チェイル・ワールドワイド グローバル・クリエイティブ・ディレクター / 韓国

リーチ部門

  • Creative Strategy Lions - トレイシー・フォロウズ / フューチュアメイド(Futuremade) 設立者 / グローバル
  • Creative Data Lions - 佐々木康晴 / 電通 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、デジタル・クリエイティブ・センター長 / 日本
  • Social & Influencer Lions - PJ ペレイラ / ペレイラ・オデール 共同設立者、クリエイティブチェアマン
  • PR Lions - ミッシェル・ハットン / エデルマン マネージングディレクター、グローバルクライアント / グローバル
  • Direct Lions - ニッキー・ブラード / MRMマッキャン チェアウーマン、チーフ・クリエイティブ・オフィサー  / 英国
  • Media Lions - カレン・ブラケットOBE /  WPP UK  カントリーマネージャー 、メディアコムUK・アイルランド チェアウーマン / 英国

(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:水野龍哉)

ロバート・サワツキーはCampaign Asia-Pacificのコンテンツ責任者を務める。

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