ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が加熱式タバコ「glo(グロー)」の新しいキャンペーン動画を公開した。だがその直前に、登場人物の一人を削除していたことがわかった。外されたのは、アフリカ系日本人の書道家。ブラック・ライブズ・マター(BLT)運動の影響を憂慮したと思われる。
「満足を、越えよう 価値観に、挑もう」と題されたこのキャンペーンは、WPPグループのジオメトリー・オグルヴィ・ジャパンが制作。オンラインチャンネルやいくつかのランディングページ上で、6月24日に公開された。
以下がその動画だ。
この中でフィーチュアされるのは、グラフィティアーティストとラッパー。固定概念と闘い、自分らしく生きるための信条を彼らが語る。だが、Campaign Asia-Pacificが関係筋から入手した元の動画には、3人目のアーティスト −− アフリカ系日本人の書道家 −− が描かれていた。そして、書道家は公開直前に削除されたというのだ。
以下が、3人のアーティストをフィーチュアしたオリジナルの動画。
「価値観に挑む」というコンセプトの中で、この書道家は鍵となる役割を担っていた。別バージョンの動画(下)では、彼が「日本人の固定概念に挑戦する」と熱っぽく語る。
「あなたの情熱は何ですか?」と問われた彼は、「書道です」と答える。「筆それぞれの動きにも意味があり、墨にも情熱が伝わる。和紙に書いた一つひとつの文字には、目に見えないたくさんのものが表れる。自分の感情、情熱、ストーリー」。
さらに「自分らしさって何ですか?」と問われると、「日本人としての自分の本質をぶらさず、ずっと大切にしていくこと」。
CampaignはBATとジオメトリーに対し、なぜ彼が最終的に外されたのかと尋ねた。返ってきたジオメトリーのスポークスパーソンの答えは、「書道家をフィーチュアしたコンテンツが、ターゲットとするオーディエンスへの訴求に最適な表現かどうか、現在も検討中」というもの。
関係筋によると、キャンペーンのコンセプトを説明する文書では書道家は「外人」と表現されていたという。
以下が、ジオメトリーのスポークスパーソンの回答だ。「このキャンペーンの意図は、ポジティブに固定概念に挑戦する様々な人々のストーリーを紹介すること。今後も継続的にコンテンツを公開していきます。書道家をフィーチュアしたバージョンは、このキャンペーンの核となる部分。ターゲットとするオーディエンスへの訴求に最適な表現かどうか、現在も検討中です。次の動画はじきに公開する予定で、キャンペーンに登場するキャラクターとは引き続き関係を維持していきます」。
関係筋によると、書道家の削除を主張したのはジオメトリーのインハウスチーム。ジオメトリーは編集を担ったCutters Studios Tokyoに書道家の除去を依頼。Cuttersはそれを拒否したという。
この最終決定は、現在も活発なBLM運動を考慮したものと思われる。キャンペーンのコンセプトが決定したのは数カ月前。撮影は新型コロナウイルスの影響で延期され、5月前半に行われた。
米国で警官による黒人男性暴行死事件が起きたのは5月25日。BLM運動はその直後から世界を席巻した。以来、人種差別主義を容認したり、BLMへの支持を明確にしないブランドは批判を受けている。BATもジオメトリーも、キャンペーンに「外人」を登場させることがあらぬ非難を生むと恐れたに違いない。だが、書道家の削除が消費者にさらに悪い印象を与えることは間違いないだろう。
(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)